特殊な構造の甲をもつカメ目Testudinesに含まれる爬虫類の総称。カメ類は爬虫類仲間では形態,生態ともにユニークな存在で,一般にもなじみが深く,多くの種類が公園の池や家庭で飼育されている。体のつくりは,カメの祖先型の三畳紀中~後期に生息していたプロガノケリス類Proganochelys(サンジョウキガメ)から現在に至るまで,ほとんど変化が見られない。大半が水陸両生で一部が陸生および海生。大部分は甲長15~30cmくらいの小型で,約230種が極地を除く各大陸の熱帯,亜熱帯,温帯に広く分布する。日本には陸に6種,沿岸の海域に5種が生息するが,ほかにペットとして飼われていたアメリカ産アカミミガメ類が脱出して定着したものもある。英名ではおもに海産と少数の川に産する大型のものをturtle,陸産のものをtortoiseと呼ぶが,アメリカでは広くカメ類をturtleとすることが多い。
カメ類の頭骨は堅固で,少数の骨で構成されている。上下顎(じようかがく)には歯がなく,スッポン類以外では角質の鞘に覆われるが,プロガノケリスなど古い時代の化石種には,口蓋部に歯があった。体は背甲と腹甲とが結合した箱型構造の堅固な甲に囲まれ,休眠のときや驚いたとき頭頸(とうけい)部,四肢および尾部を甲内に引っこめて守るが,ウミガメ,オオアタマガメなどのように完全には収納できない種類もある。甲は真皮が骨質化した骨板(皮骨板)と一部の骨格とが結合してできたもので,背甲では脊椎骨と扁平に変形した肋骨,腹甲では鎖骨と間鎖骨とが結合している。背甲は中央部が盛り上がり,両側縁部が下方にのびた橋(ブリッジ)と呼ぶ部分によって腹甲と結合している。橋は水生種など種類により幅の狭いものがある。甲の表面は角質の甲板(鱗板)で覆われるが,スッポンやオサガメの成体のように二次的に退化して鱗板を欠く種類もある。またハコガメ,ドロガメなどのように腹甲の中央部がちょうつがい状になって靱帯で可動的につながるものがあり,腹甲の前後の部分をもち上げて,甲の隙間を完全にふたすることができる。四肢にはおのおの5本の指があり,指先に堅いつめを備え,水生種では指間に水かきが発達する。海生種では前肢が櫂(かい)状,後肢がひれ状に変形し,指趾(しし)の分岐は外から認められず,オサガメではつめがまったく退化している。
現生のカメ類は頭頸部の引っこめ方によって曲頸類Pleurodiraと潜頸類Cryptodiraの2群に大別されている。
曲頸類は頸部を水平方向に曲げ甲の間に隠すが,曲げた頭頸部は完全には隠されず,頭部が外から見える。大部分はまったくの水生で,扁平な甲と極端に細長い頸部をもつが,頸部がそれほど長くない種類もある(ヌマガメモドキ類など)。曲頸類はアフリカ,南アメリカ,オーストラリアに約48種が分布し,ヨコクビガメ科Pelomedusidae(15種)とヘビクビガメ科Chelidae(37種)の2科に分けられ,前者は頸部を少し引き入れてから横に曲げる。
潜頸類はヌマガメ類などカメの大部分を含むグループで,頭頸部を垂直方向にS字状に曲げて甲内に引っこめる。オセアニアを除く世界中に182種ほどが分布し,9~10科に分類されている。中央アメリカ産のカワガメDermatemys mawiは甲長約60cm,1種で1科を形成するが,原始的な種類で,ヌマガメ類の祖先型と考えられている。ヌマガメ科Emydidaeはイシガメ,アカミミガメなどもっともふつうな種類を含む大きなグループで,約87種がオーストラリアとアフリカの一部を除く世界の各地に広く分布する。まったくの陸生であるリクガメ科Testudinidae(約46種)はドーム状の堅固な甲をもち,堅い皮骨板で覆われた桂状の太い四肢で支えられる。陸生ガメの最大種であるゾウガメ類など大型種や,ホウシャガメなど甲に美しい模様をもつものが多い。水底で生活するスッポン科Trionychidae(約23種)や,海洋生活を営むウミガメ科Cheloniidae(6種)およびオサガメ科Dermatemyidae(1種)は,それぞれ生息環境に適応して,甲や四肢などが形態的に特殊化している。
