翻訳|chocolate
カカオ豆を原料にした菓子および飲料。メキシコ先住民がカカオ豆をつぶしてどろどろにした飲料をチョコラトルchocolatl(苦い水の意)とよんでいたのが語源である。チョコレートの主原料はカカオ豆で、炒(い)ってペースト状に磨砕したものに砂糖や粉乳などを加えて練り上げたのが菓子、水や牛乳で溶かしたものが飲料のチョコレートである。歴史的には飲料としてのチョコレートのほうが菓子よりも古い。
[河野友美・山口米子]
カカオの木の原産地は中南米で、メキシコ先住民はこの豆を「神からの賜物(たまもの)」とよび、飲み物や薬用として、また貨幣として利用していた。ヨーロッパに最初に伝えたのはコロンブスである。1502年にカカオ豆をヨーロッパに持ち帰ったが、その当時は、利用法や利用価値がわからず普及しなかった。1519年にメキシコを征服したスペインのエルナン・コルテスは、メキシコで人々がカカオ豆の飲料をチョコラトルとよび、飲んで疲労回復や強壮剤的に用いているのを知った。その後、彼がスペインへ飲料として紹介してから、ヨーロッパでチョコレートの飲用が広まった。1828年にオランダ人バン・ホーテンCoenraad Johannes Van Houten(1801―1887)はカカオ豆から脂肪を一部除き、とけやすい粉末チョコレートの飲み物(現在のココア)として完成させた。一方、17世紀前半には固形にすることが考案され、菓子作りが始まり、1847年にはイギリスで菓子として固形のプレーンチョコレートが、さらに1876年スイスでミルクチョコレートがつくられた。
日本では18世紀末にオランダ人が長崎に飲料として伝えたのが最初だといわれている。菓子としては、1878年(明治11)東京の凮月堂(ふうげつどう)から「貯古齢糖」の名で販売された。本格的にカカオ豆を原料として菓子を製造したのは1918年(大正7)森永製菓である。なお、日本におけるチョコレート製品の生産量は、1960年度(昭和35)の2万8000トンから、1970年には11万トンと増大し、1980年に12万7000トン、1990年(平成2)に18万トンとなり、2000年以降は約22万トンで横ばい状態となっている。一方、チョコレート製品の輸入量も1970年代の約5000トンから、2000年代の約2万トンへと増大している。
[河野友美・山口米子]
カカオ豆からチョコレートにするには、まずカカオの種子をカカオの果実(カカオポッド)から取り出す。これを発酵し、乾燥したものがカカオ豆である。選別したカカオ豆を炒って破砕し、種皮と胚芽(はいが)を取り除き(カカオニブ)、すりつぶしたものをカカオマスという。これを冷却して固めたのがプレーンチョコレート(製菓用ではビターチョコレート、ベーキングチョコレートともいう)である。一般にいうチョコレートは、カカオマスに、砂糖、粉乳、ココアバター(カカオマスから取り出した脂肪分で、カカオバターともいう。残りの粉末はココアパウダーという)などを加え、精練したものである。粉乳を入れたものをミルクチョコレート、入れないものをスイートチョコレート(ブラックチョコレートともいう)という。ホワイトチョコレートは、ココアバターに乳製品や砂糖を加えた白色のものである。チョコレートの種類は、形状からは、板チョコレート、シェルチョコレート(型に流し込んで殻をつくり、中に詰め物をするもの)、被覆チョコレート(ナッツやケーキなどの上からチョコレートでカバーするもの)などがある。
[河野友美・山口米子]
チョコレートの品質は、カカオ豆の量、ブレンド、配合物などによって左右される。日本の公正競争規約では、チョコレート生地(カカオ分35%以上)、準チョコレート生地(カカオ分15%以上)に区分している。品名を「チョコレート」と表示できるのは、チョコレート生地が60%以上のもので、「準チョコレート」は準チョコレート生地が60%以上のものである。また、ビスケット、クリームなどをチョコレートで被覆したもので、チョコレート、準チョコレート生地がそれぞれ60%未満のものには、「チョコレート菓子」または「準チョコレート菓子」として表示することが義務づけられている。
