八風街道(読み)はつぷうかいどう

日本歴史地名大系 「八風街道」の解説

八風街道
はつぷうかいどう

湖東と伊勢を結ぶ八風峠(標高九三八メートル)の道で、中世には主要な商業路であった。街道名は、八方から風が吹当たることに由来するという峠名による。「輿地志略」によれば田光たびか越・日光越ともよばれ、中山道愛知川えちがわ宿(現愛知郡愛知川町)より国境まで一一里、国境より伊勢桑名まで七里余とあり、愛知川宿起点とする。しかし南の千草ちぐさ越の道とともに、中世以来の伊勢越の要路であり、幾筋かの関連道があったとみるべきで、起点を定めることは実態とそぐわないであろう。江戸時代の道筋を概観すると、街道筋の結節点は八日市で、これは中山道からはずれるが、中山道愛知川宿、武佐むさ宿(現近江八幡市)に結ばれる。

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改訂新版 世界大百科事典 「八風街道」の意味・わかりやすい解説

八風街道 (はっぷうかいどう)

滋賀県(近江)と三重県北部(伊勢)を結ぶ鈴鹿山脈越えの街道。中世には南方の千草街道とともに,近江商人の伊勢路へ出る重要な通商交通路であった。近江八幡や八日市方面から,御園(みその)・山上(やまがみ)を通って相谷(あいだに)の永源寺に至り,それから山道を政所・杜葉尾(ゆずりほう)と八風谷をたどって鈴鹿山脈の八風峠を越えれば朝明(あさけ)川沿いにすぐ伊勢平野に出る。蒲生郡八日市方面のいわゆる近江商人はここから桑名を経て美濃にまで商圏を広げ,紙,木わた,塩,ノリ,ワカメ,魚類,布など多種多様の商品を扱って,近江各地に売りさばき,定期的に京都にまで行商した。彼らは四本(しほん)商人とも山越商人とも呼ばれてその内部結束は固く,領主である山門(比叡山延暦寺)の威を背景にして八風・千草両街道の交通を押さえ,通商を独占し,他所の商人団が通行するようなことがあると,直ちに杜葉尾などへ出ばってその荷物をおし取ったり訴訟に持ち込んだりした。1558年(永禄1),四本商人中の保内商人と愛知(えち)郡枝村商人との間に起こされた争論は特に有名であるが,結局1560年9月に至り保内商人の勝利に帰した。八風街道はまた京都より伊勢に赴く近道として貴族や連歌師にも利用され,山科言継(ときつぐ)の日記にも1533年(天文2)この山道を伊勢にたどった記載がある。
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百科事典マイペディア 「八風街道」の意味・わかりやすい解説

八風街道【はっぷうかいどう】

近江国と伊勢国を結ぶ鈴鹿山脈越えの街道で,八風越・田光(たびか)越・日光越ともよばれた。中山(なかせん)道の近江愛知川(えちがわ)宿から伊勢国境まで11里,国境から伊勢桑名まで7里余。南方の千種(ちぐさ)街道とともに中世には近江商人が伊勢に出る際に通行した主要な商業路であった。近江国の八日市(ようかいち)方面から妙法寺・山上を経て愛知川をさかのぼり,八風峠(標高938m)を越えて伊勢国に入り,切畑(きりばた)・田光を経て桑名方面に至った。戦国期には近江の保内商人を中心とする山越四本商人らが,塩をはじめとする海産物や工芸品・紙・布などの商品を輸送した。保内商人は街道通行の独占を図り,他所の商人としばしば相論が起こった。1558年に愛知(えち)郡枝村(現滋賀県豊郷町)との間に起こった美濃紙の流通をめぐる相論はよく知られる。なお1526年に連歌師宗長,1533年に山科言継が八風峠を越えている。
→関連項目千草街道

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「八風街道」の意味・わかりやすい解説

八風街道
はっぷうかいどう

滋賀県中部と三重県北部を結ぶ街道。滋賀県東近江市から鈴鹿山脈の八風峠を越え三重県桑名市に通じる。中世には同じ鈴鹿山脈の杉峠から根の平峠に抜ける千種越とともに,京都から名古屋にいたる間道として近江商人の伊勢通商などに利用されたが,近世にはしだいに衰えた。現在は国道 421号線となり,約 3km北の石榑 (いしくれ) を通る鈴鹿山脈の横断路となっている。

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事典・日本の観光資源 「八風街道」の解説

八風街道

(滋賀県東近江市)
湖国百選 街道編」指定の観光名所。

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世界大百科事典(旧版)内の八風街道の言及

【八日市[市]】より

…市域の大部分は蒲生野(がもうの)と呼ばれる台地に位置している。中心市街地の八日市は多賀大社に通じる御代参(ごだいさん)街道と鈴鹿山脈を越えて伊勢に通じる八風(はつぷう)街道が交差する交通の要衝で,明治以前は毎月2・8の日に市が開かれた。1920年ほぼ中央の沖野に飛行場が建設され,翌年第16師団航空第3大隊が配置されたため,45年までは軍事都市的な性格が濃厚であった。…

※「八風街道」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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