チオ硫酸ナトリウム(読み)チオリュウサンナトリウム(英語表記)sodium thiosulfate

デジタル大辞泉 「チオ硫酸ナトリウム」の意味・読み・例文・類語

チオりゅうさん‐ナトリウム〔‐リウサン‐〕【チオ硫酸ナトリウム】

亜硫酸ナトリウム硫黄を加えて得られる結晶。五水和物は俗にハイポと呼ばれ、無色の柱状結晶で、湿気によって風解または潮解する。写真の定着液や、水道水の塩素を除くのに使用。化学式Na2S2O3 チオ硫酸ソーダ

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精選版 日本国語大辞典 「チオ硫酸ナトリウム」の意味・読み・例文・類語

チオりゅうさん‐ナトリウムチオリウサン‥【チオ硫酸ナトリウム】

  1. 〘 名詞 〙 ( ナトリウムは[ドイツ語] Natrium ) チオ硫酸のナトリウム塩。化学式 Na2S2O3 五水和物(通称ハイポ)は無色、単斜晶系の柱状結晶。硫化染料製造時に硫化ナトリウムが酸化され副産物として得られる。暖かい乾燥した空気中では風解する。水に溶けるときは著しく吸熱する。ハロゲン化銀と作用してチオスルファト銀錯(さく)塩をつくるので写真の定着剤として広く用いられる。ほかにクロムなめし還元剤廃ガスの中和剤、媒染・漂白などにも使用。

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改訂新版 世界大百科事典 「チオ硫酸ナトリウム」の意味・わかりやすい解説

チオ硫酸ナトリウム (チオりゅうさんナトリウム)
sodium thiosulfate

化学式Na2S2O3。市販品Na2S2O3・5H2Oは俗に誤って次亜硫酸ソーダsodium hyposulfite,略してハイポhypoと呼ばれているが,これは形式上の1水和物Na2S2O3・H2Oを次亜硫酸水素ナトリウム(正しくはスルホキシル酸水素ナトリウム)NaHSO2とみなした誤解に由来する名称で,亜二チオン酸ナトリウムNa2S2O4(いわゆる次亜硫酸ナトリウム)と混同されやすく,正しい名称ではない。

5水和物は無色単斜晶系柱状晶。48.2℃で結晶水に溶解して融解する。比重1.71。結晶は大気中で安定であるが,乾いた暖かい空気中では風解し,冷たい空気中では弱い潮解性を示す。水に溶解する際,吸熱により著しく温度が低下する。水100gへの溶解度74.7g(0℃),301.8g(60℃)。エチルアルコールに微溶,液体アンモニアに可溶。2水和物との転移温度48.2℃,2水和物と無水和物との転移温度68.5℃。無水和物は無色単斜晶系の結晶性粉末。比重1.667。220℃で分解する。水100gへの溶解度50g(0℃),231g(80℃)。空気中で熱すると酸化されて硫酸ナトリウム,二酸化硫黄,水に分解する。空気を断って強熱すると,硫酸ナトリウム,硫化ナトリウム,硫黄を生ずる。水溶液は低温で空気に触れなければ安定であるが,アルカリ性では容易に空気酸化されて硫酸塩になる。酸で分解し,二酸化硫黄と硫黄を遊離する。亜硫酸ナトリウムが共存すると弱酸性でも比較的安定である。ヨウ素と定量的に反応し,ヨウ素の定量に利用される。

 2Na2S2O3+I2─→2NaI+Na2S4O6

水溶液は塩素を吸収するので塩素の除去に用いられる。

 Na2S2O3+4Cl2+5H2O─→2NaCl+2H2SO4+6HCl

ハロゲン化銀と作用して水溶性チオスルファト銀錯塩をつくるので,写真の定着に用いられる。

 AgX+2Na2S2O3─→Na3[Ag(S2O32]+NaX

硫化染料製造の際に硫化ナトリウムの酸化による副産物として生成する。亜硫酸ナトリウム水溶液に硫黄を加えて煮沸するか,炭酸ナトリウム水溶液に硫化ナトリウムを加え二酸化硫黄を通ずる方法,または,水酸化ナトリウムの水溶液に硫黄華を加えて熱し,五硫化ナトリウムNa2S5の溶液をつくり,冷却後,硫化物の反応がなくなるまで亜硫酸水素ナトリウムを加えてろ(濾)液を冷却する,などの方法で5水和物が得られる。無水和物は5水和物を80℃で乾燥して得られるが,硫化水素ナトリウムNaHSを100~150℃に熱しても得られる。