[河野友美・山口米子]
チョコレートに含まれる特有の苦味は、テオブロミンとよぶ物質で、弱い興奮性のアルカロイドである。チョコレートの滑らかさや、口中のとろけぐあいは、ココアバターの量や製造時の粒度調整によって決まる。ココアバターは普通約34℃で溶け、ちょうど口の中で溶ける特性をもっている。チョコレートは低温で保存しないと、ココアバターが溶け出し表面に白い粉がふいたようになる。これはブルームとよばれ、風味が損なわれるので、とくに夏の保存に注意を要する。ブルームは砂糖がとけて結晶化して生じる場合もある。チョコレートは脂肪や糖分が多いので、高エネルギー食品である。
ヨーロッパで貴族たちの飲料として用いた歴史が長いこともあり、高級な菓子のイメージが強い。とくに美しい箱に入れてクリスマスやパーティーのプレゼントに用いる習慣が根強く残っている。また、日本でのバレンタインデーには、女性から男性へチョコレートを贈る風習もある。
飲料としてのチョコレートは、製菓用のチョコレートを水や牛乳で溶かしたものが多い。
[河野友美・山口米子]
『加藤由基雄・八杉佳穂著『チョコレートの博物誌』(1996・小学館)』▽『ティータイム・ブックス編集部編『チョコレートの本』(1998・晶文社)』▽『小椋三嘉著『チョコレートものがたり――フランス流チョコレートの楽しみ方』(2000・東京創元社)』▽『成美堂出版編集部編『チョコレートの事典――世界中で愛されるチョコレートのすべて』(2003・成美堂出版)』
カカオを原料にした飲料および菓子。
中央アメリカや南アメリカでは古代からカカオは神からの授かりものとされ,その種子をすりつぶし水やトウモロコシの粉を加えた飲料は独特の刺激と効果で珍重されていた。この〈にがい水〉を表すナワ族のことばxocoatlがのちにヨーロッパに入ってチョコレートとなった。またカカオの学名Theobromaは〈神の穀物〉を意味し,伝説にちなんで命名されたものである。16世紀の初めコロンブス,ついでコルテスによってカカオ豆がスペインにもたらされたが,利用法は秘密にされ,世間に知られるようになったのは1607年にイタリア人のA.カレッティが飲用チョコレートの製造を始めてからである。また,スペインからは王室を通じてオーストリア,そしてフランスへと伝わり,1660年にルイ14世とスペイン王女マリア・テレサが結婚したころには愛好者の数も増えていた。1657年にはロンドンに住むフランス人がチョコレートを売り出し,おりから出現しつつあったコーヒー・ハウスでもチョコレートを飲ますようになったが,チョコレート・ハウスのほうが高級とされ,ヨーロッパ全域でも同様の店が開店した。しかし生産が本格的に工業化したのは19世紀になってからで,1828年にオランダのバン・ホーテン社ではカカオ豆からココアバターの大半を分離することによって,それまでの高脂肪,不均質で消化の悪かった欠点を克服して粉末チョコレート(現在のココア)の特許をとり,また各国でも製法の改良が行われた。47年にイギリスのフライ社がカカオにココアバターと砂糖を加え,そのまま食べられるチョコレートを製造,ついで75年にはスイスのD.ピーターがネッスル(ネスレ)社の粉乳を混入したミルクチョコレートを発表し,現在のチョコレートの基本ができ上がった。こうしてカカオの需要が増すと,アフリカでもプランテーションによる栽培が始まった。
