兵庫県立コウノトリの郷公園(読み)ひょうごけんりつこうのとりのさとこうえん(英語表記)Hyogo Prefectural Homeland for the Oriental White Stork

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

兵庫県立コウノトリの郷公園
ひょうごけんりつこうのとりのさとこうえん
Hyogo Prefectural Homeland for the Oriental White Stork

兵庫県豊岡市にある公共施設。1999年(平成11)に兵庫県が設置した。国の特別天然記念物であるコウノトリを保護し、その種の保存を図るとともに、豊かな自然のなかで、コウノトリその他の野生生物と共存できる、人と自然との調和した環境の創造について県民の理解を深め、教育、学術および文化の発展に寄与することを目的とする。コウノトリ野生復帰プロジェクトの拠点として知られる。なお、豊岡市は、コウノトリの日本最後の生息地となった歴史をもつ。所在地は、兵庫県豊岡市祥雲寺字二ヶ谷128番地。

池田 啓]

施設の概要

兵庫県と豊岡市は、絶滅危機にあったコウノトリを保護するため、1965年(昭和40)豊岡市野上(のじょう)に「特別天然記念物コウノトリ飼育場」(現、コウノトリの郷公園附属コウノトリ保護増殖センター)を設置し、飼育下での増殖を開始した。当時、豊岡に生息していたコウノトリのつがいを捕獲し繁殖を試みたり、また動物園で飼育されていた個体も導入してつがいの形成を試みたがうまくいかなかった。

 その後、1985年、ロシアのハバロフスク地方から6羽の幼鳥を譲り受け、人工繁殖が成功し、1989年(平成1)に初めてのヒナが誕生。以降順調に繁殖がうまくいき、飼育個体数の増加をみたことから、1992年からコウノトリの将来構想の検討に入った。1995年には、コウノトリの郷公園基本計画が策定され、そして1999年、コウノトリを野生復帰させることを目的として、豊岡市祥雲寺地区に「兵庫県立コウノトリの郷公園」が誕生した。

 同郷公園は、165ヘクタールの山林湿地からなる用地に、繁殖や飼育、また野生馴化に用いるさまざまな形状のケージ17基と、管理・研究棟、飼育管理棟、検疫棟が配置されている。また、敷地内には湿地や里山の観察ができる園路、観察サイト、四阿(あずまや)も配置されている。附属施設のコウノトリ保護増殖センターには、飼育・繁殖ケージ11基、管理棟、育雛棟があり保護増殖を行うとともに、集団感染などの危険の分散を図る機能も果たしている。

[池田 啓]

機能

コウノトリの郷公園は設置目的を達成するため、「コウノトリを遺伝的に管理して種の保存を図り、その野生化に向けた科学的研究と実験的な試みを行い、人と自然が共生できる地域環境の創造に関して普及啓発する」ことを基本的な機能としている。この機能を果たすために、郷公園には総務課(園長、副園長、事務職員、指導主事)と田園生態研究部(研究員、獣医師、飼育員)が置かれている。

 研究部の研究員は兵庫県立大学の自然・環境科学研究所の4名の教員が兼務し、郷公園に常駐して、保全生物学、動物生態学、景観生態学、環境社会学の分野に立脚しながら、コウノトリの野生復帰を基軸にした地域の環境保全に関する実践的な研究に取り組んでいる。総務課の指導主事は、自然解説員、パークティーチャーとともに環境教育を主軸に、コウノトリの野生復帰に向けた普及啓発を行っている。

[池田 啓]

事業内容

コウノトリの保護増殖では、飼育下での遺伝的な多様性を確保しながら増殖をめざし、つがいの形成、繁殖技術の改良を行い、2006年の繁殖期を終えた時点で、郷公園に71羽、保護増殖センターに36羽を飼育している。

 コウノトリを野生復帰させるには、飼育下での個体数の確保とともに、放鳥されたコウノトリが生息できる環境が整わなければならない。このため地理情報システムを用い、コウノトリが生活するうえで必要な環境、そして餌となる生物の分布や量の把握を行い、生息環境の評価を行っている。その結果、餌に関してはコウノトリの保護が叫ばれていたころと同程度の羽数なら生息できる環境があると推定された。地理情報システムによる研究成果は、コウノトリの野生復帰のための環境修復技術に応用され、魚道(ぎょどう)の設置、河川の横断工作物の解消、湿地の再生など、地域の環境保全の政策に生かされている。

 コウノトリの野生復帰に向けた実践的な研究が行われている一方で、コウノトリの郷公園の一部は一般に開放され、公園内に設置された豊岡市立文化館コウノピアと一体となって、野生復帰への理解を深めるための活動が行われている。パークボランティアの養成、ガイドウォーク、講演会や講座の開催、総合学習や環境学習の受け入れなど、さまざまなを活動が展開されている。

 2005年に行われたコウノトリの放鳥によって、郷公園はコウノトリを野生復帰させようとしているユニークな施設として知名度が高まり、2006年度には48万人を超す来園者があった。

[池田 啓]

コウノトリ野生復帰プロジェクト

コウノトリの野生復帰は、その種が絶滅したかつての生息地に、ふたたび自立した個体群を確立する「再導入(リイントロダクションreintroduction)」として取り組まれている。放鳥されるコウノトリは飼育下で繁殖した個体のため、野外での生活に必要な飛行や採餌など種々の訓練が施された。放鳥の方法は、適切な場所でそのまま放鳥するハードリリースと、放鳥のための拠点を設け、その場所に馴らした後に放鳥するソフトリリースとが試みられている。

 2005年はハードリリースで5羽、ソフトリリースで4羽が、2006年はハードリリースで3羽、ソフトリリースで4羽が放鳥された。放鳥されたコウノトリのすべてが問題なく飛行し、また野外での採餌も行っていた。なかには、1週間から1か月にわたって長距離の移動をした後に戻ってきた複数の個体がいるなど、放鳥個体がもつ野生個体並みの飛行能力と定位能力が明らかになった。

 2005年に放鳥された個体は翌年つがいを形成し、人工巣塔で38年ぶりの野外での産卵を行なったが、ヒナの誕生までには至らなかった。2006年にはソフトリリースの一手法によってヒナ2羽が自然巣立ちした。2007年には1組のつがいが、産卵の後、自然条件下では国内で43年ぶりとなるヒナ誕生に至った。

 この2回の放鳥において、4羽が飼育下へ回収され、2007年春の時点で、14羽が豊岡盆地内で生活している。コウノトリの郷公園では、2005年から5年間はこのような試験放鳥を行い、野生復帰に必要なデータの収集、あるいは定着技術の開発を行い、その後の本格放鳥の実施を計画している。

[池田 啓]

『加藤紀子著『コウノトリ――大空へ帰る日』(2002・神戸新聞社)』『『コウノトリ再び空へ』(2006・神戸新聞総合出版センター)』『池田啓・菊地直樹著『但馬のこうのとり』(2006・但馬文化協会)』『菊地直樹著『蘇るコウノトリ――野生復帰から地域再生へ』(2006・東京大学出版会)』『大田黒摩利・絵、かわべひな・文『コウノトリのカータ』(2006・コウノトリブック倶楽部発行、どうぶつ社発売)』『川端裕人著『動物園にできること――「種の箱舟」のゆくえ』(文春文庫)』『平田剛士著『なぜイノシシは増え、コウノトリは減ったのか』(平凡社新書)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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