〈鶴は千年,亀は万年〉といわれるが,一般には30~50年のものが多い。飼育記録としてはアルダブラゾウガメの152年(推定180歳),カロライナハコガメの138年,ヨーロッパヌマガメの120年以上というのが知られている。
カメが消極的ともいえる自衛手段しかもたないのに,長い時代を生き抜いてきた理由としては,何よりも堅固な甲の存在があげられよう。その代り体制上や生理的にもかなり無理を生じ,例えば呼吸法も複雑となっている。呼吸は腹腔の前後にある筋肉の作用で体腔内の圧力を増減し,肺の容積を変える方法と,肺を覆う筋肉の鞘がふいごのように働いて,肺の容積を変える方法とが知られている。ほとんど池沼や流れの緩やかな河川の水底で生活するスッポン,カミツキガメ類のような水生種は,水面への“鼻上げ”による肺呼吸のほか,補助的に皮膚呼吸を行う。水中でのガス交換は,咽喉(いんこう)部と総排出腔にある副膀胱(盲囊)内壁の毛細血管が密に分布する部分で行われる。ヌマガメ類など水陸両生種でも,水中で長く行動する場合は皮膚呼吸を行い,冬眠を行う種類は期間中もっぱらこれにより酸素を得ている。一般に行動ののろいカメ類では酸素消費量が少なく,呼吸は緩慢で,とくに冬眠中は著しく代謝が低下する。感覚器官では視覚が発達し嗅覚(きゆうかく)も鋭敏であるが聴覚はにぶい。餌は雑食性で,水生種は魚,甲殻類,昆虫などの動物質,陸生種では若芽,果実など植物質が主食。
カメ類の総排出腔は体軸に平行して開口し,陰茎は二分しない。すべて卵生で,水生種および海生種も水中で交尾し,産卵は陸で行う。雌は水辺の湿った土に後肢で浅い穴を掘り,10~50個ほどを産卵するが,アナホリガメ属Gopherusは砂漠に数mの深い穴を掘って産卵する。ウミガメ類は海岸の砂地に前・後肢を用いて穴を掘り,多いものは1回に200個ほどを産卵する。すべて2~3ヵ月で孵化(ふか)するが,卵のまま越冬するものもある。孵化直前の胚には吻部(ふんぶ)に卵嘴(らんし)を生じ,これで卵殻を破って孵化し,自力で巣穴からはい出す。ウミガメはくずれやすい砂地の穴から出るため,すべての子ガメが一つの集団となってはい上がってくる。
温帯地方では冬季は冬眠を行い,熱帯地方では乾季に水がかれると泥中で夏眠するものもある。また砂漠にすむものは砂中に深い穴を掘って,休眠や産卵の場とする。堅い甲に守られたカメ類には天敵が比較的少ないが,幼体の多くが肉食性鳥類や哺乳類に捕食され,成体でもワニに丸のみされることがある。
三畳紀の化石種プロガノケリスは,頭部と四肢を甲内に引っこめることができなかった。現生種でも原始的な系統である曲頸類は,頭部を完全に隠すことができない。しかし,これら水生種にとって天敵の少ない水中はあまり危険でなく,腹甲も退化して小さく軽くなっている。アメリカ産ニオイガメ類Sternotherusやドロガメ類Kinosternonも腹甲の小さい仲間で,代りに四肢が発達して遊泳力が優れている。そしてちょうつがい状の腹甲をもち上げて,甲の隙間をぴったり閉じることもできる。腹甲がちょうつがい状になっているものには北アメリカ産ハコガメ類Terrapeneや南アジア産アジアハコガメ類Cuoraがあり,八重山産セマルハコガメC.flavomarginataもその一種である。アフリカ産セオリガメ類Kinixysは腹甲ではなく背甲の後部寄りの1ヵ所がちょうつがい状となり,折れ曲がって甲の後方の隙間にふたをする。そして前方の隙間は堅い前肢でふさぐが,リクガメ類のすべては甲の隙間を皮骨板で覆われた柱状の四肢でふさぐ。東南アジア産トゲヤマガメHeosemys spinosaの背甲は側縁部が鋭い棘状(きよくじよう)をしており,自衛に役だつが,アフリカ産パンケーキガメMalacochersus tornieriは,危険になると岩の隙間に隠れて甲を膨らませ,敵に引き出されるのを防ぐ。
