( 1 )本来、長い年月の意で、特に永年の繁栄や長寿を祝う言葉として古く中国からもたらされ、単に幾久しいの意で用いたり、非常に嬉しい気持などを表わす語として用いたりした。→せんしゅうばんぜい。
( 2 )芸能としての起源は明らかではないが、そこでも祝いの言葉として「千秋万歳」と唱えられたところから命名されたと思われる。
〈せんじゅまんざい〉とも読む。正月の祝福芸能の一つ。また,それを業とする者をさす場合もある。《新猿楽記》に〈千秋万歳之酒禱(さかほがい)〉とあるのが古い例で,鎌倉期では《明月記》《勘仲記》などにその参入の記事がみえる。《名語記》によると散所法師が初子(はつね)の日に家々を訪ねて行う祝言芸で,それによって禄物を得たという。室町期に入ると,声聞師(しようもじ)が正月に禁裏(5日),公方邸(7日)をはじめ,諸家に赴いて,千秋万歳を演じ,曲舞(くせまい)を舞った記録が多い。禁裏に参上するのは,もとは京都の北畠の声聞師であったが,のちには桜町や梅津の声聞師も参上した。その服装は《三十二番職人歌合》の絵によると1人は鳥甲(とりかぶと)に素襖(すおう)で扇を持ち,他は折烏帽子をつけて鼓を打つ。演者は3人または5人がふつうで,ときには7,8人のこともあった。近世に入って一時中断されたが,貞享年中(1684-88)から復興して禁中で大和万歳が演じた。その詞章は古いものは伝わっていないが,近世の禁中万歳の歌として言立(ことだて),富久舞,京之町,浜出(幸若舞曲の一つ),枡舞(ますまい),都久志舞の6曲が伝えられており,舞人,謡手,鼓打ちの3人が,それぞれ侍烏帽子に七草の藍ずりの素襖姿で,殿内の御庭に敷いた筵(むしろ)の上で演じた。この芸は早くから各地にもあって,近世には江戸城では三河万歳が演じた。新年にあたって神が来臨し祝福するという古代の信仰を背景とした奈良時代の乞食者(ほかいびと)に系譜をひくと考えられ,また,古代の踏歌(とうか)の余風(一条兼良の《花鳥余情》など)とも考えられている。
→万歳
執筆者:山本 吉左右
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…《詩経》の〈万寿無疆〉(〈豳風(ひんぷう)〉〈小雅〉など)は,賓客に対する万福万幸を祝すものである。戦国時代の《韓非子》顕学篇に至って祝福の詞として〈千秋万歳〉と熟した用例がみえる。人の死を指す語としては〈百年の後〉といういい方もあるが,国王,皇帝の死期をいうのに,直截な言表をさけて〈万歳千秋の後〉とか〈万歳の後〉と表現するのは,《史記》《漢書》をはじめとして多く見いだされるところである。…
…また,それを業とする者をさす場合もある。《新猿楽記》に〈千秋万歳之酒禱(さかほがい)〉とあるのが古い例で,鎌倉期では《明月記》《勘仲記》などにその参入の記事がみえる。《名語記》によると散所法師が初子(はつね)の日に家々を訪ねて行う祝言芸で,それによって禄物を得たという。…
…室町時代中期になると,この系統から戦記物語などに取材した比較的長い曲が生まれ,新しく後期の曲舞が勃興する。京都では北畠,桜町などの声聞師が年頭に宮中や貴族邸に参上して,千秋万歳(せんずまんざい)とともに《盛長夢物語》《頼朝都入》《和田酒盛》《那須与一》《百合若大臣》などの曲舞を演じ,近江,河内,美濃,摂津などの声聞師も連日のように京都で勧進し,奈良では興福寺配下の五ヶ所十座の声聞師の中に久世舞座が現れ,京都でも大頭(だいがしら)という流派もできた(大頭流)。若狭,能登,相模などの地方でも舞々と称してこれをよくするものが現れた。…
…古代には〈ほかいびと〉(ほかい)と呼ばれ,家々の門(かど)に立って祝言を述べ,その代償として物を乞う存在があった。中世になると千秋万歳(せんずまんざい),物吉(ものよし),松囃子などといった祝言職が現れ,年の初めに禁中や諸寺,諸家に伺候して祝福の芸を演じ,また村々をめぐり歩いた。江戸時代になると祝言職の種類がさらに増え,万歳,節季候(せきぞろ),うばら,つるそめ,えびす舞,大黒舞,太神楽,春駒,鳥追などと多種多様になり,年末から年始にかけて諸国をめぐり歩き,訪問先で祝福芸を演じて生活の糧を得た。…
…祝福芸,門付芸(かどづけげい)の一つ。正月に家々の座敷や門口で予祝の祝言を述べたてるもので,〈千秋万歳(せんずまんざい)〉の末流と考えられる。平安時代後期成立の《新猿楽記》には〈千秋万歳之酒禱(さかほがい)〉と見え,千秋万歳はこのころすでに職能として存在していたと思われる。…
※「千秋万歳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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