デジタル大辞泉 「利息制限法」の意味・読み・例文・類語
りそく‐せいげんほう〔‐セイゲンハフ〕【利息制限法】
[補説]平成18年(2006)の貸金業法改正以前、多くの貸金業者が、出資法の旧上限金利(年29.2パーセント)と利息制限法の上限金利(年15~20パーセント)の間(グレーゾーン金利)で貸し付けを行い問題視されていた。平成22年(2010)6月に貸金業法等の改正が完全施行され、出資法の上限金利は20パーセントに引き下げられ、グレーゾーン金利は撤廃された。
利息の最高限を法定し,主として消費信用における不当な高利を制限することを目的とする法律(1954公布)。徴利の禁止は,すでに中世教会法支配下の西欧諸国において,〈銭は銭を生むことなし〉の標語のもとに,強制された規範であった。しかし,徴利禁止が法制化される反面,当時の社会的・経済的事情の変化に伴う投資行為の発達は,種々の脱法行為を考案させるに至り,利息禁止の法制は漸次緩和される方向をたどった。
市民社会の生成とともに,利息禁止に代わって,過度の利息徴収のみを禁止する制度の採用へと転化する。さらに19世紀に入ると,西欧諸国では,〈契約自由の原則〉の確立とあいまって,従来の利息制限を撤廃し,利息自由法の確立へと進んだ。しかし,利息制限の撤廃は,利息の自由を無制限に許容するものではなく,むしろ,より実質的な等価交換ないし衡平の観念に立脚しつつ,暴利行為を禁遏(きんあつ)し経済的弱者たる借主保護を利息取引上要請したのであった。ちなみに,ドイツ(民法138条2項,246条,刑法302条の1),オーストリア(民法879条),スイス(民法21条),フランス(民法1907条)では暴利禁止の規定を設け,イギリスではMoneylenders Act(1900-27)で過酷不当な高利を禁止している。
日本でも,古く律令時代に私人間の利息付貸籾契約である私出挙(しすいこ)(出挙)を禁止し,武家法時代にも利息制限に関する法制をみるが,近代法典として制定されたのは,1877年の太政官布告旧利息制限法によってであった。これは,主として消費信用における高利貸の不当な徴利を防止するために制定されたものである。さらに,1919年の制限利率の改正を経て,54年に全面改正によって制定されたのが現行法である。改正法は,旧法での制限利率が,第2次大戦後の経済事情の激変に伴う金利の実情に適合しなくなったので,その制限利率を改めるとともに,旧法時代に解釈上疑義のあった点を明文化した。その内容はつぎのとおりである。
すなわち,(1)利息の最高限を,元本10万円未満は年2割,元本10万円以上100万円未満は年1割8分,元本100万円以上は年1割5分にしたこと(利息制限法1条1項),(2)旧法で制限超過部分を〈裁判上無効〉としたのを,単に〈無効〉と改め,債務者が超過部分を任意に支払ったときは,その返還請求をできないとしたこと(同条2項),(3)天引きに関しては消費貸借の要物性(契約の成立には当事者の合意のほかに物の交付が必要であること)および利息制限に関連して疑義があったので,本法は,新たに規定を設け,天引額が,債務者の現実受領額を元本として算定した制限利率を超えるときは,その超過部分を元本の支払に充てたものとみなしたこと(2条),(4)金銭貸借に関し債権者が受ける元本以外の金銭は,契約締結の費用および債務の弁済費用を除き,利息とみなしたこと(3条),(5)金銭貸借における賠償額および違約金の最高限を明文化し,その超過部分を無効としたこと(4条),(6)賠償額の予定,違約金を制限する規定を商事にも適用するものとしたこと(利息制限法付則3条)などである。
本法が,(1)の支払超過利息を返還請求できないとしたことには強い批判があった。しかし,一連の判例は,超過部分を元本と一括して支払い,逆に過払金が生じた場合,過払金は不当利得として返還請求できると解し(1968年最高裁判所判決),利息制限法を事実上形骸化せしめるに至った。
→出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律
執筆者:森泉 章
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
高利を取り締まり、債務者を保護することを目的とする法律。1954年(昭和29)制定。昭和29年法律第100号。通常の金銭消費貸借契約と、債権者が業として行う(反復継続する意思をもってする)消費貸借である営業的金銭消費貸借契約とに分かれて規制が設けられている。
金銭消費貸借上の利息について、一定率(元本が10万円未満の場合は年2割、10万円以上100万円未満の場合は年1割8分、100万円以上の場合は年1割5分)を超える高利が制限され、その超過部分は私法(個人と個人の間を規律する法)上無効とされる。また、その制限が潜脱(ひそかに脱法)されないように、利息の天引の規制、みなし利息の特則、賠償額の予定の制限ならびに違約金の制限が規定されている。
かつて、同法には、債務者が制限超過利息を任意に支払ったときはその返還を請求できない旨を定める条項が存在していた。私法上無効であるはずの超過利息の返還を、債務者が要求することができないという矛盾に陥っていたのである。これに対して、裁判所は判例による法解釈を通して、まずは超過部分の元本充当を認め、そして、元本充当後も残る超過部分の返還請求が認められるに至り、同条項は実質的に死文化した。
貸金業者はいわゆるグレーゾーン金利(出資法に違反する刑罰金利と、利息制限法に違反して私法上違法となる制限金利との差)でもって金銭を貸し付けているのが通常であった。よって、前記判例の動向により、債務者はグレーゾーン金利の返還を求められるはずであった。しかし、1983年に制定された「貸金業の規制等に関する法律」(昭和58年法律第32号。「貸金業規制法」と略称されたが、2006年改正時「貸金業法」に改称)は、貸金業者への法規制を強めることの見返りに、貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づく支払いにつき、利息制限法超過部分(グレーゾーン金利)の支払いを有効な利息の債務の弁済とみなす場合(みなし弁済)があることを規定してしまった。ところが、裁判所は判例による法解釈を通して、今度はこの貸金業法の条項の適用範囲を狭めるようになった。この裁判所による再三の努力が結実し、2006年(平成18)には、超過利息の返還請求ができないとする利息制限法の条項が削除されるに至った(平成18年法律第115号)。また、同年の出資法改正により刑罰金利が引き下げられ、グレーゾーン金利は撤廃された。
[福原紀彦・武田典浩]
『小野秀誠著『利息制限の理論』(2010・勁草書房)』▽『大村敦志著『法律学大系 消費者法』第4版(2011・有斐閣)』▽『日本弁護士連合会編『消費者法講義』第4版(2013・日本評論社)』
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…元本がおのずから利息を生む力と冷厳で機能的な貨幣の性質は,人間関係を分解し腐食させる面をもつから,利子生み資本は一般に嫌悪された。一部にはたしかに近代に至っても高利が行われ,また利息天引きあるいは実質的には利息なのに手数料,礼金等の名目で金を別にとるなどの悪習があったので,利息制限法(1877公布,1954新法公布)や貸金業法(1949公布)が定められた。1954年には貸金業法に代わって出資法が定められた。…
… 銀行などの金融機関が行う預貯金や貸付けの利率については臨時金利調整法に基づいて利率の最高限が定められてきた(1994年以降,金利は自由化された)が,今日社会問題となっているのは,銀行等以外の,サラリーマン金融業者等によるもっと高金利の金銭の貸付けである。これに対しては,利息制限法,〈出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律〉(1954公布。以下,出資法と略称),および,〈貸金業の規制等に関する法律〉(1983公布。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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