カメ類は爬虫類の中では一般にもっとも親しまれ,多くの種類がペットとして飼育される。日本でも古くからニホンイシガメ(子ガメはゼニガメ)やクサガメが公園や寺社の池をはじめ一般家庭で飼育され,近ごろではミドリガメの総称で人気のあるニシキガメ類Chrysemysやハコガメ類など外国産カメ類も,家庭で飼育されるようになった。淡水カメ類の飼育は,水槽内に水場と陸を設け,水深は甲羅が完全に隠れ,水底から楽にくびをのばして呼吸できる程度とする。水温は25~30℃が適温で,とくに子ガメの間は少なくとも毎日1時間ほど日光浴が必要。餌は魚の白身,煮干し,レバー,野菜,果物,市販のペレットなどを混ぜて毎日一度与える。冬眠は水温5~8℃ほどを保てる水中でさせるが,野外の池でも水深があれば水底の泥や落葉の中に潜る。陸ガメには土を入れて少し湿らせ,安定した水鉢を置く。熱帯産の種類には冬季の暖房が必要。カメとその卵は世界の各地で食用に供されるが,日本ではスッポンが高級料理として珍重される。北アメリカ産キスイガメMalaclemys terrapinやアオウミガメも賞味されるが,熱帯地方では各種のカメ,とくに海ガメ類の肉と卵が食用に供される。また工芸品としてタイマイの甲板がべっこう細工として櫛(くし)や笄(こうがい)に用いられ,タイマイ,アオウミガメは剝製や革細工の材料として大量に捕獲されてきた。現在ではウミガメ類やリクガメ類などが〈ワシントン条約〉の適用を受け,保護の対象となっている。また日本を含む各国の政府機関や民間団体でウミガメの保護増殖やスッポンの養殖事業が実施され,個体数の回復が試みられている。
執筆者:松井 孝爾
《礼記(らいき)》に四つの神秘的な動物,四霊の一つとして,麟(りん),鳳(ほう),竜とともに亀が並べられ,亀は甲虫(甲羅をかぶった動物)の長だとされる。亀のもつ霊力はさまざまな面に現れるが,その第1は未来を予知する能力があるとされることである。その予知能力は同じく占いの道具である筮竹(ぜいちく)に勝るとされ,両者の卜占(ぼくせん)の結果が異なったときには亀卜の予兆のほうを取るべきだとされた。殷代に盛んに亀卜が行われたことは,殷墟出土の多量の遺物からも知られ,また周王朝においても先王からの宝亀が伝えられ,政治的な事件や危機の際に亀卜が行われたことが《尚書》や《詩経》に記されている。《周礼(しゆらい)》にも亀卜に関係する職務として大卜,卜師,亀人,人,占人などの官が整備されている。亀卜に際しては,亀甲は単に道具として扱われるのではなく,なお生命のあるもののごとく遇された。卜占に先立って,亀甲に向かって占うべき内容をいいふくめるため〈命亀の辞〉が告げられるのもその現れである。《史記》亀策列伝に,卜占用の亀甲が月旦(ついたち)ごとに清水で清め卵で祓の礼が加えられるとあるのも,その霊力を保存するための呪術であろう。
亀に未来予知の能力があるのは,その長寿と関連するとされる。亀は千載にして1尺2寸の大きさとなる。天子はその1尺2寸の亀を占いに用い,諸侯は8寸,大夫は6寸,士民は4寸と,用いる亀の大きさに身分による差別があって,その大きさは亀の年齢とも関係して予知の能力の差ともなると考えられていたのであろう。あるいは亀は三千歳の寿命を得て神秘な能力を示すともいう。その三千歳の亀を火にあぶり突きくだいて服用すれば,人間も千歳の寿命を得ると《抱朴子(ほうぼくし)》佚文(いつぶん)にいう。亀が長寿であるのは導引など特殊な呼吸法を用いるからだとされる。亀が行う導引のことはすでに《史記》に見えるが,後漢末の雑記集《異聞記》には次のような物語が見える。張広定という人物が戦乱から避難する際に,まだ十分には歩けない幼い女の子を村はずれの墓の中に入れたままにして逃げる。3年の後,もどってきた彼はその骨だけでも捨おうと墓のところにいってみたところ,女の子はまだ生きていた。尋ねてみると,その子は墓中の大きな亀が〈伸頸呑気〉を行っているのをまねて生きのびたのであった。
