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原爆文学 げんばくぶんがく

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

原爆文学
げんばくぶんがく

原子爆弾の投下によって生じたさまざまな悲惨な出来事を題材とする文学。被爆作家である原民喜の『夏の花』 (1947年) ,『廃虚から』 (47年) ,大田洋子の『屍の街』 (48年) ,『人間襤褸』 (51年) ,峠三吉『原爆詩集』などが代表的である。また,非被爆作家のものとしては,堀田善衛『審判』,井上光晴『地の群れ』,井伏鱒二黒い雨』などが注目される。全6巻の『日本の原爆文学』も刊行されている。「原爆=核」の問題は,軍事力の均衡の上で成立しているかに見える第2次世界大戦以後の冷戦構造の根幹にあるものとして世界共通の問題であり続けた。反核運動の世界的高まりを背景に,1982年,作家中野孝次を世話人代表とする文学者 361人が発起人となり「核戦争の危機を訴える文学者の声明」を発表,署名運動を開始した。しかし,この声明の文言に対する異論,運動の展開の仕方そのものへの批判が相次ぎ,「反核論争」と呼ばれる論議を文壇に引き起こした。論争そのものは「核状況下」での文学者のあるべき姿を真摯 (しんし) に問うというより,「声明」擁護派と批判派との非難の応酬に堕した感がある。

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知恵蔵の解説

原爆文学

広島、長崎への原爆投下(1945年8月)という不条理で未曽有の悲劇を記録し、鎮魂し、被爆者のその後の運命をたどり、あるいは、核戦争の危機を内包した世界秩序の擬制の内に、現代人の置かれた本質的状況、作家の想像力の根源にあるべきものを読み取ろうとする文学全般を指す。被爆体験をもつ作家によるもの(原民喜『夏の花』〈小説〉、峠三吉『原爆詩集』、大田洋子『屍の街』〈小説〉、林京子『祭りの場』〈小説〉など)、被爆体験をもたないがこの空前絶後の惨劇の語り部たらんと志したもの(井伏鱒二『黒い雨』〈小説〉、佐多稲子樹影』〈小説〉など)、原爆体験を通して、戦後日本社会、現代世界の虚妄と矛盾を告発せんとするもの(大江健三郎『ヒロシマ・ノート』〈ルポルタージュ〉、福永武彦『死の島』〈小説〉、小田実『HIROSHIMA』〈小説〉、井上ひさし『父と暮せば』〈戯曲〉など)からなる。

(井上健 東京大学大学院総合文化研究科教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

世界大百科事典 第2版の解説

げんばくぶんがく【原爆文学】

いわゆる原爆文学と呼ばれるものには,大別して三つの流れがある。第1は,1945年8月6日広島に,ついで8月9日長崎に原爆が投下されたとき,広島,長崎に居合わせた文学者がつぶさに惨状を目撃したり記録をとったりしたのをもとに証言性の高い作品を書いたことにはじまる。原民喜の《夏の花》《廃墟から》(以上1947),《壊滅の序曲》(1949)の三部作から《鎮魂歌》《心願の国》にいたる作品,大田洋子の《屍(しかばね)の街》(1948),《半人間》(1954)などの作品,峠三吉(1917‐53)の《原爆詩集》(1951),正田篠枝の《さんげ》(1947)などの詩歌集が代表的なものである。

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世界大百科事典内の原爆文学の言及

【黒い雨】より

…第19回野間文芸賞受賞。原爆投下という人類史上未曾有の惨事をささやかな庶民生活の日常的視点からとらえた作品で,原爆文学の最高の達成とされる。被爆当時広島市内に住んでいた主人公閑間(しずま)重松が5年近くたって,郷里の村で療養生活をしながら当時の日記を清書するという構成になっている。…

※「原爆文学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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