モズ(読み)もず(英語表記)shrike

翻訳|shrike

改訂新版 世界大百科事典 「モズ」の意味・わかりやすい解説

モズ (百舌/鵙)
shrike

スズメ目モズ科Laniidaeの鳥の総称,またはそのうちの1種を指す。この科の鳥は全長18~35cm。先端がかぎ状になった強いくちばしと鋭いつめのあるがっしりした脚をもち,頭は大きく,丸みを帯びた体つきをしている。尾は比較的長い。モズ科には,ヨーロッパ,アジア,アフリカ,北アメリカに分布するモズ類25種,アフリカ産のヤブモズ類約40種,ボルネオ産のブタゲモズ1種が含まれる。林縁,疎林,樹木がまばらに生えた草原などに単独かつがいですみ,見通しのよい枝や杭に止まって地上を見張り獲物を見つけると飛びかかってくちばしや脚で獲物をとらえる。大型昆虫類,カエルトカゲのほかに,小鳥や小型のネズミ類までとり,獲物は脚でおさえるか,あるいはとがった枝に突きさしてから,くちばしで引き裂いて食べる。モズ類は,〈はやにえ〉をつくることでも有名である。はやにえは,春から秋にかけての食物の豊富な時期に,木のとげ,枝先などの鋭くとがったものに,とらえた獲物を突きさし,そのまま食べずに残されたもので,一部は冬の間に食べられることが知られている。

 モズLanius bucephalus(英名bull-headed shrike)は全長約21cm,雄は頭部が褐色で黒色の太い過眼線がある。上面は灰色をしていて,翼に白斑があり,下面は淡褐色である。雌は全体に褐色をしていて,過眼線も褐色で,翼には白斑がない。林縁や樹木がまばらに生えた農耕地にすみ,よく茂った枝にわん形の巣をつくり,1腹3~6個の卵を産む。秋から冬の間はテリトリーをもって単独ですみ,枝や杭に止まり,半円を描くように尾を左右に振りながら,キィーキィーキィーキチキチキチキチというかん高い声で〈高鳴き〉をする。サハリンから日本および中国北部まで分布し,大陸のものは中国東部で越冬する。日本では九州以北の各地で繁殖する。

 アカモズL.cristatus(英名brown shrike)は全長約20cm,モズによく似ているが,尾が短く,上面は赤褐色で,下面が白い。林縁,疎林,やぶのある草原にすみ,平地よりも山地や高原に多い。東アジアに分布し,日本では本州中部以北に4月末ころから夏鳥として渡来し繁殖する。チゴモズL.tigrinus(英名thick-billed shrike)は全長約18cm,雄は頭部が青灰色で,黒色の太い過眼線がある。上面は赤褐色をしていて,細い黒色の横縞があり,下面は白い。雌は雄に似るが,眼の後方黒褐色で,わき腹に褐色の横縞がある。前2種よりも樹木の多い場所を好む。東アジアに分布し,日本には5月中旬ころに夏鳥として渡来し,本州と北海道で繁殖する。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「モズ」の意味・わかりやすい解説

モズ

(1) Lanius bucephalus; bull-headed shrike スズメ目モズ科。全長 20cm。雄は頭上から背が灰褐色,胸腹部は淡褐色を帯びた白色で,眉斑は白く,黒色の太い過眼線がある。は黒褐色で,飛ぶとよく目立つ白斑がある。雌の翼の白斑は非常に小さく,眉斑は灰褐色であまり目立たない。ウスリー地方からアムール地方,サハリン島東アジア北部に繁殖分布し,北方で繁殖するものは南方に渡って越冬する。日本では全国各地で繁殖し,おもに本州中部以南で越冬する。枝や杭などの上に留まって獲物を探索し,昆虫類やカエル,トカゲなどを見つけると舞い降りてとる。ときには自分より大きなツグミほどの大きさの鳥もとる。捕えた獲物はその場で食べることもあるが,枝上で押さえつけるか,樹木のとげやとがった枝などに突き刺すかして引き裂いて食べる。また,獲物や食べ残しを木の枝などに突き刺しておいてあとで食べる「モズのはやにえ(早贄)」をする。モズの高鳴きとして知られる「きぃーきぃーきぃー,きちきちきち」という鳴き声は,秋季に 1羽ずつ構える越冬期のなわばりを宣言している。漢字で百舌と書くように,早春と初秋にはさまざまな鳥の鳴き声をまねてさえずる(→さえずり)。
(2) Laniidae; shrikes スズメ目モズ科の鳥の総称。4属 33種からなる。全長 14~50cm。頭がやや大きく,先端がかぎ状になった鋭いをもち,足の爪も鋭い。尾はやや長く,全体として細身な種が多い。ユーラシア大陸とアフリカに分布するほか,北アメリカに 2種,ニューギニア島に 1種生息する。おもに温帯から熱帯域に分布し,ユーラシア大陸と北アメリカの北部で繁殖する鳥は南に渡って越冬する。低木の散在するステップサバナ,農耕地などのほか,少数が森に生息する。肉食で,昆虫類から小鳥,小型哺乳類まで獲物にし,「はやにえ」の行動を見せる。繁殖期にはつがいで,非繁殖期には単独でなわばりをもつ。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「モズ」の意味・わかりやすい解説