亀が担うもう一つの重要な神話的な役割は,大地の下にあって大地を支えることであった。馬王堆漢墓出土の帛画(はくが)にも見られるように,この大地の底には水生の動物がいると考えられていたが,日本のナマズの伝承につながる大魚などのほか,亀の一類が地底にあって大地を支えていると考えられる場合もあった。《列仙伝》には鼇(ごう)(大亀)が蓬萊山を背にのせているとあり,また《列子》にも東海の三神山が鼇の上にのるという寓話が見える。より古くは,東海の神山ではなく,この大地自体が亀の背に支えられているという伝承があったものであろう。《淮南子(えなんじ)》に女媧(じよか)が鼈(スッポン)の足を断って四極(大地の端にある4本のむね柱)を立てたとあるのも同じ伝承につながる。また道教経典の中で西王母が〈亀山〉にいるとされるのも,西王母の大地を鎮める女神としての性格と結びついて,大地の下に亀がいるという観念の反映であろう。沂南(きなん)の画像石墓では,神山の上に座る西王母の下に亀が描かれている。
なお,元,明のころより,亀は,妻の淫奔(いんぽん)を阻止できない夫の意として,ののしりのことばに用いられるようになることが,《陔余叢考》諱亀の条などに詳しい。近世になり亀の価値が,このようにほとんど逆転することについてはいくつかの説明があるが,その基礎にあるのは次のような観念の変質であろう。すなわち四霊の後をうける四神のうち,北方に位置する玄武が亀と蛇とがからみ合った形で描かれていて,その背後には冬の季節に世界の復活をもたらす宇宙的な聖婚が行われるという観念が存在したことをうかがわせるが,その聖婚の性的な意味が俗化して淫奔と受けとられるようになった。これが亀に対する価値観の転換をもたらしたと考えられるのである。
執筆者:小南 一郎
日本では亀は長寿の象徴であり縁起のよいものとして鶴と並べて祝いの飾りに用いられる。これを長寿とするのは冬季地下に入って春に出現するのを再生と考えたからであろう。この背に緑藻が付着しているものは蓑亀(みのがめ)と呼ばれてとくに喜ばれた。海亀は古くから海の神の使者と考えられ,浦島太郎の伝説のようにこれによって海神の宮に往復しうると考えられた。とくに南海に多く見られる青海亀は漁民に珍重され,これを見ると酒を飲ませて放ち豊漁を祈る。海浜にきて砂中に産卵するが,その場所がなぎさに近いか遠いかでその年の波の高さ,すなわち荒天の有無を判断し,産卵の場所にしめ縄を張って孵化,成育を祈らせる土地も淡路島などにあった。他方で,近世この甲に加工して櫛,笄(こうがい)などをつくり,南洋産の玳瑁(たいまい)甲の模造品とするようになった。また,淡水産の亀であるスッポンは精力をつけるとして食用とされるが,甲羅が円形なので,形が似ながらまったく異なるもののたとえとして〈月とすっぽん〉のことわざがある。
執筆者:千葉 徳爾
亀はその特殊な形状,強い生命力などからして,世界各地で種々の象徴的意味を担った。インドの世界創造神話(《シャタパタ・ブラーフマナ》Ⅶ:5:1:2)では,創造者のプラジャーパティPrajāpatiによってつくられた亀の腹の甲が地に背の甲が天に,亀の体は大気になったという。丸く盛り上がった背の甲は天空を,平たい腹の甲は地を思わせるからである。ビシュヌ神の十の化身の一つクールマアバターラは亀(クールマ)の姿をとる。またインドでは亀はヤムナー川の女神の乗物の役をも務めている。中国,韓国では亀跌(きく)と称して石碑の台に亀の石彫を用いるのがふつうである。中国では亀は神亀,霊亀などと称され,その甲の文様(亀甲紋,亀背紋)は吉祥の意味をもって衣料,家具その他に多用される。古代西アジアの陶器画に描かれる亀は,おそらく水の象徴であろう。北アメリカの原住民の神話にも亀は主要な役を担っている。
執筆者:柳 宗玄
《イソップ物語》の〈兎と亀〉の話が示すように,亀はもっぱら堅実・勤勉の象徴とされるが,同書には鷲の忠告を聞かず飛ぶことを望んで墜落した頑固者の亀の話もある。図像表現では豊饒(ほうじよう)多産のほか,特異な寓意として女性の貞節(家=甲羅から出ず寡黙)を表す。なお,俊足のアキレウスがのろい亀を追いこせないというパラドックスは,エレアのゼノンの名とともに有名。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
