企業結合のうち、異なった業種に属する多数の大企業が資本的に結合した総合的な企業グループをいう。アメリカにおいては利益集団interest groupといわれる結合がこれにあたる。また、日本の財閥はコンツェルンの日本的形態として有名である。コンツェルンは資本的な結合体ではあるが、各所属企業は法律上は独立した法人企業の形態を保っており、これを株式所有、融資、人的結合などの方法により統括している。その統括の形態から大きく次の2種類に分けられる。
(1)持株会社方式によるコンツェルン 傘下の企業の株式を所有し、支配するための持株会社holding companyを統合の中心とするコンツェルンで、わが国の財閥はその典型であった。この場合の持株会社には純粋持株会社と事業持株会社とがある。前者は他に事業を営んでいない持株会社で、後者は他に有力な事業を営んでいる持株会社である。持株会社に基づくコンツェルンは、統括の中核である持株会社を中心として、傘下の企業を一元的に支配する形態であるから、その統制、管理が明確で強固であるという利点をもっている。多くの場合、持株会社である本社は、傘下企業の役職員の任免、重要な投資、新分野への進出などについて統一的な権限をもっている。しかしその反面、総合的な独占体としての活動が外部に明確に表れるので、世人の批判を受けやすい。また、コンツェルン内での自己金融的な傾向が生じ、株式の募集や銀行融資の受入れなど社会的資本を動員吸収する機能が不十分になったり、経営者としての人材を広く求める機会も十分でなくなる傾向が生ずる。したがってこの形態のコンツェルンは、時代の進展とともに、しだいに、よりルーズな次の形態に移る傾向が生ずる。
(2)インタレスト・グループ この方式のコンツェルンは現代アメリカに多い形態で、金融グループといわれる場合もある。支配の中核と所属企業の範囲が明確でなく、株式の相互所有、役員の兼任interlocking directoratesなどの方法によって複雑な結合関係を保った企業グループである。持株会社に基づくコンツェルンに比べると、統一した経営体としての行動をとりにくくなり、グループに属する企業が独自性を強めたり、他のグループに移動したり、または、他のグループとの共同支配企業が生ずるなど、流動的で複雑な構造をもっている。反独占政策が強化される一方、技術変革の進展による産業構造の変化によって、剛構造的な構造をもつ持株会社方式によるコンツェルンよりも、弾力的な結合体であるインタレスト・グループのほうが適応しやすく、しだいにこの方向へ移行する傾向が生じている。日本の企業集団は、戦前における剛構造的な財閥コンツェルンから、戦後、より柔軟なインタレスト・グループ的形態への変化を示した好例である。
本来、コンツェルンという語がドイツ語であることから推察されるように、20世紀初頭からのドイツにおいては、有名なスティンネス・コンツェルンをはじめ、化学工業のイー・ゲー・ファルベン・コンツェルン、鉄鋼・兵器工業のクルップ・コンツェルン、鉄鋼産業のマンネスマン・コンツェルンなど多数の巨大コンツェルンの形成をみた。これらのコンツェルンは、第二次大戦後、連合国の独占解体政策によって分割されたが、西ドイツ経済の復興に伴い、多くのコンツェルンが復活再編成されるに至っている。
アメリカにおいては、持株会社に基づくコンツェルンなどのような剛構造体よりも、より緩やかな結合体としてのインタレスト・グループの形態をとっている場合が多いが、モルガン・グループ、ロックフェラー・グループ、メロン・グループ、シティバンク・グループなど巨大グループによる経済力集中が際だっている。その性格からいうと、モルガン・グループのような金融機関を中心とした金融グループと、スタンダード系石油会社を中心とするロックフェラー・グループのように産業コンツェルンの性格を有するものとがある。
このように、コンツェルンは、多数の巨大企業を支配する総合的企業結合体として、現代経済において無視することのできない大きな力をもっている。もちろん、カルテルやトラストなど同業種に属する企業の水平的結合と異なり、異業種間企業の結合体であるから、それ自体が独占的結合としての性格をもっているわけではない。しかし、巨大な企業グループとしての経済力は、集合的な威力を有し、他の単独企業にはない経済的実力を発揮する。したがって、そのグループとしての資本力、技術開発力、市場開拓の力などの優越した経済力は、市場において単独企業を圧迫したり、新分野への進出についてもより有利となるなど、いわゆる参入阻止力としての独占力を有している。
このように、コンツェルンは企業結合の最高の形態とされ、銀行や保険会社など金融機関や、巨大な製造会社を多数擁している場合が多く、金融独占資本の具体的形態とされる。しかし、その巨大で総合的な経済力が発揮される場合の弊害をいかに防止するかの面においては、独占禁止政策上、有効な規制方法がなく、今後の政策上の課題とされている。
[御園生等]
『有沢広巳・美濃部亮吉編『経済学全集47・48 カルテル・トラスト・コンツェルン』(1931・改造社)』▽『上林貞治郎・井上清・儀我壮一郎著『現代企業形態論』(1962・ミネルヴァ書房)』▽『平和経済計画会議独占白書委員会編『国民の独占白書2 企業集団』(1978・御茶の水書房)』
