中世につくられ流行をみた歌合の一種で,〈職人歌合絵草子〉,〈職人歌合絵〉とも呼ばれた。もとのかたちは絵巻。おりから台頭しつつあった職人に仮託した歌合を,佐竹家本,上畳(あげたたみ)本の《三十六歌仙絵巻》の似絵(にせえ)の描法・構図をかりて構成してある。成立順に,(1)《東北院職人歌合》,(2)《鶴岡放生会(つるがおかほうじようえ)職人歌合》,(3)《三十二番職人歌合》,(4)《七十一番職人歌合》の4種がある((1)(2)(3)は複製がある)。当時〈職人〉ということばは一般的ではなく,厳密には〈道々の者〉〈道の細工〉というべきであるが,〈職人歌合〉が術語として定着して久しい。手工業や加工・賃仕事に携わる職人のほか,各種の芸能者や宗教者またそれに類する人々をも扱っている。《東北院職人歌合》の序に,和歌,連歌の遊びをする貴族に対抗して〈道々の者〉が張り合ったのだとあり,最古の伝本たる曼殊院本(花園院の御物)は詞を後崇光院筆と伝え,《七十一番職人歌合》の東京国立博物館本(3巻)は絵を土佐光信,詞を三条西実隆と伝える。このように,貴族が異なる世界の人々を捉えたものであるから,伝統的な和歌とは趣の違う〈狂歌〉ともいうべきもので,秀句がふんだんにちりばめてある。内容は,序,題,作者,判者,和歌,判詞の順に記され,絵と詞とを絵詞風にわけて描くもの(《東北院職人歌合》)と,御伽草子絵巻風に絵が主,詞が従で,絵姿以外の余白に詞を書き込むものとがあり,《七十一番職人歌合》では職人の躍動的な売りことばや会話も書き添えてある。《鶴岡放生会職人歌合》以降は前作を意識し重複を避けて構成し,成立の後のものほど職種を増し,より多く下層民をとり入れ,詞や絵はより詳細かつ説明的な描写となり,人物も歌仙絵風のゆったりした座った姿から動的な立ち働く姿へ,そして再び座った形へと変化してゆく。和歌は中世の歌道の一側面を示し,興味深い中世語が連ねられ,中世の諸職の生態や庶民のいぶきをよみとることができる。語彙の意義の追究,《七十一番職人歌合》と成立の近い町田家本《洛中洛外図屛風》や《調度歌合絵》《扇歌合絵》《四生(ししよう)の歌合》との相関性なども研究課題であろう。江戸期に入って,菱川師宣の《和国諸職絵尽》(1685),《人倫訓蒙図彙》(1690),また鍬形蕙斎《近世職人尽絵詞》(1805成立,3巻)へと展開してゆく。
→職人尽絵
執筆者:徳江 元正
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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歌合の一種。各種の職人に仮託して歌を詠み,それを歌合の形式に番(つが)えたもの。職人の風俗を描いた絵をともなうものが多い。1214年(建保2)の序文をもつ,月・恋2題12番の「東北院職人歌合」をはじめ,これにならって催されたとする,月・恋2題12番の「鶴岡放生会(ほうじょうえ)職人歌合」,鍛冶から心太売(ところてんうり)まで142人の職人に仮託して,月・恋2題で衆議判の形式をとる「七十一番職人歌合」などがある。各職業の特性を反映した狂歌風なものが多いが,和歌の風情を保つよう詠まれている。全体に歌合より職人の風俗生態を映すことに主眼があり,のちの狂歌合に影響を与えた。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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