爬虫(はちゅう)綱カメ目に属する動物の総称。この目Testudinesの仲間の胴は箱形の堅固な甲に包まれる。極地を除いて世界中に分布し、約220種と多くの亜種が知られている。完全な陸生から水陸両生、水生、海洋生まであり、日本には陸に6種、沿岸の海に5種が分布する。
[松井孝爾]
カメは頭骨の特徴から、ほかの爬虫類と分離したグループ(無弓亜綱)を形成している。頭骨は堅固な少数の骨で構成され、側頭部が完全に覆われて方骨が頭蓋(とうがい)に固着している。上下のあごには歯がなく角質の鞘(さや)に覆われているが、スッポンでは肉質の唇で覆われている。しかし化石種には歯がみられる。堅固な甲に囲まれたカメの体の構造は、激しい生存競争のなかで獲得した特有の形質で、中生代の祖先型から大きな変化がなく、いわば現生種のすべてが「生きている化石」といっても過言でない。甲は背甲と腹甲とが結合した箱形で、驚いたり休息のとき頭頸(とうけい)部、四肢および尾部を甲内に引っ込めて身を守るが、ウミガメ、オオアタマガメなどは完全には収納しない。甲は真皮が骨化した板状の骨板(皮骨板)の結合からなり、背甲ではこれに脊椎骨(せきついこつ)と扁平(へんぺい)に変形した肋骨(ろっこつ)とが固着して甲を強化し、腹甲には鎖骨と間鎖骨とが結合している。背甲と腹甲とは、腹甲の両側縁部が伸びた橋(ブリッジ)とよばれる部分で結合するが、橋の幅が狭いものや、オサガメやスッポンのように二次的に甲が遊離して結合しないものもある。甲の表面は表皮の変形した角質の甲板(こうばん)(鱗板(りんばん))で覆われ、各甲板の縫合部と骨質板のそれとは互いにずれて強度を増しているが、スッポンやオサガメの成体などでは二次的に退化して甲板を欠く。背甲の形は種によってさまざまで、リクガメではドーム形で高く盛り上がるが、水生種は比較的扁平である。腹甲は平らで水生種では幅が狭くなり、ドロガメ、ハコガメ、ハコスッポンなどでは中央部が蝶番(ちょうつがい)状で、靭帯(じんたい)によって可動的につながり、頭頸部や四肢を引っ込めたあと、甲を持ち上げて甲のすきまを蓋(ふた)して守る。セオリガメ属Kinixysでは背甲の後半が蝶番状になっている。頸椎は8個、脊椎は10個で、胸骨を欠く。肢帯は甲の内側にあり、肢帯が肋骨よりも内側に入るという構造は、ほかの脊椎動物にはみられない。四肢は五指性で指先につめを備えるが、つめの形状や数は種によって異なり、水生種には指間に水かきが発達する。四肢はリクガメでは柱状、まったくの水生種やウミガメでは櫂(かい)状となる。尾は一般に短いが、雄のものは雌よりも太くて長く、総排出腔(こう)が背甲の縁よりも外に位置するものが多い。
カメは堅固な甲で自衛されることにより長い時代を生き続けてきたが、その反面、呼吸法が複雑であるなど生理的に不便を強いられている。呼吸は、腹腔の前後端にある筋肉の作用で体腔内の圧力を増減して肺の容積を変える方法と、肺を覆う筋肉の鞘がふいごのように働く方法とが知られている。淡水生の種では、毛細血管が密に分布する咽喉(いんこう)部と総排出腔の副膀胱(ぼうこう)(盲嚢(もうのう))内壁によるガス交換で補助的に呼吸を行い、スッポンのようにときどき長い頸部を伸ばし吻部(ふんぶ)を水面上に出して呼吸する。感覚は視覚と嗅覚(きゅうかく)とが発達するが聴覚は鈍い。
[松井孝爾]
カメ類の起源を示唆するものに、ペルム紀(二畳紀)の小形爬虫類エウノトサウルスEunotosaurusがあり、三畳紀中期には両亀類(りょうきるい)とよばれるサンジョウキガメProganochelysが出現した。両亀類は現在知られているカメ類最古の化石種で、すでに胴は背腹甲で囲まれ、頭部を構成する骨の数が減り、口蓋(こうがい)部には歯を残すものの、顎骨(がくこつ)では歯が消失していた。しかし頭部と四肢を甲内に収納できなかったようである。現生のカメ目は頭頸部の引っ込め方によって、潜頸亜目Cryptodiraと曲頸亜目Pleurodiraの2群に大別される。
[松井孝爾]