写真定着剤,塩素廃ガスの中和剤,パルプや木綿などの漂白後の脱塩素剤,媒染剤に用いられる。また麦わら,毛,象牙の漂白に用いるが,誤用すると危険であるため,食品の漂白に使用してはならない。テトラエチル鉛チオグリコール酸,染料中間物などの製造用とされ,実験室ではヨウ素滴定の二次標準試薬に用いられる。ヒ素,水銀,鉛中毒などの万能解毒剤となる。
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化学辞典 第2版 「チオ硫酸ナトリウム」の解説

チオ硫酸ナトリウム
チオリュウサンナトリウム
sodium thiosulfate

Na2S2O3(158.11).IUPACの認める慣用名.特性基置換命名法ではスルフロチオ酸ナトリウム(sodium sulfurothioate).市販品は五水和物または無水塩.写真定着用のハイポ(hypo)は旧誤称の次亜硫酸ソーダ(sodium hyposulfite)から.Na2SO3水溶液に硫黄を加えて煮沸,濾過,濃縮すると五水和物の結晶が析出する.また,NaOH水溶液にSを反応させて得たNa2S水溶液に,SO2を通じても得られる.五水和物を加熱すると,48 ℃ で二水和物になり,68 ℃ で無水塩となる.五水和物は単斜晶系.無水塩は高温ではβ,γ形になるが,室温で安定なα形は単斜晶系.223 ℃ でNa2SO4とNa2S5に分解する.イオン結晶で,[S2O3]2- が存在する.S-O1.47 Å,S-S2.01 Å.五水和物,無水物ともに無色の結晶.五水和物は乾いた空気中では風解し,湿った空気中では潮解する.水に可溶.溶ける際にいちじるしい温度降下がみられる.水溶液はほぼ中性を示す.水溶液は空気に触れるとしだいに酸化され,加熱で促進され,硫黄を析出する.I2 と反応して,テトラチオ酸塩になる.

I2 + 2Na2S2O3 → 2Na2S4O6 + 2NaI

Cl2 と反応して,硫酸水素塩になる.

   4Cl2 + Na2S2O3 + 5H2O → 2NaHSO4 + 8HCl   

ハロゲン化銀を錯体にして溶かす([Ag(S2O3)])ので,銀塩写真の定着液に使われる.そのほかのいくつかの金属とも錯体をつくる.アルカリを加えた水溶液は空気に触れると酸化されて,SO42-を生じる.水溶液に酸を加えると,

   Na2S2O3 + 2HCl → 2NaCl + H2O + S + SO2   

などの反応で分解する.水溶液の塩素除去処理用,鉱石から銀の抽出,繊維の染色やなせんの媒染剤,クロム酸塩染色の還元剤,骨,ゾウゲ,油脂などの漂白剤,分析試薬,医薬品(シアンの解毒剤)などに用いられる.[CAS 7772-98-7]

