767年(神護景雲1)に後の陸奥国栗原郡に設置された城柵。海道に置かれた桃生(ものう)城に対して,陸奥国の山道を治めるために築造された。築造に際しては在地の豪族道嶋三山が活躍し,三旬を経ずして完成したと記されている。780年(宝亀11)には,この地方上治郡の大領伊治呰麻呂(あざまろ)が伊治城で反乱をくわだて,按察使(あぜち)紀広純が殺害された。こういった事件が起こったものの,その後796年(延暦15)には,東国,越後・出羽などの国から9000人もの民を伊治城に移住させている。このようなことから伊治城は,宮城県最北の栗原地方を治め,さらに岩手県の北上川中流域に勢力を拡大するための根拠地といった役割をになったものと考えられる。遺跡は宮城県栗原市の旧築館町城生野にあり,築館丘陵東端部の標高20mほどの段丘上に立地し,北に二迫川が,また東には一迫川が流れている。規模は方約700mの不整形とみられる。全体像は明瞭ではないが,北の区画施設は,土塁と大溝である。土塁は幅7.5m,高さ2.5mほどで,その内側の大溝は幅約10m,深さ3.5mの規模をもつ。内部からは城柵らしい建物跡などは検出されていないが,密集して存在する竪穴住居などから〈城厨〉〈常陸国〉の墨書土器を含む8世紀後半から9世紀初頭にかけての土器が多数発見されている。加えて重圏文軒丸瓦等の瓦類も採集されており,調査の結果も本遺跡を伊治城跡と見てなんら矛盾しないことを示している。なお,多賀城跡出土の漆紙文書の中の〈此治城〉の記載は伊治城を示す語と考えられている。もし伊治城=此治城だとするならば,この城は〈いじ〉ではなく〈これはる(り)〉と呼ばれていたことになろう。すると伊治(これはる(り))の地が後に栗原(くりはら)と表記を変えたことも音に共通性があるのでうなずける。また,かねてより意味が不明の〈上治郡〉も〈上〉が〈此〉の誤記で上治郡=此治郡だとすると,この疑問も氷解することになる。
執筆者:桑原 滋郎
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宮城県栗原(くりはら)市築館城生野(つきだてじょうの)に想定されている古代東北地方の城柵(じょうさく)。767年(神護景雲1)東北経営の最北の拠点として鎮守将軍田中朝臣多太麻呂(あそんただまろ)・道島宿禰三山(みちしまのすくねみやま)らにより造営され、翌年、翌々年にかけて柵戸の充実を図るべく百姓の強制移住が行われた。780年(宝亀11)当城において按察使(あぜち)紀朝臣広純(きのあそんひろずみ)らが上治郡大領伊治公呰麻呂(いじのきみあざまろ)らに殺害された、いわゆる伊治呰麻呂の乱が起こっている。796年(延暦15)には坂東(ばんどう)諸国の民衆9000人を遷置し、呰麻呂の反乱以来の荒廃の立て直しを図った。1976年(昭和51)より発掘調査が行われ「城厨」などと書かれた墨書土器が発見されている。
[酒寄雅志]
陸奥国におかれた古代の城柵。宮城県栗原市築館城生野(じょうの)にあり,一迫(いちはさま)川と二迫(にのはさま)川が合流する段丘上に位置する。道島三山(みちしまのみやま)の建言で,767年(神護景雲元)30日にもみたない短期間で造営されたという。外郭施設は土塁・溝で,約700mの不整方形とみられるが不詳。政庁は東西54~58m,南北60mで,築地で区画される。780年(宝亀11)伊治呰麻呂(いじのあざまろ)が伊治城で按察使(あぜち)紀広純(きのひろずみ)らを殺害し,こののち奥羽両国で戦乱が続いた。796年(延暦15),東国や越後・出羽から9000人を伊治城に移配するが,のち史料から消える。これまで「いじ」と読まれてきたが,「これはる」「これはり」の可能性が高い。城跡は国史跡。
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…日本古代の城柵。758年(天平宝字2)の桃生(ものう)城についで767年(神護景雲1)に宮城県最北端に伊治城が造られると,次には北の胆沢(いさわ)の地つまり岩手県南部が,律令政府にとって領土獲得の対象となった。そこで伊治城から13年遅れて780年(宝亀11)に覚鱉城築城の議がもち上がった。…
※「伊治城」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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