ジュラ紀後期に出現し高度に分化した一群で、現生種の大半が含まれ、甲長11~125センチメートル(オサガメでは2メートルに達する)、頭頸部を垂直方向にS字状に曲げて甲内に引っ込める。オーストラリアを除く世界各地に分布し、4上科、9ないし10科に分類される。
(1)カメ上科 もっとも大きなグループで、頭骨の側頭部に後縁からの切れ込みをもち、四肢は歩行型で、3科が含まれる。カミツキガメ科Chelydridaeは淡水生の大形な仲間で、腹甲が十字形で小さい。カミツキガメ、ワニガメ、および甲長ほどもある大きくて堅い頭をもつオオアタマガメを含む。ヌマガメ科Emydidaeは形態、生態ともにもっとも典型的なカメのグループで、約25属80種がオセアニアとアフリカの一部を除く世界各地に分布する。本科はヌマガメEmys、ニシキガメChrysemys、アメリカハコガメTerrapeneなどの各属を含むヌマガメ亜科と、イシガメMauremys、クサガメChinemys、セダカガメKachuga、ヤマガメGeoemyda、セマルハコガメCistoclemmysなどの各属を含むバタグールガメ亜科の2群に大別される。大半が甲長15~30センチメートルほどで、水陸両生生活を営むが一部は森林にすんでほとんど水に入らない。リクガメ科Testudinidaeはまったくの陸生で、リクガメの最大種であるゾウガメをはじめ大形種が多く、オセアニアを除く世界各地に約10属40種が分布する。背甲はドーム形で高く盛り上がり、柱状で硬い鱗板に覆われた四肢で、頭頸部を引っ込めたあと甲のすきまをふさぐ。
(2)ウミガメ上科 白亜紀後期から出現し、頭骨側頭部が完全に覆われて切れ込みをもたず、頭部と四肢は甲内に完全には引っ込まない。海洋性で、四肢はひれ状または櫂状である。ウミガメ科Cheloniidaeは世界の暖かい海に広く分布し、アオウミガメ属Chelonia2種、タイマイ属Eretomochelys1種、アカウミガメ属Caretta1種、ヒメウミガメ属Lepidochelys2種のうち、日本沿岸にも4種が分布し、ヒメウミガメ以外が産卵に上陸する。
(3)オサガメ上科 オサガメ科Dermochelyidae1種からなり、背腹甲の骨板が二次的に退化消滅し、モザイク状の小骨片の集合で甲が形成される。甲の表面は甲板を欠き、弾力性に富んだ滑らかな革状の皮膚となる。四肢にはつめを欠く。
(4)スッポン上科 頭部の動脈の形状の差異によって他と分けられ、4科が含まれる。スッポン科Trionychidaeは背腹甲が固着せず骨板は退化的で、表面には甲板を欠く。上下のあごの縁は角質の鞘に包まれず肉質の唇で覆われている。スッポンモドキ科Carettochelyidaeは1種がニューギニア島に分布する原始的なスッポンで、甲が箱形で堅い。カワガメ科Dermatemydidaeは原始的な大形種で1種のみ中央アメリカに分布し、類縁の化石種はかつて世界に広く分布していた。橋の部分に縁下甲板をもつ。ドロガメ科Kinosternidaeは20種が南北アメリカに分布し、腹甲が小さくて中央が蝶番状につながる。
[松井孝爾]
白亜紀後期に分化した一群で、長い頭頸部を水平方向に横に曲げ、背甲と腹甲の間に隠すが、一部が外からみえる。2科に分けられ、ヨコクビガメ科Pelomedusidaeはアフリカ、南アメリカに20種が、ヘビクビガメ科Chelyidaeは南アメリカ、オーストラリア、ニューギニア島に30種が分布している。いずれも淡水生で、甲長15~100センチメートル、甲が平たく指間に水かきが発達する。
[松井孝爾]
カメの大半は昼行性で、池沼、湖、河川の水辺にすみ、日中は岸で日光浴をすることが多いが、驚くとすぐ水中に逃れる。指間には水かきがあって遊泳が巧みであり、スッポン、カミツキガメのようにほとんど水中で過ごすものもある。またウミガメは海洋に分布するが、すべて産卵は陸で行われる。リクガメはまったくの陸生で乾燥地にすむものが多く、アナホリガメ属Gopherusのように砂漠に巣穴を掘るものもある。浅い水に入ることもあるが泳ぎはできない。餌(えさ)は主としてリクガメが植物質、ほかは淡水生物など動物質を好むが、雑食性も少なくない。冬季の寒冷地では冬眠を行い、熱帯地方の乾期では水がかれた泥中や砂中の穴で仮眠する。天敵は少ないが子ガメは肉食哺乳類(ほにゅうるい)や鳥類の犠牲となり、成体もワニに捕食される。
