化物(読み)ばけもの

精選版 日本国語大辞典 「化物」の意味・読み・例文・類語

ばけ‐もの【化物】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ばけて怪しい姿をするもの。自己の本来の姿を変え、人に怪異の情を起こさせるもの。怨念を持った人間は死んでからばけるといわれ、狐・狸・猫などもばけて人をたぶらかすとされる。おばけ。変化(へんげ)。妖怪。
    1. [初出の実例]「母君もはけ物のあらはれいでたる心ちして」(出典:有明の別(12C後)二)
  3. くわせ者。いんちきなやつ。
    1. [初出の実例]「いつとなく化物(バケモノ)仲間に入られ」(出典:談義本・根無草(1763‐69)前)
  4. ( 医者の姿になって行ったところから ) 遊郭遊女を買う僧侶のこと。
    1. [初出の実例]「やぼと化もの品川に入みだれ」(出典:雑俳・柳多留拾遺(1801)巻一六)
  5. 人形浄瑠璃社会で、専門家としての階梯を通らず、素人として年季を入れた人が玄人に転じた者をいう。必ずしも軽蔑した称呼ではない。
  6. 本筋の修行もしてない芸人で、何かのはずみに一躍人気を得た者。

け‐もつ【化物】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ( 「物」は衆生の意 ) 慈悲の心をもって衆生を教え導くこと。
    1. [初出の実例]「但化物之義、宜諸仏故」(出典:法華義疏(7C前)二)
  3. ばけもの。妖怪変化(ようかいへんげ)の類。
    1. [初出の実例]「凡(およそ)心有る人は物を信じ化物(ケモツ)を見じと思ふ可(べ)し」(出典:太平記(14C後)二四)

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改訂新版 世界大百科事典 「化物」の意味・わかりやすい解説

化物 (ばけもの)

妖怪変化(へんげ)などの怪異なものや,その出現によって引き起こされる怪異現象。江馬務は,〈妖怪は得体の知れないふしぎなもの,変化はあるものが外観的にその正体をかえたもの〉としているが,両者を明確に分けることはできない。化物は,本来の姿を変えて別の姿を現したものであり,その正体不明性が人々に恐怖を与えた。化物には,動植物や器物の化物のほか,怪音怪火などの自然現象も含まれ,人の姿で想像される場合はたいてい女子どもや爺婆などの周縁的な存在の姿をとった。また,大入道や一つ目小僧のように巨大な姿や片目片足などの姿で現れたり,狐・狸・狢(むじな)などのように人をアヤカシたりマドワカシたりするものもある。

 一般通念としての〈化物〉は,幽霊や亡霊,狐狸,鬼天狗,怪物などの類まで含んだ非常にあいまいな概念で,〈おばけ〉と呼ばれることが多い。しかし,民俗学では,化物と幽霊は別の存在であるととらえる。化物は幽霊と異なり,出現する場所が一定しており,また人を選ばずにタソガレやカワタレなど昼夜の境をなす〈逢魔が刻〉に出現するという特徴をもっているからである。また化物が出現する際には,冷たい風が吹く,生臭いにおいがする,周囲が暗くなるなどの異常な状況が現れ,ぞっと寒気がし総毛立つなどするという。

 化物は自己の体験や風聞などをもとに世間話として語られ,村人の共通の知識となっている。また昔話の中にも,古い道具類の霊が化けて人を脅す〈化物寺〉や,化物の正体を見ぬき言葉の力で退治する〈化物問答〉の話などがある。昔話の中の化物には,動植物や古道具類の化物のほか,二つの世界を媒介する河童,山姥,蜘蛛などがある。

 化物をその出現する場所から分類してみると次のようになる。

(1)山の怪 山男,山女,山姥百々爺(ももんじい),児啼爺(こなきじじ),白粉婆,古杣(ふるそま),一目連(いちもくれん),雪女,雪入道,日和坊(ひよりぼう),雨降り小僧,天狗山彦やまびこ)(呼子(よぶこ),天邪鬼,山響(やまひびき)),天狗倒し(山神楽,山囃子,天狗囃子,竹伐狸),砂かけ婆(砂まき狸)など。

