出雲の神,具体的には出雲大社を対象とする信仰。出雲の神,出雲国が,古くから特殊の存在であったことは,いろいろの点から推察される。《古事記》《日本書紀》における出雲系神話の量は多大であるし,歴史時代に入ってからでも,出雲の場合は国造制を最後までのこし,その出雲国造(くにのみやつこ)は代替りごとに参朝して神賀詞(かんよごと)を奏上するという慣行をもった。そのような古代以来の実績と直接つながるかどうかは不明であるが,やがて中世になると,ここにいわゆる〈神在月(かみありづき)〉なる伝承をもつようになる。すなわち旧暦10月を他国では神無月(かんなづき)というが,ひとり出雲国では神在月という。それはこの月中,他国からは神々が出るのに,出雲国では逆に集まって来るからだという伝承である。この神在月という語が文献上に出てくるのはだいたい室町時代からであるが,《看聞日記》応永32年(1425)10月30日の条には,はっきり出雲へ行くと書いている。以来このことは各時代の文献にしきりと出てくるし,一方民俗としても現在なお全国に及んでいる。そして出雲の地元では,この期間中,出雲大社・佐太(さだ)神社ほか数社で,神迎え・神送り神事(からさで神事)が行われている。狂言の《福の神》に,いつも大歳(おおとし)には福を求めて出雲の大社(おおやしろ)へ参るとある。西鶴の《世間胸算用》には〈出雲は仲人の神〉とあって,早くから出雲の神は福の神・縁結びの神という信仰も生じていたが,とくに近代ではこの縁結びということが強く意識され,出雲大社といえばただちに結婚式を連想するほどにまでなった。こうした出雲信仰の普及には,古代以来の背景もあるに違いないが,より直接的には,およそ中世の末ころから活発化した,出雲大社の御師(おし)の行動に負うところも少なくなかったと思われる。それは明治維新で終わったが,今度は神道大社教・出雲教が成立し,その信徒組織が今日ではこの出雲信仰を支える大きな力となっている。
→出雲大社 →大黒天
執筆者:石塚 尊俊
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島根県の出雲大社およびその主祭神大国主命(おおくにぬしのみこと)の神徳に対する信仰。大国主命は『出雲国風土記(ふどき)』に「天の下造らせし大神」と記され、『神代紀』に少彦名命(すくなひこなのみこと)と力をあわせ心を一にして天下を経営し、蒼生(あおひとくさ)(庶民)と畜産のための療病や、鳥獣昆虫の災異を祓(はら)うために禁厭(まじない)の方法を定めて百姓みな恩頼(おんらい)を蒙(こうむ)っているとあり、古くから人々の生活の安泰を保障する神として崇敬されていた。その信仰は時代の推移とともにさまざまに変容して民間信仰に浸透していったが、とくに中世以降に大社の御師(おし)による布教活動が盛んに行われ、その信仰は広範な地域に伝播(でんぱ)した。大国主命は仏教の守護神である大黒天に習合されて七福神の一となったが、それは大国の音読「だいこく」と通じたため同じ神と信ぜられたものである。大黒天が頭巾(ずきん)をかぶり、左肩に大きな袋を背負い、右手には小槌(こづち)を持ち、米俵を踏まえている姿で表されるのは、神話上の大国主命の行状を表現している。さらに御子神(みこがみ)の事代主神(ことしろぬしのかみ)が夷(えびす)神と信じられると、えびす大黒と併称されるようになり、福神的性格を強めていっそう大衆化していった。また、大国主命は縁結びの神として崇(あが)められる。『古事記』には大国主命と須勢理毘売命(すせりひめのみこと)とが「宇伎由比(うきゆひ)して宇那賀気理(うながけり)て(契(ちぎ)りを結んで、互いに首に手をかけ合って)いまに至るまで鎮(しず)まり坐(ま)す」とある。現実に出雲大社の本殿は、その左側(向かって右)に須勢理毘売命を祀(まつ)る摂社大后(おおきさき)神社(御向社(みむかいのやしろ))と並んで座しており、『古事記』の記述と一致している。それが男女縁結び信仰の神として崇められる由縁(ゆえん)である。旧暦10月に全国の神々が出雲に集まり、諸国の氏子(うじこ)男女の縁結びを相談すると伝承されるに至った。出雲大社に対する信仰は出雲講、甲子(こうし)講などとよばれる講が組織され、各地で活動していた。
[菟田俊彦]
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