[松井孝爾]
カメの総排出腔は体軸に平行で、雄の陰茎は単一である。すべて卵生で、水生種も海生種も陸の砂地に穴を掘って産卵する。卵数は10~50個ほどであるが、多いものではウミガメが1回に200個に達する。孵化(ふか)には1~3か月を要し、胚(はい)の吻端に角質の卵歯(卵嘴(らんし))を生ずるものはこれで卵殻を破って出る。寿命は長く、リクガメには100年を超えるものがある。
[松井孝爾]
ニホンイシガメやクサガメは多くの池で飼われるほか、一般家庭でペットとして人気があり、最近ではミドリガメの名でよばれるニシキガメ属Chrysemysなどの外国産も多く飼育される。その一つミシシッピアカミミガメC. scripta elegansは日本の各地で野生化して定着している。飼育にはアクリルまたはガラスの水槽を用いる。小石を敷き詰め平らな石を置いて陸をつくり、水はカメの甲をすこし越える程度に入れる。水温25~30℃が適温で、35℃を超えないよう注意する。日光浴は体温上昇、ビタミンDによる骨質の形成、甲の軟化や病気予防のため不可欠で、容器を日当りのよい場所に置くのが望ましい。ただし体温が上昇しすぎないようにかならず板を置くなどして日陰をつくる。餌はドジョウ、小エビなどの魚貝類、鶏肉、レバー、コマツナなどで、市販のペット用ペレットでも十分飼育できる。子ガメにはカルシウム、ビタミンを補給し、とくに日光浴させることが必要である。冬眠時は容器に水を入れたまま、平均5~10℃ぐらいの室内に置く。水深の深い池では水底の泥中でそのまま越冬する。
[松井孝爾]
カメはペットとして一般に愛されるほか、たとえば日本の漁師には網にかかったウミガメに酒を与えて海に帰し保護する習わしがある。他方、利用面では世界各地で肉と卵が食用に供され、日本でも賞味されるスッポン料理や北アメリカ産キスイガメMalaclemys terrapin料理が知られている。ウミガメは産卵地で卵と肉が食用となり、とくに卵は現地住民の重要なタンパク源となっている。しかし乱獲の結果ウミガメの各種とも減少し、産卵地では政府機関などの手によって保護増殖が実施され、日本でも父島や沖縄でアオウミガメの増殖が試みられているほか、スッポンも世界各地で人工増殖されている。また、タイマイのべっこうは古くから工芸用に用いられ、剥製(はくせい)もつくられたが、現在ではウミガメは「ワシントン条約」の保護動物の対象として利用が禁止されている。ゾウガメをはじめ一部の陸生などのカメも同様に保護の対象となっている。
[松井孝爾]
中国最古の経典『書経(しょきょう)』に、「霊亀(れいき)は玄文(げんもん)五色にして神霊の精なり。上は円くして天を法(かた)どり、下は方にして地を法どる」と記されているように、神秘的なカメは宇宙の縮図、象徴とみなされていた。同様の考え方はアフリカにもあり、たとえば西アフリカの農耕民族ドゴンでは、カメは創造神ノンモの化身とされ、亀甲(きっこう)の矩形(くけい)は原初大地に刻まれた耕地の区画、鋸歯(きょし)状の線は水の流れや地霊としての蛇(じゃ)を表した。やはり西アフリカの農耕民族であるバンバラでもカメは天と地の象徴とされ、少年の成人儀礼に用いられる。このような宇宙の縮図としてのカメの観念は、古代中国で亀甲が卜占(ぼくせん)に用いられたり、王権の象徴と結び付くことの背景ともなっている。17~18世紀に栄えたアフリカのルンダ王国(現コンゴ民主共和国、旧ザイール)でも、王宮はカメの姿をかたどっていた。
神話や民話にもカメは登場する。インドのビシュヌ神は、神々が不死の甘露を求めて乳海を曼陀羅(まんだら)山で攪拌(かくはん)するとき、大海の底でカメに変身して、それを支える軸となったとされている。またカメのなかでもウミガメは、とりわけ海と陸を結び付ける媒介者とされるが、そのことは日本の御伽草子(おとぎぞうし)『浦島太郎』の話にもうかがえる。アフリカのバントゥー系社会の民話では、カメは知恵ある媒介者として、神から教えられた食用の実のなる木の名を他の者に伝えるものとして登場し、一方でゾウやヒヒをだますトリックスターとしても活躍する。
