改訂新版 世界大百科事典 「ザクロ石」の意味・わかりやすい解説
ザクロ(柘榴)石 (ざくろいし)
garnet
重要な造岩鉱物の一つであり,立方晶系に属し,化学組成はRⅡ3RⅢ2Si3O12(ここでRⅡはCa,Mg,Fe2⁺,Mn,RⅢはAl,Fe3⁺,Crなど)で表されるザクロ石族に属する一群の鉱物の総称である。端成分はパイロープMg3Al2Si3O12,アルマンディンalmandine Fe3Al2Si3O12,スペサルティンspessartine Mn3Al2Si3O12,グロッシュラーgrossular Ca3Al2Si3O12,アンドラダイトandradite Ca3Fe2Si3O12,ウバロバイトuvarovite Ca3Cr2Si3O12,ノーリンジャイトknorringite Mg3Cr2Si3O12とSiの一部を4(OH)が置換したハイドログロッシュラーhydrogrossular Ca3Al2Si2O8(SiO4)1~m(OH)4mである。またTiの多いアンドラダイトはメラナイトmelaniteと呼ばれている。天然のザクロ石の多くは最初の6端成分の複雑な固溶体と考えられている。はじめの3成分は連続固溶体系列をつくり,これをパイラルスパイトpyralspite,次の2成分も連続固溶体系列をつくりグランダイトgranditeと呼ぶことがあり,この2系列は互いに完全な固溶体をつくらず,産状がまったく異なっている。塊状,粒状として産出するが,{110}や{211}の発達した美しい自形(斜方十二面体,偏菱三十八面体とそれらの集形)を示すことも多い。へき開はなく,貝殻状割れ目が特徴である。色は組成によって異なるが,暗赤~赤褐色が普通で,色,形,光沢などがザクロの粒に似ているのでこの名がある。パイロープは淡桃~血赤色,アルマンディンは暗赤~暗褐色,スペサルティンは帯黄橙~赤褐色,グロッシュラーは白~褐色,アンドラダイトは黄緑~黒色,ウバロバイトとノーリンジャイトは緑色を示す。モース硬度6~7.5,比重3.58~4.32,格子定数a=11.44~12.07Å,ただしハイドログロッシュラーの比重2.5~3.59,格子定数a=11.8~12.55Å。パイラルスパイトと一部のグランダイトは光学的に等方であるが,グランダイトのなかには光学的に異方のものがあり,弱い複屈折を示し,複雑な双晶状の構造が見られることがある。
ザクロ石は種々の変成岩にごく普通に含まれ,またときに火成岩にも含まれる。
アルマンディンはパイラルスパイトのなかで最も広く出現し,泥質岩,砂質岩や塩基性火山岩が広域変成作用を受けて生じた結晶片岩,片麻岩や角セン岩に含まれる。スペサルティンはMnに富む結晶片岩やマンガン鉱床に出現する。アルマンディンとスペサルティンはそのほかに,ホルンフェルス,酸性火山岩,花コウ岩,ペグマタイト,アプライトなどに見いだされる。パイロープはエクロジャイト相やグラニュライト相などの高圧変成岩やカンラン岩とキンバーライトに出現する。
グランダイトやハイドログロッシュラーは石灰質堆積岩が熱変成や広域変成を受けたときに生成される。また蛇紋岩にともなうロジン岩に含まれることもある。アンドラダイトはアルカリ深成岩に,メラナイトはアルカリ深成岩や接触変成岩,ウバロバイトはクロム鉄鉱床や接触変成岩,ノーリンジャイトはまれにキンバーライトや上部マントル由来のザクロ石カンラン岩捕獲岩に出現する。
合成実験によるとパイロープとノーリンジャイトは高圧下でのみ安定であるが,その他のものは常圧下でもかなり高温まで安定である。パイロープは40kbar以上の高圧下ではエンスタタイトMgSiO3と,圧力の増加にともなって広い範囲にわたって固溶体をつくる。これらの高圧実験の結果から,パイロープやパイロープ成分に富むザクロ石構造固溶体はカンラン石やその高圧相である変形スピネル,スピネルや輝石とともに地下60~80kmから700kmまでの深さのマントルの主要鉱物として広く存在していると考えられている。この輝石に近い化学組成のザクロ石は隕石に発見され,メージャライトmajorite Mg3(Fe,Al,Si)2Si3O12という鉱物名が与えられている。
研磨材として,また透明の美しい結晶は宝石として用いられる。最近では工業的にYAG(Y3Al5O12)やYIG(Y3Fe5O12)と呼ばれるザクロ石構造の結晶が合成され,レーザー素子や化合物磁性体として広く用いられている。
なお,日本では英名のガーネットという場合,一般に宝石として用いられるザクロ石を指すことが多く,宝石については〈ガーネット〉の項目を参照されたい。
執筆者:青木 謙一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報