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ヒューマニズム humanism

翻訳|humanism

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

ヒューマニズム
humanism

人間性の尊重,人間の解放を目指す思想,態度。語義,内容は多様であるが,一般的には人道主義人本主義,人間主義,人文主義などの訳語があてられる。ヒューマニズムは,キケロに始り,近世初頭のイタリア・ルネサンスのペトラルカ,さらに 15世紀から 16世紀にかけてのエラスムス,トマス・モア,17世紀から 18世紀にかけて J.マビヨンというように,ヨーロッパの伝統として保たれている。 18世紀後半から 19世紀にかけて特にドイツで啓蒙思想に対する反動として,ギリシア古典を仰ぎ,ヘルダーリーン,ゲーテらが人間性の多面的調和を主張した。その後は,A.コントが始めた人道教,F.シラープラグマティズム (人本主義) ,J.バビットの人文主義的ヒューマニズム,N.ベルジャーエフの汎ヒューマニズムなどがあり,第2次世界大戦後マルクス主義的ヒューマニズム,実存主義のヒューマニズムも浸透した。また現代では,非人間的な科学の進歩から人類を守ることがヒューマニズムの課題とされている。

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デジタル大辞泉の解説

ヒューマニズム(humanism)

人間性を称揚し、さまざまな束縛や抑圧による非人間的状態から人間の解放を目ざす思想。
㋐「人文主義」に同じ。
㋑17~18世紀にイギリス・フランスで、普遍的な人間性を認め、いくつかの市民革命の指導理念となった思想。市民的ヒューマニズム。
㋒新人文主義。ネオヒューマニズム。
資本主義による人間の自己疎外から人間性の回復を目ざすプロレタリア階級の運動。社会主義的ヒューマニズム
人道主義。

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百科事典マイペディアの解説

ヒューマニズム

人文主義

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世界大百科事典 第2版の解説

ヒューマニズム【humanism】

ヒューマニズムとは,(1)ごく一般的には,人間の本性(人間性)とさまざまな人間的事象に関心と愛情を抱き,人間の特殊性に固有の価値と尊厳を認め,非人間的なものに対してそれを擁護しようとする態度ないし志向を指す。(2)歴史的には,西欧ルネサンス期にあらわれた古典的学芸の復興を通じて人間性の陶冶(とうや)をはかろうとする学問・教育理念を原型として,そのさまざまなバリエーションがあり,(3)さらに(1)のような一般的態度を,より理論化して,人間性の内容を規定し,何に対し,何に向かってそれを解放し再生させるかを探究し,主張する思想的な立場ないし潮流を指す。

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大辞林 第三版の解説

ヒューマニズム【humanism】

人間中心、人間尊重を基調とする思想態度。「人間」の捉とらえ方により種々の形態がある。
古典的教養に人間像を求め、これを志向する思想・運動。
人文主義 」に同じ。
一八~一九世紀ドイツの、シュトゥルム-ウント-ドラングに始まる諸文化。人間の教養、調和的自己発展を説く。
西欧近代の人間中心主義。
一七~一八世紀英・仏の普遍的人間の理念に基づいて市民革命を理論づけた思想。
資本主義の疎外からの人間解放を求めるマルクス主義的ヒューマニズム。
人道主義 」に同じ。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ヒューマニズム
ひゅーまにずむ
humanism英語
Humanismusドイツ語
humanismeフランス語

非常に広い範囲の思想傾向、精神態度、世界観をさしていうことばで、人間主義・人文主義・人本主義・人道主義などと訳される。これらに共通の意味はといえば、人間性の尊重、人間らしさの尊重ということしかないだろう。[伊藤勝彦]

人間らしさの尊重

15、6世紀のヨーロッパに古代の文芸を復興しようとする運動がおき、中世以来の神学中心の学問体系に対抗して、新しい時代の学者たちの間から、「もっと人間らしい学芸を!」という叫びがおこった。つまり、古代の学芸復興によって、教会的権威のもとで窒息しかかっていた自然な人間性をよみがえらせようとしたのである。ギリシア・ローマの古典がフマニオーラhumaniora(もっと人間らしくするもの)ということばでよばれ、これの研究によって人間らしさを高め、新時代の理想的人間像を実現しようとする新しい教育理念が生まれた。
 この「もっと人間らしい」(フマニオール――人間的humanusというラテン語の比較級humanior)からヒューマニズムということばが生まれたのである。ルネサンスの人文主義とよばれるのはこれである。たとえば、ペトラルカは若いころからウェルギリウスやホラティウスらの古写本を収集し、古代人を理解することによって人間の理想像をそこから引き出そうとした。こうした人文主義の精神は、ルネサンスの運動が拡大するとともにイタリアからアルプスを越えてヨーロッパ全土に波及してゆき、オランダのエラスムスやフランスのモンテーニュによって新しい人間性の理想が確立される。それは、あるがままの人間、自然な人間性を尊重し、この人間性の立場に立脚して知恵の探求を進めていこうとするものであった。[伊藤勝彦]

