ビワ(読み)びわ

改訂新版 世界大百科事典 「ビワ」の意味・わかりやすい解説

ビワ (枇杷)
loquat
Japanese medlar
Eriobotrya japonica(Thunb.)Lindl.

バラ科の常緑果樹。小高木で,枝は太く,柔毛を密生する。葉は互生し,革質で長楕円形から倒狭卵形。粗鋸歯がある。花は初冬に,枝端の褐色の綿毛をかぶった円錐花序に多数つき,白色。果実は5~6月に橙黄色に熟し,内に大きな種子を有する。中国の中・南部や日本の南西暖地に原産したと推定されているが,中国での栽培歴は古く,6世紀に著された《広志》には白肉種と黄肉種の存在が記されている。現在ではすぐれた品種は接木によって繁殖されるが,実生繁殖で増殖されることもあるため,品質は雑多である。しかし,果実の形によって丸形と長形に大別され,果肉色によって橙紅系,橙黄色・白肉系に分けられる。中国南部の浙江省,福建省湖南省広東省などに有名産地がある。

 日本におけるビワ栽培の歴史は明らかでないが,10世紀に著された《延喜式》や《本草和名》に記載があり,当時は比波(ひわ)と呼ばれたようである。それは日本に自生のビワで,現在の栽培品種と比べ果実が小さく,食用としての利用価値は低かったと考えられる。果実としての利用が高まったのは大果品種の茂木(もぎ)が育成されてからのことである。茂木は天保・弘化(1830-48)のころに,貿易船によって中国から長崎にもたらされた果実の種子から育成されたものである。この品種は在来のビワに比べて果実が大きく品質がよいため,明治の初期以降しだいに近隣に普及し,長崎県茂木地方で栽培が盛んになり,同地方は現在でも茂木ビワの特産地となっている。一方,茂木と並び称される大果品種の田中は1879年に田中芳男が長崎から種子を東京にもち帰って播種(はしゆ)し,その実生中から選抜,育成したものである。これも,もとは中国系のビワである。これら2品種は現在でも日本のビワの主要品種で,両者でビワ栽培面積の80%以上を占めている。このように日本で栽培されている大果のビワ品種は,中国から渡来したビワの実生中から生じたものである。明治以前のビワには品種名がなく,大果のビワを唐ビワと称し,在来の小果のビワをヒワと称していたようである。

 11月上旬~2月下旬にわたって開花するので,冬季温暖な地域が栽培適地である。開花,結実後は摘果,袋掛けが行われる。果実は軟らかく,傷みやすいので収穫,運搬などはていねいに行う。果肉が軟らかく多汁で甘味酸味がほどよく含まれるため生食に適しているが,長距離輸送や長期の保存には向かないので,季節的な果物である。シロップ漬の缶詰にもされ,最近ではビワ酒の原料にも利用されている。また中華料理で使われる杏仁(きようにん)の代用ともなる。材は硬く,装飾用建材,つえ,木刀などに加工,利用される。
執筆者:

葉を枇杷葉という。サポニンアミグダリン,ビタミンB1タンニンなどを含み,他の生薬と配合して,鎮咳,去痰,健胃,鎮吐薬とする。また,民間で皮膚炎やあせも煎汁湿布あるいは浴湯料とする。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビワ」の意味・わかりやすい解説

ビワ
びわ / 枇杷
[学] Eriobotrya japonica Lindl.

バラ科(APG分類:バラ科)の常緑中高木。中国の中・南部地方に原生する。また、日本では大分、山口、福井県などで野生がみられる。『日本三代実録』(901)、『本草和名(ほんぞうわみょう)』(918)など多くの文献にその名が記載され、古くから利用されていた。葉は濃緑色で浅い鋸歯(きょし)をもち、長さ20センチメートル、幅10センチメートルで短い葉柄がある。表面は革質、裏面には灰白色の短毛が密生する。花は枝の先端にできる円錐(えんすい)花序に密につき、晩秋から初冬に開花し、淡い黄白色がかった白色で5弁からなり、径1センチメートル、芳香がある。果実は房状につき、球形または倒卵形で綿毛に覆われ、宿存萼(がく)をもち、初夏に黄色に熟す。

 熟果は在来種では10グラム、改良種では50グラム。2心室で各室に1、2個の大きな種子がある。種子は外面は黒褐色で光沢があり、内に肉質の白い子葉がある。明治初期までは在来の丸形の小果品を枇杷(びわ)とよび、大果品を唐枇杷(とうびわ)とよんでいた。長崎地方では天保(てんぽう)・弘化(こうか)年間(1830~1848)から中国大陸中部のビワの種子を輸入、播種(はしゅ)して、実生(みしょう)から大果の品種を選んでいた。大果品種の「茂木(もぎ)」はこうしたなかから、長崎県茂木町で選ばれたもので、果形は倒卵形、果重は50グラム、甘く、品質優良で、九州や瀬戸内の暖地の主要品種となった。品種「田中」は1879年(明治12)、長崎の大果品の種子を田中芳男が東京に持ち帰り播種したなかから得られたといい、果形は前者より丸みを帯びやや酸味が強いが豊産性で、房総や伊豆地方に多い。ほかに10余品種が知られる。長崎では長形果をヒワ、丸形果をビワと区別することもある。2017年(平成29)の全国栽培面積は1240ヘクタールで生産量は3630トン、長崎、千葉、香川、鹿児島、愛媛などに多い。生果のほか缶詰に利用される。種子にはアミグダリンがあり、杏仁(きょうにん)の代用となる。材は粘り強く、折れにくいため、小道具類の材とされる。名は、果実の形が琵琶(びわ)に似ているから転用されたとも、葉がそれに似ていることによるともいわれる。

[飯塚宗夫 2020年1月21日]

『農山漁村文化協会編・刊『果樹園芸大百科11 ビワ』(2000)』


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食の医学館 「ビワ」の解説

ビワ

《栄養と働き&調理のポイント》


 ビワは原産地の中国で、もっとも古くから栽培された果樹です。日本でも1000年前には利用されていました。ふつうのくだものとは異なり、晩秋から初冬に花が咲き、初夏に実がなります。
○栄養成分としての働き
 ビワはカロテンが豊富で、その含有量は緑色のピーマンを上回り、くだもののなかではベスト3に入ります。粘膜(ねんまく)や皮膚を強化し、かぜのせきやのどの痛みの緩和に効きます。このほかビタミンB群・C、カリウム、リンゴ酸、クエン酸などを含み、すぐれた栄養食品です。このため夏かぜの症状緩和や疲労回復、食欲増進に役立ちます。
 葉にはタンニンが含まれ、細菌の繁殖や炎症を抑えるので、外用するとかぶれなどの皮膚疾患に効きます。また、レートリルというビタミン様物質が含まれ、せき止めのほか、がん予防にも有効といわれています。
○漢方的な働き
 果肉には肺を潤してせきを止めるほか、胃腸の働きをととのえたり、嘔吐(おうと)を止めたりする作用があるとされています。
 葉にも去痰(きょたん)、鎮咳(ちんがい)、利尿、声がれ、吐(は)き気(け)止めの効用があり、また暑気払いや腸炎予防にも用いられています。種は肝臓病、むくみ、せきに効くといわれています。

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栄養・生化学辞典 「ビワ」の解説

ビワ

 [Eriobotrya japonica].バラ目バラ科ビワ属の常緑高木で果実を食用にする.

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