職人歌合(読み)しょくにんうたあわせ

精選版 日本国語大辞典 「職人歌合」の意味・読み・例文・類語

しょくにん‐うたあわせ ‥うたあはせ【職人歌合】

〘名〙 歌合せ一種鍛冶・番匠・檜物師(ひものし)・鏡みがき・針みがきなど種々の職人立場でよんだ狂歌ふうの和歌を歌合せの形式にして、その優劣を論じたもの。職人の風俗生活を描いた絵を伴う。「七十一番職人歌合」が有名。

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改訂新版 世界大百科事典 「職人歌合」の意味・わかりやすい解説

職人歌合 (しょくにんうたあわせ)

中世につくられ流行をみた歌合の一種で,〈職人歌合絵草子〉,〈職人歌合絵〉とも呼ばれた。もとのかたち絵巻。おりから台頭しつつあった職人に仮託した歌合を,佐竹家本,上畳(あげたたみ)本の《三十六歌仙絵巻》の似絵(にせえ)の描法・構図をかりて構成してある。成立順に,(1)《東北院職人歌合》,(2)《鶴岡放生会(つるがおかほうじようえ)職人歌合》,(3)《三十二番職人歌合》,(4)《七十一番職人歌合》の4種がある((1)(2)(3)は複製がある)。当時〈職人〉ということばは一般的ではなく,厳密には〈道々の者〉〈道の細工〉というべきであるが,〈職人歌合〉が術語として定着して久しい。手工業や加工・賃仕事に携わる職人のほか,各種の芸能者や宗教者またそれに類する人々をも扱っている。《東北院職人歌合》の序に,和歌,連歌の遊びをする貴族に対抗して〈道々の者〉が張り合ったのだとあり,最古の伝本たる曼殊院本(花園院の御物)は詞を後崇光院筆と伝え,《七十一番職人歌合》の東京国立博物館本(3巻)は絵を土佐光信,詞を三条西実隆と伝える。このように,貴族が異なる世界の人々を捉えたものであるから,伝統的な和歌とは趣の違う〈狂歌〉ともいうべきもので,秀句がふんだんにちりばめてある。内容は,序,題,作者,判者,和歌,判詞の順に記され,絵と詞とを絵詞風にわけて描くもの(《東北院職人歌合》)と,御伽草子絵巻風に絵が主,詞が従で,絵姿以外の余白に詞を書き込むものとがあり,《七十一番職人歌合》では職人の躍動的な売りことばや会話も書き添えてある。《鶴岡放生会職人歌合》以降は前作を意識し重複を避けて構成し,成立の後のものほど職種を増し,より多く下層民をとり入れ,詞や絵はより詳細かつ説明的な描写となり,人物も歌仙絵風のゆったりした座った姿から動的な立ち働く姿へ,そして再び座った形へと変化してゆく。和歌は中世の歌道の一側面を示し,興味深い中世語が連ねられ,中世の諸職の生態庶民のいぶきをよみとることができる。語彙の意義の追究,《七十一番職人歌合》と成立の近い町田家本《洛中洛外図屛風》や《調度歌合絵》《扇歌合絵》《四生(ししよう)の歌合》との相関性なども研究課題であろう。江戸期に入って,菱川師宣の《和国諸職絵尽》(1685),《人倫訓蒙図彙》(1690),また鍬形蕙斎《近世職人尽絵詞》(1805成立,3巻)へと展開してゆく。
職人尽絵
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百科事典マイペディア 「職人歌合」の意味・わかりやすい解説

職人歌合【しょくにんうたあわせ】

さまざまな職能民が左方・右方に分かれて和歌を詠むという形をとる仮託の歌合で,絵を伴う。中世のものに,13世紀から15世紀にかけて成立した《東北院歌合》5番本,同12番本をはじめ,《鶴岡放生会歌合》《三十二番歌合》《七十一番歌合》の4種5作品がある。どのような職を〈職人〉と定義しているか,歌の内容や番(つが)いの組合せによってその社会階層が推定できるなど,その図像表現とともに,中世の社会史の重要な史料。国学者によって江戸時代に復活,また趣向が〈職人尽絵〉に引き継がれるなど,近世以降も多くの後継の作品が作られた。
→関連項目千秋万歳道々の者

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「職人歌合」の解説

職人歌合
しょくにんうたあわせ

歌合の一種。各種の職人に仮託して歌を詠み,それを歌合の形式に番(つが)えたもの。職人の風俗を描いた絵をともなうものが多い。1214年(建保2)の序文をもつ,月・恋2題12番の「東北院職人歌合」をはじめ,これにならって催されたとする,月・恋2題12番の「鶴岡放生会(ほうじょうえ)職人歌合」,鍛冶から心太売(ところてんうり)まで142人の職人に仮託して,月・恋2題で衆議判の形式をとる「七十一番職人歌合」などがある。各職業の特性を反映した狂歌風なものが多いが,和歌の風情を保つよう詠まれている。全体に歌合より職人の風俗生態を映すことに主眼があり,のちの狂歌合に影響を与えた。

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