翻訳|trachoma
トラホームともいい,角膜,結膜をおもに侵す伝染性疾患。かつて日本では,この眼病は失明原因の上位を占めたが,上下水道等衛生環境,衛生思想の向上,抗生物質の発達とともに激減し,現在,新しく発症をみることはほとんどなくなった。現在,日本で問題となるのは,高齢者にみられる瘢痕(はんこん)化したトラコーマによる後遺症である。しかし一方,発展途上国においては,トラコーマは依然として失明原因の上位を占めているので,過去の病気といいきってしまうわけにはいかない。
病原体は細胞封入体であるプロワツェク小体である。この小体は,1907年にプロワツェクStanislaus Joseph Mathias von Prowazek(1875-1915)らによって発見され,トラコーマの病原体であると推定されたものである。その後,この考えに疑義が出されたが,石原忍らは37-41年に,プロワツェク小体によりトラコーマが生ずることを証明した。現在,プロワツェク小体はクラミディアの1種によるものとされている。
トラコーマの病相は以下の四つに分けられる。(1)急性期 濾胞(ろほう)性結膜炎の形をとる。感染から発病までの潜伏期間は5,6日である。この時期の結膜上皮細胞内にはプロワツェク小体が見いだされる。(2)増殖期 結膜濾胞が大きくなり融合する。おもに上方の球結膜から角膜に向けて,浅在性血管への侵入が始まる。これをパンヌスpannusと呼ぶ。この時期までは視力の大きな低下はない。(3)瘢痕期 眼球および眼瞼結膜が瘢痕化し,表面は平滑化し収縮してくる。角膜ではパンヌスが全周から入り,かつ中心にまで伸び角膜混濁(片雲)を生ずる。角膜周辺部では細胞浸潤と潰瘍形成を伴うこともある。(4)合併症期 結膜瘢痕が進行し,長期にわたって持続するため,多くの合併症が出現する。眼球および眼瞼結膜がくっつく結膜癒着,結膜と瞼板の癒着による眼瞼の内反や外反,睫毛(しようもう)乱生,結膜が瘢痕化して副涙腺からの涙の分泌がおさえられ,また結膜杯細胞がこわされるための角結膜乾燥症,涙点から鼻に走る涙道の癒着による流涙や,涙囊炎など,さまざまな障害を生ずる。パンヌスが強くなれば,角膜の透明性は失われ,不正乱視となるため,強い視力障害を残す。
治療としては,急性期にはテトラサイクリンを中心とした抗生物質点眼が有効である。合併症期の障害については,おのおのに対する薬物,手術による対症療法を行う。
執筆者:佐藤 孜
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
感染性の結膜疾患の一種で、トラホームTrachom(ドイツ語)ともいう。結膜に濾胞(ろほう)をつくり、慢性に経過する病気で、クラミジア・トラコーマティスChlamydia trachomatisという病原体の感染でおこる。かつてはもっとも患者の多い目の感染症であったが、衛生状態のよい先進国ではごくまれになった。濾胞は融合して大きくなり、結膜上皮細胞に病原体の集合体とみられる封入体(トラコーマ小体、プロワツェクProwazek小体)が検出される。角膜上方から混濁を伴って血管が侵入するが、この状態をパンヌスpannusという。結膜に瘢痕(はんこん)をつくり、その影響で涙液分泌低下、眼瞼(がんけん)内反、睫毛(しょうもう)(まつげ)乱生、涙道閉鎖、角膜潰瘍(かいよう)などの後遺症をおこす。このために視力が障害される。病原体に対してエリスロマイシン、テトラサイクリン系の抗生物質が有効である。両者とも主として軟膏(なんこう)が用いられる。
[内田幸男]
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…これらを分類すると,(1)感染症等炎症によるもの,(2)遺伝素因をもった変性疾患,(3)物理的な外傷および薬品による化学的な外傷,(4)栄養障害によるもの,の4群になる。 炎症性疾患としては,かつてはトラコーマウイルスによるトラコーマが多く,失明原因の主流を占めたが,衛生状態の改善や抗生物質の発達でほとんどみられなくなった。現在みられるのは,角膜上皮,角膜実質にできた瘢痕(はんこん)や血管新生による混濁である。…
…【丸尾 敏夫】
【眼病の歴史】
古代エジプトの医学文書として名高い前16世紀の《エーベルス・パピルス》は,目の化膿,盲目化,結膜浮腫,白内障,眼瞼外反,眼瞼内反,目の肉芽,水腫眼,虹彩炎,角膜白斑,瞼裂斑,翼状片,ブドウ腫,睫毛乱生(逆まつ毛)というように,眼病を驚くほど細かく診別している。ここではまた硫酸銅で治療した目の流行病にふれているが,これはトラコーマであったと思われる。トラコーマはギリシア・ローマ時代にもよく知られ,その後十字軍,モンゴル族の侵略,ナポレオン戦争,ロシア革命など人間の大移動のたびに流行を繰り返し,今日ではアジア,アフリカの貧困地帯で猛威をふるっている。…
※「トラコーマ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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