訴訟法上、同一事件については再度の審理・判決を禁止するとの原則をいう。
[本間義信]
刑事事件では、審判の対象が過去に行われたとされる犯罪行為であるから、一事不再理の原則が貫徹する。つまり、有罪・無罪の判決、免訴の判決が確定すると、その事件について再度責任を問われることはなく(憲法39条)、確定判決があるのに同一事件についてふたたび公訴が提起されると、免訴の判決が言い渡される(刑事訴訟法337条1号)。
[本間義信]
民事事件では、審判の対象である私法上の権利関係が時の経過とともに変化することがある(たとえば、判決で100万円の債権の存在が確定しても、何事もなく10年が経過すれば消滅時効にかかり、なくなってしまう)。また、前訴と後訴とでは異なった時点における別の権利が判断の対象になることが多く、厳密な意味での同一の事件というものはなく、前訴で判決した権利が後訴で争われても、その権利について審判しないというわけにはいかず、前訴判決での判断を前提として後訴裁判所は判断することになる。たとえば、前訴で1億円の債権の存在が確定し、数年後にその利息支払いの後訴が提起されたとき、1億円については前訴判決で判断済だからといって却下するわけにはいかない。1億円の債権が存在するとの判断をして、その利息の存否について判断することが必要である。このように、民事訴訟では、判決の効力は、前訴判決の判断内容が後訴裁判所を拘束する、という形で現れ(これを既判力という)、一事不再理という形では現れないのが普通である。しかし、これは民事事件における権利の前記の特徴からそのような現れ方をするにすぎないのであって、その根拠は一事不再理である、として理念化する考え方もある。
[本間義信]
ある犯罪事件で一度訴追されれば,あとで同じ事件について再度の訴追を受けないという原則。すでにローマ法でne bis in idemとして確立し,中世から近世初期の糾問主義の時代に一時否定されたことがあるものの,フランス革命後は,近代刑事訴訟法の基本原則として,ほぼどこの国でも承認されている。日本国憲法にもこれを宣言した規定がある(39条)。一事不再理は,判決の内容が通用することになる既判力の効果にほかならないという考えもないわけではないが,通説は,国が公訴権を行使したという手続に注目して認められるものと解している。英米では〈二重の危険double jeopardy〉の原則(2度以上裁判にかけられないという意味)とよばれる。一事不再理の効力は,訴訟理論上,〈公訴事実の同一性〉といわれる範囲に及ぶものと考えられている。そこで,まったく同じ犯罪を2度訴追することが許されないばかりか,科刑上一罪の一部に(たとえば住居侵入・窃盗のうち窃盗だけについて)裁判があると,残りの部分(住居侵入)を再起訴することはできなくなる。また,一度に解明することができたはずの隣接犯罪でも,起訴はできなくなる(たとえば窃盗→盗品等に関する罪)。もしこの原則に反して再起訴がなされると,免訴の判決でしりぞけられる。民事訴訟法上は,一般に刑事訴訟のような一事不再理の効力はないといわれているが,近年,既判力における遮断効を一事不再理と称することはある。しかし,一事不再理は,被告人の人権のために認められたもので,本質的には刑事訴訟上の原則である。なお,公法上問題とされる一事不再議については,〈国会〉の項目を参照されたい。
執筆者:田宮 裕
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…【鈴木 正裕】
【刑事裁判における既判力】
たとえば,いったん被告人に無罪判決が言い渡されると,検察官は新証拠が出てきても同じ事件について再起訴することはできず,もしも起訴がなされると,免訴の裁判で排斥されてしまう。これは,一事不再理の原則にほかならないが,刑事訴訟では,一事不再理の効力を既判力とよぶことが多い。しかし,一事不再理の原則は,〈二重の危険〉を禁止するという人権保障のための手続的要請に由来するものと考えられているので,既判力は,民事訴訟とパラレルに,裁判所の判断の効力をさすものと考えたほうがよい。…
※「一事不再理」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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