一事不再理(読み)イチジフサイリ

デジタル大辞泉 「一事不再理」の意味・読み・例文・類語

いちじ‐ふさいり【一事不再理】

刑事訴訟法上、事件についての判決が確定したとき、同一事件については再度審理を許さないこと。

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精選版 日本国語大辞典 「一事不再理」の意味・読み・例文・類語

いちじ‐ふさいり【一事不再理】

  1. 〘 名詞 〙 刑事訴訟法の原則の一つ。すでに確定判決がなされた事件については、重ねて公訴の提起を許さない、とするもの。現行憲法の第三九条に規定

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「一事不再理」の意味・わかりやすい解説

一事不再理
いちじふさいり

訴訟法上、同一事件については再度の審理・判決を禁止するとの原則をいう。

[本間義信]

刑事訴訟における一事不再理

刑事事件では、審判の対象が過去に行われたとされる犯罪行為であるから、一事不再理の原則が貫徹する。つまり、有罪無罪の判決、免訴の判決が確定すると、その事件について再度責任を問われることはなく(憲法39条)、確定判決があるのに同一事件についてふたたび公訴が提起されると、免訴の判決が言い渡される(刑事訴訟法337条1号)。

[本間義信]

民事訴訟における一事不再理

民事事件では、審判の対象である私法上の権利関係が時の経過とともに変化することがある(たとえば、判決で100万円の債権の存在が確定しても、何事もなく10年が経過すれば消滅時効にかかり、なくなってしまう)。また、前訴と後訴とでは異なった時点における別の権利が判断の対象になることが多く、厳密な意味での同一の事件というものはなく、前訴で判決した権利が後訴で争われても、その権利について審判しないというわけにはいかず、前訴判決での判断を前提として後訴裁判所は判断することになる。たとえば、前訴で1億円の債権の存在が確定し、数年後にその利息支払いの後訴が提起されたとき、1億円については前訴判決で判断済だからといって却下するわけにはいかない。1億円の債権が存在するとの判断をして、その利息の存否について判断することが必要である。このように、民事訴訟では、判決の効力は、前訴判決の判断内容が後訴裁判所を拘束する、という形で現れ(これを既判力という)、一事不再理という形では現れないのが普通である。しかし、これは民事事件における権利の前記の特徴からそのような現れ方をするにすぎないのであって、その根拠は一事不再理である、として理念化する考え方もある。

[本間義信]

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改訂新版 世界大百科事典 「一事不再理」の意味・わかりやすい解説

一事不再理 (いちじふさいり)

ある犯罪事件で一度訴追されれば,あとで同じ事件について再度の訴追を受けないという原則。すでにローマ法でne bis in idemとして確立し,中世から近世初期の糾問主義の時代に一時否定されたことがあるものの,フランス革命後は,近代刑事訴訟法の基本原則として,ほぼどこの国でも承認されている。日本国憲法にもこれを宣言した規定がある(39条)。一事不再理は,判決の内容が通用することになる既判力の効果にほかならないという考えもないわけではないが,通説は,国が公訴権を行使したという手続に注目して認められるものと解している。英米では〈二重の危険double jeopardy〉の原則(2度以上裁判にかけられないという意味)とよばれる。一事不再理の効力は,訴訟理論上,〈公訴事実の同一性〉といわれる範囲に及ぶものと考えられている。そこで,まったく同じ犯罪を2度訴追することが許されないばかりか,科刑上一罪の一部に(たとえば住居侵入・窃盗のうち窃盗だけについて)裁判があると,残りの部分(住居侵入)を再起訴することはできなくなる。また,一度に解明することができたはずの隣接犯罪でも,起訴はできなくなる(たとえば窃盗→盗品等に関する罪)。もしこの原則に反して再起訴がなされると,免訴の判決でしりぞけられる。民事訴訟法上は,一般に刑事訴訟のような一事不再理の効力はないといわれているが,近年,既判力における遮断効を一事不再理と称することはある。しかし,一事不再理は,被告人の人権のために認められたもので,本質的には刑事訴訟上の原則である。なお,公法上問題とされる一事不再議については,〈国会〉の項目を参照されたい。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「一事不再理」の意味・わかりやすい解説

一事不再理
いちじふさいり
ne bis in idem

刑事訴訟法上,ある事件について有罪無罪の判決または免訴の判決があって確定した場合に,同一事件について再び公訴を提起することを許さない原則をいう。再び公訴が提起されたときは,審理を行なわずに免訴の判決がなされる。 (1) 日本国憲法 39条が「何人も……既に無罪とされた行為については,刑事上の責任を問はれない。叉,同一の犯罪について,重ねて刑事上の責任を問はれない」と規定するのは,この原則を明らかにしたものと解されている。同条は被告人に不利益な変更を禁止する趣旨であるから,被告人に有利な変更 (有罪を無罪としたり,より軽い罪や刑を言い渡すこと) は憲法上さしつかえない。 (2) 刑事訴訟上既判力という概念を用いるときも,もっぱら一事不再理をさしていることが多い。その本質については,公訴権が消滅した結果と考える説,判断内容の確定の効果とみる説,あるいは二重の危険の観念に基づくものとする説などさまざまな立場がある。民事訴訟法上も,この原理から既判力を説明しようとする考え方があるが,通説は,既判力と一事不再理は別個のものであるという立場をとる。

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百科事典マイペディア 「一事不再理」の意味・わかりやすい解説

一事不再理【いちじふさいり】

刑事訴訟において一度判決(有罪・無罪判決,免訴判決)が確定した事件については,その既判力の効果として再度の訴訟・審判を禁止すること。憲法39条の規定はこの趣旨を明文化。誤って再び公訴が提起されたときは免訴を言い渡さなければならない(刑事訴訟法337条)。

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世界大百科事典(旧版)内の一事不再理の言及

【既判力】より

…【鈴木 正裕】
【刑事裁判における既判力】
 たとえば,いったん被告人に無罪判決が言い渡されると,検察官は新証拠が出てきても同じ事件について再起訴することはできず,もしも起訴がなされると,免訴の裁判で排斥されてしまう。これは,一事不再理の原則にほかならないが,刑事訴訟では,一事不再理の効力を既判力とよぶことが多い。しかし,一事不再理の原則は,〈二重の危険〉を禁止するという人権保障のための手続的要請に由来するものと考えられているので,既判力は,民事訴訟とパラレルに,裁判所の判断の効力をさすものと考えたほうがよい。…

※「一事不再理」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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