日本へは江戸初期にチョコレートが持ち込まれたというが,1873年の岩倉遣欧使節団がフランスのチョコレート工場を見学した際の記録が残されている。東京の両国若松町の風月堂が製造を始め,〈貯古齢糖〉という最初の広告が出たのは78年であった。その後各社でつくられたが,1918年森永製菓が初めてカカオ豆の処理からの一貫生産に着手し,以後数社が追随して,生産量は急激に増加した。しかし,40年にはカカオ豆が輸入禁止となり,50年の輸入再開まではチョコレートの生産は事実上不可能となった。しかし業界では代用品の開発に努め,ココアバターの代りにしょうゆ,大豆油,ヤシ油などを原料とした硬化油を用い,カカオ・マスの代りにユリ球根,決明子(エビスグサの豆),脱脂大豆粉などを配合したものを用いて代用チョコレートをつくる研究報告を1941年に発表した。また第2次世界大戦後はアメリカ製チョコレートが進駐軍の兵士を通じて出回るようになると,日本の業者はグルコースを原料に薬用カカオ脂の副産物であるココアなどを配合した代用グルチョコを考案して大衆の欲求にこたえた。60年にカカオ豆の輸入が自由化され,チョコレートの生産は急上昇したが,71年にチョコレート自体の貿易自由化で競争は激しくなった。
カカオ豆の世界の生産量は159万tでコートジボアール(40万t),ブラジル(32万t)などが多い。一方,輸入量は127万tで,アメリカ(20万t),西ドイツ(20万t),オランダ(18万t),ソ連(12万t)の順で,日本は3.6万tである(1982)。チョコレート製品では,1人当り消費量が多いのがスイス,西ドイツ,ベルギー,イギリス,輸出量はオランダ,イギリスが多く,日本の国内生産量は約15万t,輸入は0.5万tである。
カカオ豆をあぶって刺激味を減じ,香りを増す。ついで種皮を割って取り去るとニブ(胚乳部)が得られる。ニブを臼でひくと脂肪がとけてペースト状になる。これをカカオ・マス(またはチョコレート・リカー)と呼び,53~56%のココアバター(脂肪分)が含まれている。ココアバターは種皮からも採取できる。カカオ・マスに砂糖,香料,ミルク,食塩,ココアバター,食用油脂などを加えて混合し,粒子をなめらかにするためR.リントの考案したコンシュという容器に入れてゆっくり長時間かくはんする(コンチング)。これを型に流し込むとチョコレートができ上がる。酸味を減じるため前段階でアルカリ処理することもあり,この方法はオランダのバン・ホーテンによって始められた(ダッチング)。ホワイト・チョコレートはココアバターのみを用いる。
カカオ・マスを圧搾してココアバターを抽出し,脂肪分を減じて飲みやすくしたものがココアで,これもチョコレートと呼ぶ言語が多い。チョコレートにはテオブロミンと微量のカフェインを含み,100g当り500kcal内外の熱量がある。製品の保存は18~20℃が望ましく,高温になると中のココアバターが浸出して表面に粉をふくが有害ではない。
執筆者:殖田 友子
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…マヤ諸語ではこの植物をカカウアトルcacahuatleと称し,カカオはこの語から派生したものである。またアステカ語で前述の飲物をチョコラトルchocolatlと呼び,チョコレートchocolateはこの語に由来する。カカオの実は,貨幣の役割ももち,アステカ族は生産地の部族に貢納させていた。…
…種子を特殊な木桶で発酵させると,独特の香気と紅色をおびる。これを乾燥したものをカカオ豆といい,焙煎(ばいせん)して種皮を去り,粉末にして砂糖・ミルク・香料などを加え,押し固めてチョコレートを作る。粉末を圧搾して脂肪を去ったものがココアcocoaである。…
…カカオ樹の実すなわちカカオ豆を焙炒(ばいしよう)し,殻を除き,圧搾して脂肪分(カカオバター)を除いて粉末にしたもの。ココア製造過程でカカオバターを除かず,香味料や砂糖を加えたものがチョコレートである。16世紀のころアメリカ大陸からヨーロッパに伝えられ飲用されるようになった。…
※「チョコレート」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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