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「チオ硫酸ナトリウム」の意味・わかりやすい解説

チオ硫酸ナトリウム
ちおりゅうさんなとりうむ
sodium thiosulfate

チオ硫酸のナトリウム塩。チオ硫酸ソーダともいう。化学式Na2S2O3、式量158.1。五水和物は俗にハイポとよばれるが、これはチオ硫酸塩が古くは次亜硫酸塩hyposulfiteとよばれたことに由来する。亜硫酸ナトリウムの水溶液に粉末硫黄(いおう)を加えて煮沸し反応させたのち、加熱濃縮すれば五水和物として析出する。硫化ナトリウムと二酸化硫黄との反応、多硫化ナトリウムと亜硫酸水素ナトリウムとの反応によっても得られる。五水和物結晶は空気中では安定であるが、冷たい空気中ではいくぶん潮解し、乾燥した空気中では風解する。48.2℃で結晶水の中に溶けて液状となる。水に溶けやすく、その際多量の熱(11kcal/mol)を吸収する。チオ硫酸ナトリウムは容易に酸化されて硫酸塩やポリチオン酸塩に変わる性質があるので、強い還元剤として働く。たとえばヨウ素と次の式に従って定量的に反応するので、ヨウ素滴定法の試薬となる。

  I2+2Na2S2O3→2NaI+Na2S4O6
 また、ハロゲン化銀と反応して水溶性の銀錯塩をつくるので、写真現像の際の定着剤として用いられる。水溶液は塩素を吸収する。

  Na2S2O3+4Cl2+5H2O→2NaCl+2H2SO4+6HCl
 そのほかメチレンブルーなどの染料の原料、高級紙の脱塩素剤、クロムなめしにおける重クロム酸塩の還元剤、また重金属中毒、妊娠中毒などの解毒剤として用いられる。

[鳥居泰男]


チオ硫酸ナトリウム(データノート)
ちおりゅうさんなとりうむでーたのーと

チオ硫酸ナトリウム五水和物
  Na2S2O3・5H2O
 式量  248.2
 融点  48.45℃
 沸点  ―
 比重  1.1715(測定温度27℃)
 結晶系 単斜
 屈折率 (n) 1.4886
 溶解度 74.7g/100g(水0℃)
     301.8g/100g(水60℃)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「チオ硫酸ナトリウム」の意味・わかりやすい解説

チオ硫酸ナトリウム
チオりゅうさんナトリウム
sodium thiosulfate

化学式 Na2S2O3 。亜硫酸ナトリウム溶液に硫黄を加えて熱すると容易に生成する。溶液を加熱濃縮すると結晶を析出する。5水和物はハイポとも呼ばれる無色の単斜晶系柱状結晶で,水,アンモニアに可溶,アルコールに難溶。比重 1.69,融点 48℃。 100℃で無水塩になる。遊離ハロゲンと反応するので,ハロゲンの除去剤として有用。写真 (ハイポ。現像定着剤) ,染料 (メチレンブルー) ,製紙 (除塩素剤) ,クロムなめし,漂白などに広く用いられる。また,解毒剤の1つで,シアン化合物と結合して毒性の少いチオシアン酸塩 (ロダン塩) を形成し,解毒効果を現す。シアン化合物中毒のほか,ヒ素,水銀,鉛などの重金属中毒や妊娠中毒症に対しても有効。おもに8~10%水溶液を筋肉注射や静脈注射により投与する。内服して胃障害を起さないような錠剤もつくられている。

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百科事典マイペディア 「チオ硫酸ナトリウム」の意味・わかりやすい解説

チオ硫酸ナトリウム【チオりゅうさんナトリウム】

化学式はNa2S2O3・5H2O。比重1.715(27℃),48.2℃で結晶水に溶ける。チオ硫酸ソーダ,俗にハイポとも呼ばれるが,正しい名称ではない。水によく溶ける無色の結晶。水溶液はハロゲン化銀を溶かすので写真の定着剤として最も多量に用いられる。またヨウ素と定量的に作用するのでヨウ素の分析に利用され,その他媒染剤,漂白剤,脱塩素剤,ヒ素・水銀・鉛などの中毒に対する解毒剤として使用。工業的には亜硫酸ナトリウムと硫黄から合成。
→関連項目ダゲレオタイプ定着液

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栄養・生化学辞典 「チオ硫酸ナトリウム」の解説

チオ硫酸ナトリウム

 Na2S2O3 (mw158.11).脱塩素剤として使われる食品添加物であったが,現在は使用されていない.

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