不動産利用権(読み)ふどうさんりようけん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「不動産利用権」の意味・わかりやすい解説

不動産利用権
ふどうさんりようけん

他人の不動産を利用する権利を不動産利用権と総称することができる。これは、権利の性質によって大きく二つのタイプに分けられる。一つは、物に対する直接の権利とされる物権としての不動産利用権であり、地上権(民法265条以下)、永小作権(同270条以下)、地役権(ちえきけん)(同280条以下)、他人の土地に入り会う入会権(いりあいけん)(同294条―共有の性質を有しない入会権)がそれである。もう一つは、人に対する権利とされる債権としての不動産利用権であり、不動産使用借権(民法593条以下)および不動産賃借権(同601条以下)がそれである。物権としての不動産利用権は、物権としての性質を有しているから、登記をする権利(地主には登記をする義務がある)があり(入会権は慣習によって生ずる総有的な権利であるから登記されることはない)、登記することによって第三者に対抗でき(民法177条)、また、自由に処分できる(譲渡性がある)。しかし、地上権、永小作権は、現実にはあまり用いられていない。債権としての不動産利用権のうち、不動産賃借権は、社会においてもっとも頻繁に成立し、重要な役割を果たしている。しかし、債権は物権と比較すると、効力が弱く、利用権者に不利である。そこで、社会的に重要な役割を果たしている不動産の賃借権は、特別法によって保護が図られ、強化されている。

(1)地上権 他人の土地において工作物または竹木を所有するためにその土地を使用する権利(民法265条)。地代の支払いは地上権成立のために必須ではないが、通常は地上権設定契約で地代の支払義務が約されるであろう。工作物とは家屋、塀、電柱、池、トンネルなど地上、地下のいっさいの設備をさし、竹木の種類には制限がないが、耕作を目的とする果樹などは永小作権の対象となる。地上権はまた、地下または空間を、上下の範囲を定めて工作物を所有するためにその目的とすることができる(民法269条の二)。たとえば、地下については地下鉄、地下街などを所有するため、空間については高架線、高速道路などを所有するためなどである。これを区分地上権とか部分地上権という(地下についての区分地上権を地下権、空間につき空中権などともいう)。

(2)永小作権 小作料を支払って他人の土地で耕作または牧畜をする権利(民法270条)。今日、実際の例はあまりないようである。地代の支払いは永小作権の要素である。永小作権は物権であるから、譲渡性があるが、設定契約で譲渡や賃貸を禁じることができ(同272条)、それを登記すれば第三者に対抗できる。

(3)地役権 設定行為(地役権を設定する契約)で定められた目的に従って、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利(同280条)。たとえば、自己の土地に出入りするために他人の土地を通行する(通行地役権という)とか、自己の土地に他人の土地を通過させて引水する(引水地役権という)とか、自己の土地の観望を確保するために隣地のある部分に建物を建てないようにさせる(観望地役権という)などの目的のために設定される。便益を受ける土地を要役地、便益に供される土地を承役地という。通路を開設した通行地役権のように、間断なく行使され(「継続」)、かつ外部からみえる(「表現」)ものは、時効取得が認められている(民法283条)。

(4)入会権 他人の土地に入り会う入会権(共有の性質を有しない入会権)は、一定の集落の地域住民が、他人の山林や原野に入って、収益する(雑草や薪炭用雑木などを採取するなど)権利である。この種類の入会権は、各地方の慣習に従って法律関係が決められるほか、地役権の規定が準用される(民法294条)。

(5)使用借権 借主が無償で他人の物を使用、収益する権利(民法593条)。債権である。無償の権利であるから、使用借人の権利の保護は弱い。

(6)賃借権 当事者の一方(賃借人)が、相手方(賃貸人)に対して、賃料を支払ってある物の使用、収益をする権利(民法601条)。債権であるが、不動産賃借権、とくに借地権、借家権は社会的に重要な役割を果たしているので、特別法(かつては、建物保護法、借地法、借家法。現在は借地借家法)によって保護が図られている。

[淡路剛久]

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