日本大百科全書(ニッポニカ) 「ガマ(蒲)」の意味・わかりやすい解説
ガマ(蒲)
がま / 蒲
[学] Typha latifolia L.
ガマ科(APG分類:ガマ科)の多年草。大形の湿生植物で、池や川の縁など淡水域の泥地に群生する。根茎は太く、泥中を横走し、草丈は1~2メートル、茎頂に1個の花穂ができる。葉は線形、茎より長く伸び、幅約2センチメートル、質は厚い。花穂は円柱形、雄花部と雌花部は連続し、雄花部は長さ7~12センチメートル、雌花部は長さ12~18センチメートルである。雄花には普通3本の雄しべと数本の剛毛状の花被片(かひへん)、雌花には1本の雌しべと20本ほどの剛毛状の花被片がある。花粉は4個ずつ合生する。他種との雑種をつくることがあり、コガマとの雑種はアイノコガマとよばれる。北半球およびオーストラリアの熱帯から温帯まで広く分布する。
果穂を集めたものを蒲綿(ほわた)といい、ふとんの綿としたり火打石の火口(ほくち)として使った。また葉や茎から簾(すだれ)や蓆(むしろ)をつくったので御簾草(みすぐさ)の古名がある。
[清水建美 2019年6月18日]
文化史
俗に「因幡(いなば)の白兎(しろうさぎ)」は、その傷ついた体をガマの花穂(果実の綿)でくるまって治したと思われているが、『古事記』によれば、大国主命(おおくにぬしのみこと)が兎に与えたのは蒲黄(ほおう)となっている。これはガマの花粉で、止血作用があり傷薬とされるため、『古事記』のほうが合理的な解釈である。漢方薬として中国の『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』(6世紀)に載り、ギリシアのディオスコリデスの『薬物誌』(1世紀)にもやけどの薬として出ている。ケニアなどでは地下茎を食用にし、古来インドではその煎液(せんえき)を頭痛やリウマチの薬に使った。綿毛は枕(まくら)やマットレスの詰め物にされるほか、台湾のヤミ族では船板のパッキンに利用した。
[湯浅浩史 2019年6月18日]