雪の降りしきる夜に現れる女の妖怪。雪深い地方に多く伝承されている。青森では,美しい女が雪の夜道で通りすがりの人に赤子を預け姿を消す。その人は抱いている赤子がしだいに大きくなっていくので,口に短刀をくわえ,赤子が大きくならないようにする。そして,戻ってきた女に赤子を返すと,宝物や大力を授けてくれた。女は雪女だったという。東北地方に伝わるこの型で注目に値するのは,大力伝授のモティーフである。これは産女に頼まれて重い子どもを預かったら大力を伝授されたという〈産女の怪〉の話と共通する。産女は氏神であったとか,産女は決まって小正月の晩に出ると説く伝承も数多くみられ,総合すると,この大力伝授のモティーフは,神から選ばれた者が試練を経ることによって超能力を与えられるテーマに基づいているといえる。雪女の話でも,雪女は元日や小正月に現れるという伝承があり,歳神的性格を帯びている。こうした元来の神的要素は時代の変遷とともにしだいに薄らいでいき,一方では恐ろしい妖怪譚を生み出し,また一方では滑稽味のある笑話へと分化していった。例えば,長野や富山では,雪女が山小屋の猟師親子の前に現れ,親の方を殺す。雪女は,このことをだれにも話すな,話したら殺すと子の猟師にいう。十数年の歳月が流れ,猟師はうっかり妻に当時の模様を話す。ところが妻の正体は雪女であった。2人の間にはすでに子があったので,猟師は命だけは助けてもらったという。L.ハーンの《怪談》所収〈雪おんな〉と同一で,まったくの妖怪譚となっている。笑話化した雪女は〈雪女房〉〈しがま女房〉などに登場する。雪の夜に雪女が爺婆の家を訪れ,子どもを預ける。爺婆はその子を大切に育てるが,ちっとも風呂に入ろうとしない。そこでむりやりに風呂へ入れると,泡となって消えてしまったという。こうしてみると,どの話でも雪女は子どもを伴っている。このことから雪女の素姓に母子神的色彩の濃いことも指摘できよう。
執筆者:大島 広志
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雪の夜に現れるという女性姿の妖怪(ようかい)。雪女郎(じょうろう)、雪おんば、雪降り婆(ばば)などともいう。種々の要素が入り組んでおり、統一的な姿をみつけだすことは困難であるが、〔1〕雪の印象から、肌が白いとか白衣を着ているなどの伝承が多い。〔2〕喜多川歌麿(うたまろ)の描く錦絵(にしきえ)の雪女は美女の姿であるが、それは文芸的な発展の結果であって、むしろ老女や産死者の姿を考えている場合が多い。〔3〕雪の降り積む夜に出るというほか、正月元日に降りてきて最初の卯(う)の日に帰るという伝承がある。これは年神の降臨伝承と一致する。〔4〕雪女から赤子を抱いてくれと頼まれ、引き受けた人は大力を授かるとか、逆に殺されるなどの話があり、その点は産女(うぶめ)の伝承と一致する。〔5〕吹雪(ふぶき)の夜に宿を求める娘があり、泊めてやって翌朝みると、白衣の中に黄金があったという話は、「大歳(おおとし)の客」の昔話とも共通する。〔6〕女性の姿ではないが、雪入道や雪ん坊は1本足で、霜月二十三夜に訪れくる片足神(かたあしがみ)や山の神の姿に類似している。以上を総合すると、雪女は、雪害の恐ろしさや、雪中に閉じ込められた冬の閉塞(へいそく)状態を背景として、一方では産死者の霊など御霊(ごりょう)系の妖怪となり、また一方では年神など祖霊(それい)系の神々とも結び付いたのであろう。
[井之口章次]
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…雪を神去来のしるしとみた習俗らしく,青森県八戸地方では旧2月と9月の16日を農神と雪神様との入れかわる日と伝えている。この季節に神祭がある土地は全国的であって,雪の降る夜現れるという雪女も,このような神の零落した姿ではないかと考えられる。鳥取県東伯地方の山村で白幣をもち淡雪に乗って現れ〈水ごせ〉〈湯ごせ〉と言うといい,岐阜県北西部で〈雪ンド〉といって山小屋に来て水をくれというのも,女または雪玉の姿だという。…
※「雪女」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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