ヒューマニズムの諸方向

17世紀になると、ヒューマニズムは科学的精神と結び付けられる。デカルトは「人間である限りの人間の立場」にたって真理を探求した。神学者のように、恩寵(おんちょう)の光によってではなく、人間に生具の「自然的光」によって世界を認識しようと努める。また、数学的方法によって学問の確実な基礎に到達し、そこから出発して人生に有用な知恵としての哲学の体系を完成しようとする。それは、「生活の指導、健康の保持、すべての技術の発明に関し人間の知りうるあらゆる事物についての完全な認識」となるべきものであった。つまり、ヒューマニストの知恵の理念が新しい科学や技術と結び付くことによって、根本的な変質を受けたのである。この、科学とヒューマニズムの統一という課題は、18世紀の啓蒙(けいもう)思想家たちによって受け継がれる。この時代のヒューマニズムは、科学的合理性を自然についてばかりでなく、社会、政治、経済などの分野にわたって追求し、それによって人間性を限りなく拡充していこうとするものであった。こした課題意識が、18世紀啓蒙思想の申し子ともいうべき「進歩の観念」を生み出したのである。
 18世紀の後半には、ドイツに「新ヒューマニズムNeuhumanismus」の名でよばれる精神運動がおこった。これは、ドイツ啓蒙思想の抽象的な合理主義と機械論的世界観に対する反抗として生まれたもので、ギリシア的な美の理想を鼓吹したウィンケルマンを先駆者とし、レッシング、ヘルダー、ゲーテ、シラー、フンボルトらによって受け継がれ、ヘルダーリンの詩において完成される新しい人文主義運動であった。その1人ヘルダーは古典的な人間性Humanittの理想を復活させ、これをすべての人間が人間である限り備えておくべき理想像とし、これによってワイマールのギムナジウム(高等学校)で行われる人文主義教育を基礎づけた。
 20世紀の初め、ドイツに「第三人文主義」なるものが登場するが、これは古典研究者の間の新しい問題意識が生み出した新人文主義運動であった。また、イギリスの哲学者シラーは、自己のプラグマティズムの世界観をヒューマニズム(人本主義)の名でよんでいる。彼によれば、真理は永遠のものではなく、人間の行動経験によって生み出されるもので、実際的有用性によって規定される。世界の説明原理としては、神や絶対精神は不要であり、人間それ自身が世界を行動的につくりかえていく原理としてたてられなければならない、というのである。
 以上の諸例からすでに明らかなように、ヒューマニズムはそれぞれの時代に、実にさまざまな思想形態において登場する。それらにおいて共通する面といえば、せいぜい「人間らしさ」の尊重ということにすぎない。ところが、その「人間らしさ」がしばしば正反対の方向において追求されるのである。ある者は、人間は人間を限りなく超えたもの、すなわち神や絶対者とのかかわりにおいてだけ自己の人間性を真に実現していくことができると主張する。他の者は、これとは反対に、人間である限り人間の自然的素質を伸ばしていくことが本当の人間らしさだという。またある者は、科学や技術の合理性を徹底的に追求していくことが結局は人間性を拡充し、人類の幸福を実現していくことにつながるという。これに対して、他の者は、科学技術の発達は人間を機械文明の主人公どころか、その奴隷に等しい位置に引きずり下ろしてしまった、世界の合理化、機械化は人間を非人間化していく過程であり、それに抵抗する方向においてのみヒューマニズムは実現されうるのだ、と反論する。このように、現代のヒューマニズムが向かうところは、正反対の方向に分裂しつつある。同じく「人間らしさ」の尊重をいうにしても、その人間性をいかなる方向に拡充していくかが問題なのである。[伊藤勝彦]

ヒューマニズムを超えて

「人間らしさhumanitas」ということばを最初に使ったのはキケロであるといわれるが、彼のフマニタスというのはかならずしも人間性の理想全体を表さず、それは文明人だけがもつ優雅さといった程度の意味のことばであった。ローマ人は「人間らしい人間homo humanus」ということをいうが、これはもともと「異邦人homo barbarus」に対していわれたことばである。つまり、異邦人は文化的教養の低い野蛮な人間であるが、これに比べ自分たちはギリシアから受け継いだ教養に加え、ローマ人としての諸徳を備えた、文化的に洗練された人間なのだという自負が、このことばには込められているのである。
 1537年にローマ教皇パウルス3世は、インド人や黒人やアメリカの土着民たちを「本当の人間」と認めることにする回勅を出したというが、そうすると、それまでは彼らは人間と認められていなかったことになる。ヒューマニズムというのが、自分と風俗、習慣、思想を同じくする人間だけを人間らしい人間と考え、それ以外の人間をすべて人間の規格から外れた存在と考える見方であるとすれば、これはずいぶん身がってなものの見方であるといわねばならない。ヒューマニズムが「人間らしさ」の強調であるとすれば、どうしてもこうした自己中心主義、自国中心主義に陥ってしまうが、自己中心主義にヒューマニズムの本質がないことは明らかであるから、ヒューマニズムは絶えず自己を乗り越えていくことによって自己を実現していくもの、ということになる。つまり、「ヒューマニズムを超えて」ということが、実はヒューマニズムの本質なのである。[伊藤勝彦]
『渡辺一夫著『私のヒューマニズム』(講談社現代新書) ▽西川富雄著『現代とヒューマニズム』(1966・法律文化社) ▽伊藤勝彦著『愛の思想』(1967・番町書房) ▽伊藤勝彦編『対話・思想の発生――ヒューマニズムを越えて』(1967・番町書房)』

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世界大百科事典内のヒューマニズムの言及

【人文主義】より

…英語humanism,フランス語humanisme,ドイツ語Humanismusなどの訳語。西欧語をそのまま写してヒューマニズム,ユマニスム,フマニスムスなどと表記されることも多い。…

【人文主義】より

…英語humanism,フランス語humanisme,ドイツ語Humanismusなどの訳語。西欧語をそのまま写してヒューマニズム,ユマニスム,フマニスムスなどと表記されることも多い。その語義は広狭多様で,人間主義,人本主義,人道主義などの訳語もある。…

※「ヒューマニズム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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