翻訳|curtain
窓や出入口を覆い、部屋の間仕切りとして吊(つ)るす幕類。日光の調節、目隠し、防暑、保温、防音などの目的に使うが、ガラスや壁の硬い感じを和らげ、色彩を豊かにするなど、室内装飾品として果たす役割も大きい。洋風生活の普及に伴い重要な室内要素の一つになってきた。日本の古い住まいのなかで使われていた帳(とばり)や帷子(かたびら)、および御簾(みす)と併用した布帛(ふはく)などはこれにあたる。窓にガラスが使われる以前は、住まいを囲むためのカーテンは不可欠のものであった。
[加藤 力]
目的と材料によって、(1)暗幕、(2)厚地カーテン、(3)薄地カーテン、(4)レースおよびケースメントcasementに分けられる。暗幕は遮光のみを目的とし、暗室などに用いる。厚地カーテンを普通ドレープdrapeという。糸質が太く、織目の密度も大きいので、遮蔽(しゃへい)、保温、間仕切りに適する。レースカーテンと二重にして吊るすことが多い。薄地カーテンはプリント物、クレトン地、無地の変わり織などで、光の調節に広く用いられる。レースは薄い透視性のある織物である。ケースメント(粗目(あらめ)地カーテン)はレースを厚手にしたもので、北欧の風土のなかから生まれた。いずれも軽快で外光を和らげ、室内側からは見通せるが、外部からは見えない利点をもつため四季を通じて使われる。材料には麻と綿の混紡のほか合成繊維が使われる。
[加藤 力]
カーテンを適当に利用すると、部屋の冷暖房の負荷が10~15%程度減少する。そのため最近では省エネルギーの面からも注目されるようになった。また騒音を吸収し、反射音を少なくする効果もあって、コンクリートの室内を感覚的に和らげる効用についてもカーテンの有用性が見直されてきている。なお、消防法の改正に伴い、高層ビルやホテルなどの特定の建物での防炎カーテン(不燃繊維や難燃繊維に加工して防炎基準に合格し、認定のラベルが貼(は)られたもの)の使用が義務づけられている。
[加藤 力]
一般的な形は、いちばん外側に日よけと目隠しのためのブラインドなどを取り付け、次にレースなどの薄地のカーテンを吊り、内側に厚地のカーテンを吊る。開き方には、片開き、両開き、中央部で交差させて二重にするものなどがある。上部にバランスとよぶ飾りをつけて吊り元を隠し、裾(すそ)には房やフリルをつけるのがヨーロッパ風の伝統的な形式であるが、最近ではインテリアの単純化にあわせて飾りを省略する場合が多い。
カーテンの美しさは、柄(がら)や色、吊り方のほかに、ひだの取り方によって左右されるところが大きい。ひだの形には、片ひだ、つまみひだ、箱ひだ、二重箱ひだ、ギャザーなどがある。
[加藤 力]
窓枠や天井に直接取り付ける方法と、カーテンボックスをつくり、その中に収める方法とがある。カーテンを吊るには金属の丸パイプや木の棒が使われていたが、今日ではカーテンレールがそれにかわった。カーテンレールには種々の構造のものがあり、いずれもランナーで軽く開閉できるようになっている。
[加藤 力]
幅は窓幅の1.5~3.0倍が必要である。普通は2倍程度である。長さは窓高より15~45センチメートル程度長めにする。裾の折返しは10センチメートル程度、床までのあきは3~5センチメートルがよい。
[加藤 力]
日光のとり入れの調節や遮へい,保温,断熱,室内の間仕切りおよび装飾などを目的とした幕類のこと。カーテンの起源は古代エジプト時代にまでさかのぼる。テーベの古代エジプト貴族の邸宅には,部屋の出入口に葦やパピルス製のスクリーンがつるされたが,これは間仕切り用であった。また,6世紀初期イタリアのラベンナに建立されたサン・タポリナーレ寺院の壁面モザイクには,バシリカ形式の宮殿の正面にカーテンレールにランナーでつるした豪華なオリエント調のカーテンが描かれているが,これも間仕切り用とみられる。10世紀ころの封建領主の館には,寝室というものがとくに設けられていなかった。そこで,領主家族が使う広い部屋の一隅に高い天井からリンネルなどの間仕切り用の布をつるして寝室コーナーを設けた。14世紀後期には領主館の家族用の広間に隣接して寝室が設けられ,四本柱と天蓋を備えたベッドが現れ,保温とプライバシーを守るために天蓋からカーテンをつるした。このベッド・カーテンの出現によって,間仕切りカーテンの使用は減少する。しかし領主館の窓は木枠に油紙をはった簡素な構造であったので,すきま風を防ぐためにウィンド・カーテンが備えられるようになった。17世紀になるとウィンド・カーテンは寝室,衣装部屋,食堂,謁見の間など重要な部屋の窓に限って使用された。しかし,これらはすべて片開き方式であったため,部屋のインテリア全体のバランスは悪かった。そこで17世紀中期には,窓の中央で左右に分かれる2枚1組の形式のものが考案された。ロンドン郊外にあるダイサート伯のバロック様式の居館ハムハウスの家財目録によると,この館には1640年ころにはすでに両開き形式のカーテンが設備されていたという。17世紀後期になると,この館の広間,寝室,婦人部屋などの扉や出入口の前にもカーテンがつるされるようになった。これらは間仕切りカーテンの一種とみられるもので,とくに壁掛けやじゅうたんのデザインとの調和が重視され,厚地のタピスリーなども多用された。ウィンド・カーテンは冬季の保温のためにウール地のものが使用されたが,他方で大広間などのように装飾性が重視されるところでは,色あざやかな紋織のリンネルなども用いられた。
18世紀のフランスやイギリスなどの上流階級の邸館のウィンド・カーテンには高価なダマスク織や琥珀織の真紅の絹地が愛用されたが,都市の中産階級の邸宅ではインド更紗やリンネルなどの実用的で軽快なものが使用されていた。また18世紀から,上流階級の邸館で,強い陽光や世間の目をさえぎるため,窓の下半分にモスリンやリンネルなどの薄い生地で目隠し用のカーテンを備えることが流行した。ベルサイユ宮殿のルイ15世の居室にも華麗なダマスク織の目隠しカーテンが設備されていた。また,いわゆるベネチアン・ブラインドVenetian blindは16世紀末にフランスで簡単な構造のものが考案され,ジャルジーjalousie(通風格子)と呼ばれたが,18世紀中期にはしだいに改良が加えられ,アメリカでベネチアン・ブラインドと名づけられ,西欧各地にも普及した。以上のような経過をたどって西欧では18世紀後期までにカーテンとブラインドの形式がほぼ整えられたのである。
ところで,現代のカーテンの素材は毛,綿,麻,絹などの天然繊維とレーヨン,ポリエステル,アクリル,ビニロン,ガラス繊維などの化学繊維に大別される。カーテン地には厚地(ドレープ),薄地,レース,ケースメントなどの種類があり,部屋の機能を考慮して,ふさわしいカーテン地が選定されている。
執筆者:鍵和田 務
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…物を隔てるため,あるいは装飾のためなどに用いられる,横または縦に広く長く縫い合わせた布をいう。ことに演劇上演の場において,舞台のどこか(多くは舞台の前面)につるされた布を指していい,英語ではcurtainとよばれる。また演劇用語では,戯曲の一定の構成単位(英語ではact)も,同じ〈幕〉という言葉でよばれており,このような用語が定着したのは,多くの場合にこの構成単位ごとに,実際の幕が引かれるという事実によっている。…
※「カーテン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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