[渡辺公三]
海から陸にあがるカメは、異郷と人界とを結ぶものと信じられてきた。浦島の竜宮入りのことはもっともよく知られているが、『丹後国風土記(たんごのくにふどき)』逸文によると、浦島子(うらしまのこ)に釣られたカメがただちに美女と化して、蓬山(ほうざん)にこれを導いたという。『浦島太郎』では、浦島太郎に釣られたカメが、いったん海中に帰されてから、改めて美女と化して竜宮城にこれを迎えたようにつくられている。そのほか『日本霊異記(にほんりょういき)』や『今昔物語集』などにも、海にカメを放ったために、これに命を助けられたということが記されている。さらに、「海月(くらげ)骨なし」「竜宮女房」「竜宮童子」「大歳(おおどし)の亀(かめ)」などさまざまな昔話を通じて、カメという動物が竜宮の使者の役を担っていたと知られる。とくに「大歳の亀」では、大歳(大みそか)に竜宮に餅(もち)を搗(つ)く杵(きね)をさしあげて、その返礼にものいうカメを授けられ、それによって多くの金を得ることができたと語られている。
今日でも「鶴は千年、亀は万年」というように、この二つの動物は、長寿でめでたいものと認められている。漁師がカメをとらえると、酒を飲ませて放してやるが、そうすると運がよくなるとも、魚が多くとれるとも伝えられる。反対に、カメを殺すと家が絶えるとか、カメを家に入れると火事がおこる、カメを食べると目がつぶれるなどと戒められている。また、古くから亀卜(きぼく)と称して、カメの甲を焼いて、その割れ方によって吉凶を占うことが行われていたが、今日でも、カメが浮き上がると天気が悪くなるとか、海辺に卵を産むと大風が吹かないなどとカメの行動によって天候の予知を行うことが少なくない。民間療法では、カメの蒸し焼きを食べると寝小便が治るとか、塩漬けを食べると下痢が治るなどといわれている。
[大島建彦]
『『小学館の学習百科図鑑36 両生・はちゅう類』(1982・小学館)』▽『『学研の図鑑17 爬虫・両生類』(1987・学習研究社)』▽『中村健児・上野俊一著『原色日本両生爬虫類図鑑』(1963・保育社)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…親鳥のくちばしの色や模様が雛の開口のリリーサーになり,また開いたときのくちばしの形や内面の色などが親鳥の給餌行動のリリーサーになっている場合が多い。 爬虫類では,スッポンやオサガメなど体表に角質をもたない種を除くカメ類がくちばしを備えている。カメの顎骨は鳥のように細長く突出せず,キネシスをもつものでもないが,歯をまったく備えず,代りに縁のとがった1枚の角質に覆われている点で鳥と共通している。…
… 両生類と鳥類には甲といえるものはない。爬虫類で甲をもつものはカメ類だけである。現存の大多数のカメの体はハコフグと似て,首,尾,四肢の出るところのほかはほとんど外骨格のがんじょうな箱で覆われ,それがさらに角質の鱗板に包まれている。…
…なお,現在も妙見社の多く分布する相馬地方では,勝善神と習合して牛馬の守護神となっており,熊本県八代市の妙見宮には中国より漂着したという伝説が伝わり,熊本県下の妙見社は水神的要素が強い。妙見社をまつる地域でカメを飼わないとされているのは,四神のうち北方守護神が,カメとヘビの合体した玄武であることによる。北極星【中尾 尭】【佐野 賢治】。…
※「カメ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
個々の企業が新事業を始める場合に、なんらかの規制に該当するかどうかを事前に確認できる制度。2014年(平成26)施行の産業競争力強化法に基づき導入された。企業ごとに事業所管省庁へ申請し、関係省庁と調整...
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