ラテン語の動詞,教える(docere)を語源とするドクトルは,12世紀末,ヨーロッパに大学が成立する以前においては,教師や教育の専門家という意味で用いられていた。しかし,教師ギルド(ヨーロッパ)(組合)の成立後,ドクトルはギルド(ヨーロッパ)による教授資格の認定を受け,教師組合に加入を認められた者,そして「正」講義を行い,学生から聴講料を徴収することができる者となった。この学位取得者の呼称は時代,大学,学部により異なるが,一般的に上級学部である神学,法学,医学部においてはドクトルが,教養部においてはマギステル(ヨーロッパ)という称号が用いられた。
中世大学の二つの典型,パリとボローニャにおいてもその称号は異なる。パリ大学(フランス)ではマギステルが神学,医学,教養部において用いられた(ただし,教会法学部ではドクトル)。また法学を中心としていたボローニャ大学(イタリア)では,ドクトルやドミヌス(イタリア)(主人の意)がおもに使われた。ボローニャでドクトルが大学の学位になるのは13世紀末といわれる。その経過のなかで,ボローニャにおいては,名前の後にドクトル(legis doctor)がつけられることもあった。その場合,学位称号というより法律家としての職業有資格者を表した。
このように,ドクトルという名称が職業資格を兼ねることになった背景には,中世末期に教会や国家が中央集権化を目指し,大学にその担い手としての官吏(法律顧問,裁判官等)の供給を期待することになったからである。そのことは結果的に学位の性格,すなわち教授資格の付与という特徴を大きく変容させることとなった。つまり,教師組合に加入せず,教授免許(リケンティア)のみで済ますケース,また,たとえドクトル学位を取得したとしても教授活動にあたらず,専門職業人として社会に活躍の場を見出す人たちを生み出すことになった(「非現職ドクター(ヨーロッパ)」と呼ばれた)。
著者: 松浦正博
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報
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