元来ドイツ語で,強いて訳せば企業の集中ないし連合体になるが,原語がそのまま用いられることが多い。カルテル,トラストと並んで企業集中の一形態であるが,トラスト(とくにアメリカのトラスト)とは明確な区分は困難である。コンツェルンは,異なった産業に属する企業が株式所有を通じて結合したコングロマリット的企業集団であり,産業の競争制限を直接の目的にしているとは限らない。むしろ,巨大な集団としての種々の威力によって,個別企業ではもちえない政治力・経済力を背景に行動する場合が多い。コンツェルンでは,結合された企業は多かれ少なかれ,実質上は独立性を有しないが,法律上は独立した企業として存続する。通常,最高持株会社を中心にしたピラミッド型支配構造を形成しているが,株式相互持合い(株式相互保有)等による交錯的な形態もある。概念的に分類すれば,目的の違いによって,経営合理化的コンツェルン,産業独占的コンツェルン,利潤増大・安定化的コンツェルンがあり,また支配会社の違いによって産業資本型コンツェルンと金融資本型コンツェルンがある。しかし,現実のコンツェルンは,これらの性質の複数を兼ね備えており,形式的な分類は困難である。
コンツェルンが最も著しく発達したのは,第1次大戦後のドイツであった。戦前のカルテルに代わって,資金節約的な企業結合が図られたのが,ひとつの理由であるといわれている。代表的なものに,1925年に設立されたイーゲー・ファルベン社を中心とするイーゲー・コンツェルンがある。このグループは,戦後いったん解体されたが,その後再び復活している。アメリカでは,すでに19世紀初頭にコンツェルンが形成されていたが,一般化したのはやはり第1次大戦後である。モルガン(モルガン財閥)やロックフェラー・グループ(ロックフェラー財閥)などが代表的なコンツェルンである。なおアメリカでは,コンツェルンという表現はあまり用いられず,同様の内容を示す用語として利益集団interest groupがある。
日本のコンツェルンは,第2次大戦前の財閥,戦後の〈企業集団(企業グループ)〉がその典型である。財閥は,同族によって支配される財閥本社を最高持株会社とし,その傘下に多数の産業に属する直系会社・傍系会社を擁する巨大なピラミッド型コンツェルンであり,その勢力は経済界はもちろん政界・官界にまで及んだ。財閥は,戦後,連合軍によって解体されたが,1950年代に入って〈企業集団〉という形で復活した。それは,〈社長会〉を構成する企業間の株式相互持合いによる円環型構造であり,同系金融機関からの〈系列融資〉が支配的である。また〈ワンセット主義〉的投資行動をとり,ほとんど全産業に進出し,〈社長会〉構成企業間で役員派遣による人的関係がある。三井,三菱,住友,芙蓉(ふよう)(中核は富士銀行),三和,第一勧銀の6グループが〈六大企業集団〉と呼ばれていた。
執筆者:井口 富夫
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(高橋宏幸 中央大学教授 / 2007年)
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独占資本の一形態。カルテル・トラストが同一部門・同一製品市場の独占であるのに対して,通常は異なった産業部門にわたる,資本そのものの独占と理解される。組織的には持株会社を頂点としたピラミッド的構成をとり,傘下企業は独立した法人格をもちながら持株会社の下で一定の経済的統一性をもつ。結合は本社の株式保有とそれにもとづく人事権の保有を基礎とし,融資・人的結合によって補完される。構成企業が産業連関を基に編成される場合を産業型コンツェルン,高収益分野への余剰資金の投資の結果,非関連部門にわたって編成された場合を金融型コンツェルンと区別することが多く,第2次大戦前の日本窒素・昭和電工などが前者の典型例で,三井・住友・三菱財閥が後者の例となる。
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独占の一形態。二つ以上の法律的に独立した企業が株式参与などによる資本連携を通じて,実質的に一つの企業となっているもの。一般には親会社を頂点とし,さまざまな部門を包含する複雑なピラミッド型をなし,同部門内に限られるトラスト,同種企業間の協定であるカルテルと区別される。
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…(b)企業合同は,各企業が独立性を放棄して,完全に一体となって結合する形態で,市場統制を目的として形成される企業合同がトラストである。(c)コンツェルンは,独立したいくつかの企業が資本的に強く結合している企業集中の形態である。さらに企業集中が進むと,その形態も発展し,企業グループがさまざまな形をとって多角的に形成されるようになる。…
…このピラミッドの頂点にある最高持株会社は,子会社を直接支配するだけでなく,孫会社以下の全傘下企業を間接的に支配する。多産業にわたって構成されたピラミッド型支配構造がコンツェルンであり,同一産業内のそれがトラストである。持株会社による企業集中は,アメリカではコモン・ローによって違法とされた受託者トラストに代わる形態として,19世紀末から20世紀初頭にかけて盛んに行われたが,1914年のクレートン法(アンチ・トラスト法)によって設立に制限が設けられた。…
※「コンツェルン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
働き手が自分の働きたい時間に合わせて短時間・単発の仕事に就くこと。「スポットワーク」とも呼ばれる。単発の仕事を請け負う働き方「ギグワーク」のうち、雇用契約を結んで働く形態を指す場合が多い。働き手と企...
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