元素の起源(読み)げんそのきげん(英語表記)origin of elements

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

自然界には 90種をこえる元素が存在し,約 280種の安定な核種が見出されている。これらの元素の起源は 1948年 G.ガモフらによって初めて本格的に研究された。彼らは宇宙が膨張を始めた最初の 20分間の高温度・高密度状態で陽子中性子から出発してすべての元素が合成されたと主張 (αβγ理論 ) したが,質量数5と8の安定な核種が存在しないので,彼らの説ではヘリウムより重い元素が合成されることを説明するのに無理があった。その後,恒星進化論の発展を受けて,57年 G.M.バービッジ,E.M.バービッジ,W.A.ファウラー,F.ホイルの4人と A.G.W.キャメロンとが別々に,ヘリウムより重い元素は恒星内部での熱核反応で合成されると主張した。天体観測と原子核物理学の進歩や大型計算機の利用により,今日ではほとんどすべての核種の生成過程が明らかにされている。恒星の進化の各段階に,それぞれ異なった元素合成過程が起る。星が誕生し,やがて主系列に達すると,その中心部でp-p連鎖またはC-Nサイクルによって水素からヘリウム4が合成される。中心部の水素が消費しつくされると星は赤色巨星になる。その中心温度が約1億Kに上がるとヘリウム燃焼によってヘリウムから炭素 12が合成される。次いで炭素 12とヘリウム4から酸素 16が合成される。この過程を炭素燃焼という。大質量の星ではさらにネオン 20,マグネシウム 24,ケイ素 28などが合成される。中心温度がさらに上昇し,約 30億Kに達すると,ケイ素 28からα過程によって鉄 56にいたる一連の元素が合成される。ヘリウム燃焼や炭素燃焼過程で生じる中性子を次々に捕獲するs過程によってビスマス 209にいたる核種が合成される。星の進化の最終段階で爆発して超新星となるときに発生する大量の中性子によって起るr過程では,さらに重い元素が合成され,またこのとき陽子を捕獲するp過程でいくつかの核種が合成される。一方,リチウム,ベリリウム,ホウ素の軽元素は安定性が小さく,これらの合成過程では生成されない。これらの元素は,宇宙線が星の表面や星間空間にある炭素,窒素,酸素の原子核に衝突し,これを破砕することにより生成される。

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知恵蔵の解説

現在観測されるヘリウムやリチウムなど一部の軽元素の起源は、ビッグバン宇宙論で説明できる。この理論は、宇宙初期の温度、密度などを予言し、その状態下での陽子、中性子の核反応により軽元素の生成量が正確に計算できる。そこでは、観測と矛盾しない値が得られており、同宇宙論の正しさの証拠とされている。さらに生成される軽元素の重量は光子数密度とバリオン数密度の比に依存するので、観測される軽元素の重量比からこの比に対する厳しい制限が得られる。

(二間瀬敏史 東北大学大学院理学研究科教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

化学辞典 第2版の解説

元素の起源に関する理論は,大別すると二通りあって,一つは宇宙の創成時に全元素が一気に創成されたとする核創成説(nucleogenesis),もう一方は,現在でも元素の合成が行われているとする核合成説(nucleosynthesis)である.1948年にPhysical Reviewに発表されたR.A. Alpher,H. Bethe,G. Gamowの理論(通称αβγ理論)は,前者の代表的論文で,原始宇宙は高温・高密度で,かれらがylemとよぶ,中性子からなる原始物質からなっていて(のちに林忠四朗(1950年)が中性子以外に陽子が1/4存在とした),β崩壊と中性子捕獲の繰り返しにより全元素が合成されたとする.しかし,この合成法では,質量数5と8の安定核種が存在しないため,その先に元素合成が進まないことが判明した.1952年,赤色巨星(S型恒星)中にテクネチウム(半減期最長の核種でも460万年)の存在が分光学的に確認されたことは,核合成が現時点でも起こっている決定的証拠で,1957年にE.M. Burbigde,G.R. Burbidge,W.A. Fowler,F. Hoyleが発表した理論はB2FH理論とよばれ,核合成説の根本をなしている.この理論によれば,宇宙の元素組成の98% を占める水素とヘリウムの大部分と少量のリチウムは,宇宙創成時のいわゆる,ビッグバン(Big Bang)最初の3分間につくられ,より重い元素は,現在も進行している以下の過程により合成される.
(1)水素燃焼過程でHe,
(2)ヘリウム燃焼過程で質量数が4の倍数の核種 12C,16O,20Ne,24Mg,
(3)α過程(炭素燃焼過程)で 20Ne,24Mg,…,48Ti まで.
(4)e過程(平衡過程)では燃焼が進んで高温になり,3×109 K 以上で,(γ,α),(γ,p),(γ,n),(α,γ),(p,γ),(n,γ),(p,n)などの反応が平衡になり,質量数60付近の 56Ni,54Fe など,もっとも安定な鉄付近の元素まで合成される.これ以上の重元素は,中性子捕獲過程による.
(5)s過程.100~100万年尺度の遅い(n,γ)過程.α崩壊でこの過程の進行が妨げられるまでの 209Bi 程度まで.
(6)r過程.超新星の爆発中に起こる(n,γ)過程で,中性子束密度がきわめて高く10~100秒けたで急速に起こり,α,β崩壊が起こるまえに不安定核種を乗り越えられるので,232Th,238U と 242Pu から,自発核分裂寿命が短くなる質量数270までが合成される.
(7)p過程.陽子捕獲による小数の陽子過剰の重い核種同重体の生成.
(8)x過程.恒星内部で合成できないD,Li,Be,Bは特別な過程を必要としていたが,現在では,宇宙線によるC,N,O核の破砕反応で説明する.
当時は,宇宙における元素組成を説明するまったくの理論的研究であったが,加速器技術の進歩により,各過程を実験的に検証できるようになり,核合成説は基本的に正しいと理解されている.ブルックヘブン国立研究所のRICH重イオン衝突型加速器は,原始宇宙のylemにあたるクォーク・グルオン・プラズマ状態の再現をめざし,理化学研究所のRIビームファクトリーでは,重元素に至る核合成の道筋をたどる実験がなされている.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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