包・裹・慎(読み)つつむ

精選版 日本国語大辞典 「包・裹・慎」の意味・読み・例文・類語

つつ・む【包・裹・慎】

〘他マ五(四)〙
[一] ある物を別の物で覆ったり囲んだりする。
① 物の全体を布、紙などの中におおいかこむ。おおってその中にいれる。
万葉(8C後)一八・四一〇二「白玉を都々美(ツツミ)て遣(や)らば菖蒲草(あやめぐさ)花橘にあへも貫くがね」
※竹取(9C末‐10C初)「形見とて脱ぎおく衣(きぬ)につつまんとすれば、ある天人つつませず」
② まわりをとりかこむ。周囲をとりまく。
※今鏡(1170)二「そのわたりを、いくさのうち廻(めぐ)りて、つつみたりければ」
※太平記(14C後)一五「敵に後をつつまれじと思ければ、一戦もせで兵庫を指て引退く」
③ 土を盛ったりして水の流れを囲んでせきとめる。堤をきずいて水を防ぐ。
常陸風土記(717‐724頃)香島・歌謡「白鳥(しろとり)の 羽が堤を 都都牟(ツツム)とも あらふまもうき はこえ」
④ 中にふくみもつ。ふくむ。
経国美談(1883‐84)〈矢野龍渓〉後「一面には温容あれども威厳を包める斉武の全権委員威波能」
謝意または慶意や弔意を示すために、お金をのし紙などにくるんで渡す。「お車代として一〇〇〇〇円つつむ」
[二] (慎) 人の感情や表情を内におさえて、外に表われないようにする。
表面にあらわさないで心の中にかくす。心にひめる。涙をこらえることにもいう。
※万葉(8C後)一三・三二八五「たらちねの母にも言はず褁有(つつめり)し心はよしゑ君がまにまに」
日葡辞書(1603‐04)「Tçutçumazu(ツツマズ) モノヲ ユウ」
② 感情の高ぶりをこらえる。堪えしのぶ。
源氏(1001‐14頃)宿木「昔思いでらるるにえつつみあへで、寄りゐ給へる柱もとのすだれの下より、やをらおよびて御袙をとらへつ」
他人の思わくを気づかって用心する。人目をはばかる。遠慮する。つつしむ。気がねする。
※竹取(9C末‐10C初)「人目も今はつつみ給はず泣き給ふ」

つつみ【包・裹・慎】

〘名〙 (動詞「つつむ(包)」の連用形の名詞化)
[一] 物を包むこと。また、物を包むもの。
① 物全体を紙や布などでおおい囲むこと。また、その物。包んだものを数えるのにも用いる。
※霊異記(810‐824)上「俛して道の頭(ほとり)を視れば、遺したる裹(ツツミ)の飯有り。〈興福寺本訓釈 裹 津々三〉」
※石山寺本金剛般若経集験記平安初期点(850頃)「岸上に一人有るを見る。手に小き幞(ツツミ)をもてり」
② 物を包むのに用いるもの。今の風呂敷などの類。昔は、裏をつけ、あわせのようにしたものを用いた。
※小川本願経四分律平安初期点(810頃)「若(ツツミ)に盛(い)れよ」
鍍金(めっき)すること。また、そのもの。
浮世草子・本朝諸士百家記(1709)一〇「天晴の御鐔又類なき御道具申上べき所なし、然れ共ケ程のお道具つつみにいたし候は何共合点まいらぬ」
[二] (慎) 感情や表情をおさえること。遠慮すること。はばかること。つつしみ。気がね。
※枕(10C終)一二〇「若き法師ばらの、足駄といふ物をはきて、いささかつつみもなく、下りのぼるとて」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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