化学辞典 第2版 「元素の起源」の解説
元素の起源
ゲンソノキゲン
origin of elements
元素の起源に関する理論は,大別すると二通りあって,一つは宇宙の創成時に全元素が一気に創成されたとする核創成説(nucleogenesis),もう一方は,現在でも元素の合成が行われているとする核合成説(nucleosynthesis)である.1948年にPhysical Reviewに発表されたR.A. Alpher,H. Bethe,G. Gamowの理論(通称αβγ理論)は,前者の代表的論文で,原始宇宙は高温・高密度で,かれらがylemとよぶ,中性子からなる原始物質からなっていて(のちに林忠四朗(1950年)が中性子以外に陽子が1/4存在とした),β崩壊と中性子捕獲の繰り返しにより全元素が合成されたとする.しかし,この合成法では,質量数5と8の安定核種が存在しないため,その先に元素合成が進まないことが判明した.1952年,赤色巨星(S型恒星)中にテクネチウム(半減期最長の核種でも460万年)の存在が分光学的に確認されたことは,核合成が現時点でも起こっている決定的証拠で,1957年にE.M. Burbigde,G.R. Burbidge,W.A. Fowler,F. Hoyleが発表した理論はB2FH理論とよばれ,核合成説の根本をなしている.この理論によれば,宇宙の元素組成の98% を占める水素とヘリウムの大部分と少量のリチウムは,宇宙創成時のいわゆる,ビッグバン(Big Bang)最初の3分間につくられ,より重い元素は,現在も進行している以下の過程により合成される.
(1)水素燃焼過程でHe,
(2)ヘリウム燃焼過程で質量数が4の倍数の核種 12C,16O,20Ne,24Mg,
(3)α過程(炭素燃焼過程)で 20Ne,24Mg,…,48Ti まで.
(4)e過程(平衡過程)では燃焼が進んで高温になり,3×109 K 以上で,(γ,α),(γ,p),(γ,n),(α,γ),(p,γ),(n,γ),(p,n)などの反応が平衡になり,質量数60付近の 56Ni,54Fe など,もっとも安定な鉄付近の元素まで合成される.これ以上の重元素は,中性子捕獲過程による.
(5)s過程.100~100万年尺度の遅い(n,γ)過程.α崩壊でこの過程の進行が妨げられるまでの 209Bi 程度まで.
(6)r過程.超新星の爆発中に起こる(n,γ)過程で,中性子束密度がきわめて高く10~100秒けたで急速に起こり,α,β崩壊が起こるまえに不安定核種を乗り越えられるので,232Th,238U と 242Pu から,自発核分裂寿命が短くなる質量数270までが合成される.
(7)p過程.陽子捕獲による小数の陽子過剰の重い核種同重体の生成.
(8)x過程.恒星内部で合成できないD,Li,Be,Bは特別な過程を必要としていたが,現在では,宇宙線によるC,N,O核の破砕反応で説明する.
当時は,宇宙における元素組成を説明するまったくの理論的研究であったが,加速器技術の進歩により,各過程を実験的に検証できるようになり,核合成説は基本的に正しいと理解されている.ブルックヘブン国立研究所のRICH重イオン衝突型加速器は,原始宇宙のylemにあたるクォーク・グルオン・プラズマ状態の再現をめざし,理化学研究所のRIビームファクトリーでは,重元素に至る核合成の道筋をたどる実験がなされている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報