米騒動後に成立した原敬内閣の内務大臣床次竹二郎は,第1次大戦後の労働者統合策について救済事業調査会に諮問し,また実業家渋沢栄一,貴族院議員徳川家達(とくがわいえさと)らと協議したのち,その一つとして労使協調のための機関設立を決意し,さらに日本工業俱楽部(クラブ)などの意見も求めてその構想を具体化した。こうして1919年8月の発起人会を経て,同年12月に正式に発足したのが財団法人協調会である。同会は協調主義をうたい,社会政策の調査・研究,社会政策についての被諮問・建議,講習会・講演会の開催や図書館などの開設,職業紹介事業,労働紛議の仲裁などを事業内容とし,その基金を財界からの寄付金680万円と政府の拠出金200万円とに求めた。会長に徳川,副会長に渋沢のほか,枢密院副議長清浦奎吾,衆議院議長大岡育造が就任した。また友愛会会長鈴木文治にも参加を求めたが,協調会が労働組合を労使協調の基本条件としていないとの理由で拒否された。その結果,労働組合の参加をまったくみない労使協調機関となった。同会は,独立した組織ではあるが実質上は内務省(のちに厚生省)の統轄下にある半官半民の機関で,本来政府が行うべき事業の一部を代行するという複雑な機能を担った。とはいえ,前掲の各事業についてかなり精力的に活動し,協調主義の普及に一定の成果をあげている。
協調会の政策構想も時代とともに変遷した。当初は工場委員制度の普及,争議調停に力を注ぎ,ついで労働組合法制定に尽力したが,同法制定が挫折すると産業協力運動に力点を移した。戦時体制にはいると,産業報国,労使一体のイデオロギーのもとに産業報国運動を提唱,推進した。38年2月には〈時局対策委員会〉を設置し,同年7月には〈産業報国連盟〉を結成している。第2次大戦後は,民主的産業平和の実現を目的に掲げ,労働運動関係者を理事に加えて活動を続けたが,戦争協力を理由にGHQから解散を勧告され,46年7月にその活動を終えた。解散後も同会が設立した教育機関である中央労働学園は50年まで存続した。また同会が調査・収集した膨大な資料と同会が発行した研究誌《社会政策時報》(1920年9月~46年7月)は,戦前の社会運動・社会行政研究の遺産となっている。
執筆者:池田 信
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労使(資)協調のために1919年(大正8)12月に設立された財団法人機関。第一次世界大戦を通じて日本の資本主義産業は飛躍的な発展を遂げ、労働者数は激増したが、労働争議が続発、労働組合運動も活発になり、またロシア革命(1917)、米騒動(1918)など内外の事件で労働者の気風も変化し、階級対立が憂慮されるようになった。このような情勢に対し、労働者、使用者(資本家)、公益および政府の四者代表によって管理される労使協調機関の設立が考えられ、内相床次(とこなみ)竹二郎の発議で貴族院議長徳川家達(いえさと)、衆議院議長大岡育造、枢密院議長清浦奎吾(けいご)、財界の長老渋沢栄一らが準備し、政府補助金200万円、財界などの寄付金680万円で設立された。労働組合は、当時最大の友愛会なども戦闘化の傾向を強め、労働者の階級的成長を阻止するものだと参加を拒否したので、労働者代表ぬきで発足した。しかし、比較的に公平な立場からの内外労働事情の調査・研究、月刊機関誌『労働政策時報』『労働年鑑』その他の刊行物は高く評価された。また労働者教育、労働争議の仲裁などの事業を行い、戦時下の1938年(昭和13)には産業報国運動を提唱して労働者の軍需生産への動員に協力したので、第二次大戦後の46年(昭和21)6月、連合国最高司令部(GHQ)の勧告により解散させられた。
[松尾 洋]
『財団法人協調会偕和会編『財団法人協調会史』(1980・国策研究会)』
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1919年(大正8)12月22日,政府・財界の協力で設立された社会政策推進の民間機関。会長徳川家達(いえさと)。社会政策の調査研究,社会政策に関する政府の諮問に応じ,意見の提出を行うなど,協調的労資関係の普及に努めた。日中戦争が始まると産業報国運動を提唱し,38年(昭和13)7月産業報国連盟を結成。40年政府により大日本産業報国会が設立されると,一部は合流した。
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…しかし資本家側は,従業員に対する指揮命令権をあいまいにするような指導精神や待遇問題も協議対象とするような労資懇談制度には同意しなかった。そこで,この両者を調整し産業報国運動の推進力となったのが協調会であった。1938年2月,協調会は時局対策委員会を設置し,同年4月に労資関係調整方策を発表,それに基づき7月に産業報国連盟が創立された。…
※「協調会」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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