(2)路傍の怪 通り物,野衾(のぶすま),芝搔(しばかき),髪切,かまいたち(鎌鼬),土転び,塗壁,天狗飛礫(てんぐつぶて),夜行(やぎよう),見越入道,高入道,七人小僧,つけひも小僧,打綿狸,糸引娘,釣瓶落し,柳婆,白坊主,油すまし,すねこすり,べとべとさん,頽馬(たいば),野宿火,狐火,狐松明,火取魔,みのむし,送雀,送狼(送丈),算盤坊主,こそこそ岩,杓子岩,わたし杓子など。

(3)家,屋敷の怪 座敷童子(ざしきわらし),納戸婆,倉ぼっこ,枕返し,灰坊主,かいなで,影女,うれん,紙舞,画霊,隠れ婆,黒玉,なめ女,けらけら女,網切,逆柱,家鳴(やなり),ろくろ首,加牟婆理(かんばり)入道など。

(4)川や海の怪 船幽霊,海坊主,海座頭,海女房,海女(うみおんな),磯姫,共潜(ともかつぎ),川赤子,河童,雁木小僧,手長足長,海市(かいし),橋姫,小豆とぎ,やろうか水,不知火(しらぬい),比べ火,天狗火,芝天狗,瀬坊主など。

(5)その他 ミカワリ婆,甘酒婆,一つ目小僧,青女房,元興寺(がごぜ),畳叩き,送提灯,置いてけ堀,貝吹坊,みさき風,火車(かしや),魍魎,魃(ひでりがみ),旧鼠(きゆうそ),五徳猫,猫又,三昧太郎など。

 民俗学では,化物は信仰が衰えて零落した神々の姿とし,その研究を通して日本人の古い信仰や共通の心意現象,生活意識,社会観などをさぐることを目的としている。化物はその出現する時間や空間がほぼ一定していることから,化物地図を作成してみることは,地域住民の心象世界を表現することにもなり,ひいては世界観をさぐる一助ともなろう。
怪物 →幽霊 →妖怪
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「化物」の意味・わかりやすい解説

化物
ばけもの

化けて怪しい姿をするもの。妖怪(ようかい)とほぼ同意義で、本体のあるものが姿を変えて出現し、人に怪異の情をおこさせるもの。怪談などの主人公には狐(きつね)、狸(たぬき)、猫などが、女人や僧侶(そうりょ)の姿となって現れるのが多い。幽霊というのは人間の亡霊の化物であるが、化物には動物のほか樹木や怪火など自然現象も含まれる。たとえば、埼玉県川越(かわごえ)市の喜多院には、化物杉といわれる木があり、伐(き)ると血が出るという伝承をもつ。

[大藤時彦]

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百科事典マイペディア 「化物」の意味・わかりやすい解説

化物【ばけもの】

妖怪(ようかい)

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世界大百科事典(旧版)内の化物の言及

【妖怪】より

…こうした妖怪の両義的性格は,祭祀の有無による神と妖怪の相互変換性,人間の生活態度や信仰心のあり方,来訪してくる神や異人(遊行する宗教者や芸能者,その他の生業形態の違う人々)との交流のしかたなど,さまざまな事がらを反映して形成されている。化物幽霊【小松 和彦】
【中国】
 前5世紀の孔子が〈怪力乱神〉を語らなかったと《論語》が伝えていることは,中国人の妖怪や霊異などに対する合理的な思考をよく表している。しかし,現実には,近年出土の墓葬文物などからもわかるように,儒家思想が徹底していなかった時代には,死者の魂が昇仙しまた再生するのを守護する,聖なる怪獣がみちみちていた。…

※「化物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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