モズ
もず / 百舌

shrike

広義には鳥綱スズメ目モズ科に属する鳥の総称で、狭義にはそのうちの1種をさす。この科Laniidaeの仲間は主として旧世界の鳥で、中央・南アメリカ、オーストラリア、ニューギニア島、ニュージーランド、マダガスカル島、グリーンランドを除く地域に広く分布する。70種(74種とする説もある)が知られ、とくにアフリカに多種を産する。全長15~38センチメートル。一般に嘴(くちばし)は強く、先が鉤(かぎ)状であり、嘴毛(しもう)をもつ。足や指も強く、物をしっかりつかむことができる。尾は長いものが多く、それを振る動作をよく行う。紅、黄、緑など鮮やかな色の組合せのものや、黒、灰、白、茶色などの組合せのものが多く、雌雄も同色のものが多い。肉食性で、昆虫、小鳥、爬虫類(はちゅうるい)、小哺乳類(ほにゅうるい)などをとらえる。大多数の種が、いわゆる「はやにえ」をつくる習性をもち、とらえた小動物をとがった木の枝などに刺す。一般に林や農耕地、草原が点在した疎林や林縁部に生息し、高い木の先などに止まって餌(えさ)を探し、地上でとらえる。巣は林縁の低木の中などに、小枝、枯れ草、羽毛などを使って椀(わん)形につくる。4~5卵を産むものが多いが、2~8卵のものもある。日本ではモズ、チゴモズ、アカモズ(亜種ウスアカモズを含む)、オオモズ、オオカラモズの5種が知られている。このうち、オオカラモズLanius sphenocercusはアジア大陸東部に生息し、日本ではまれに冬季に少数が迷行してくるのみである。

 種のモズL. bucephalusは全長20センチメートル。アジア大陸東部の温帯地域に分布する。日本ではもっとも一般的で、分布も広い。全国で繁殖しているが、本州北部や北海道では夏鳥である。秋季、本州以西の平地では大きな声で鳴く姿をよくみることができる。この声を昔からとくに「高鳴き」とよんでいる。これは、肉食性のモズが餌の少ない冬季を過ごすための縄張りを確保する目的のためと考えられている。繁殖は他の鳥よりも早く、関東地方の平地でも4月初旬には巣立ちがみられる。

[柳澤紀夫]


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百科事典マイペディア 「モズ」の意味・わかりやすい解説

モズ

モズ科の鳥。翼長8.5cm。頭頂,後頸は赤褐色で,翼は灰黒色。雄は顔に黒い過眼線をもつ。朝鮮半島,中国,日本などで繁殖。日本では全国で繁殖し,北のものは冬,暖地へ渡る。低地〜山地のやぶに巣を作り,一年中群は作らない。昆虫,ミミズ,ネズミ等を食べ,捕らえた獲物をとがった枝に刺す習性があり,〈モズのはやにえ〉として知られる。秋にはキーッ,キイキイと高く鳴く。よくカッコウに托卵される。日本で見られるモズ類には夏鳥のアカモズ,チゴモズ,冬鳥のオオモズ,オオカラモズなどがある。チゴモズは絶滅危惧IA類,アカモズは絶滅危惧IB類(環境省第4次レッドリスト)。

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