化学辞典 第2版 「光リン酸化」の解説
光リン酸化
コウリンサンカ
photophosphorylation
光化学反応にもとづく電子伝達に共役して,アデノシン5′-二リン酸(ADP)と無機リン酸(Pi)からアデノシン5′-三リン酸(ATP)が合成される反応.高等植物の葉緑体,および光合成細菌のクロマトフォアについて,1954年,D.I. Arnonら,およびA. Frenkelによりこの反応の存在が実証され,ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化と対比させて,光リン酸化とよぶようになった.【Ⅰ】非循環型および循環型光リン酸化:光リン酸化は,共役する電子伝達系の形式により,非循環型光リン酸化と循環型光リン酸化に大別できる.前者は,非循環型電子伝達に共役するもので,電子供与体と電子受容体との間で酸化還元反応が起こる.後者は,循環型電子伝達に共役するもので,光化学反応系に含まれる色素から励起放出された電子が,環状の電子伝達経路を通ってもとの点に戻る過程で共役が起こる.このため,反応の前後において酸化還元反応は認められない.[別用語参照]電子伝達系(光合成)
(非循環型光リン酸化)
【Ⅱ】葉緑体の光リン酸化:高等植物葉緑体における非循環型光リン酸化は,水分子から供与された電子が光化学反応系2および系1を経て,NADP+を還元する過程で共役する.共役部位は,プラストキノンとシトクロムfの間に1か所存在すると考えられており,電子2個当たり形成されるATP分子の数は1とされている.循環型光リン酸化は光化学反応系1によってクロロフィルaから励起放出された電子が,シトクロム b6(実験的には,PMS(フェナジンメトサルファート)などの電子伝達補助因子が使われる)を介して形成される環状の電子伝達経路上で共役する.共役部位は,系1の電子受容体P700とシトクロム b6 の間にあると考えられている.【Ⅲ】光合成細菌の光リン酸化:光合成細菌は,ただ一つの光化学反応系を有し,循環型光リン酸化が主体である.バクテリオクロロフィルから励起放出された電子が,ユビキノン,シトクロムb,シトクロムcで形成された循環電子伝達系を経て,もとの点に戻る経路上で共役する.また,紅色硫黄細菌における S2-,S2O42-の光酸化や,紅色硫黄細菌における有機酸を電子供与体とした光依存性のCO2固定反応などの非循環型電子伝達にも,リン酸化が共役していると考えられる.【Ⅳ】光リン酸化の機構:光リン酸化は,酸化的リン酸化の場合と同じく,H+ の勾配を利用して回転するモータータンパク質(ATP synthase)によって行われると考えられている.脱共役剤,エネルギー伝達阻害剤が存在すること,シラコイド膜内外のpH勾配によりATPが生成すること,ATPase活性をもつモーター分子が存在すること,などの実験事実が根拠となっているが,そのほとんどが酸化的リン酸化の場合に観察されるものと共通の現象である.このように,光リン酸化と酸化的リン酸化は,自由エネルギーの供与体が,前者では光エネルギーであり,後者では化学結合エネルギーである点を別にすれば,両者とも電子伝達に共役して起こるリン酸化反応であり,本質的には同一の概念に属する反応である.[別用語参照]光合成
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報