口腔のしくみとはたらき(読み)こうくうのしくみとはたらき

家庭医学館 「口腔のしくみとはたらき」の解説

こうくうのしくみとはたらき【口腔のしくみとはたらき】

◎口腔のはたらき
◎口腔の成り立ちとしくみ
◎口腔に関係する筋肉と神経
◎口腔の症状と検査
◎治療と予防

◎口腔(こうくう)のはたらき
 口腔は、消化管の入り口で、食物をかむ(咀嚼(そしゃく))、味わう(味覚)、飲み込む(嚥下(えんげ))といったはたらきをもっています。
 この役割をはたすために口腔は、くちびる(口唇(こうしん))、舌、上あご(上顎骨(じょうがくこつ))、下あご(下顎骨(かがくこつ))、歯、唾液腺(だえきせん)、頬(ほお)、そしてこれらを動かす筋肉や顎関節(がくかんせつ)から構成されています。
 また、呼吸や声とも関係し、とくに声の場合は、声帯せいたい)で生じた音を、口腔、くちびる、舌、軟口蓋(なんこうがい)の形や容積を変えて、声(語音)に変える構音というはたらきをしています。

◎口腔(こうくう)の成り立ちとしくみ
 口腔の上面は上顎骨で、上顎骨の歯列(しれつ)があり、中央の天井は、硬口蓋(こうこうがい)(骨で裏打ちされた前方の部分)と軟口蓋(なんこうがい)(筋肉が入っているやわらかい後方の部分)に分かれます。軟口蓋の後端は垂れ下がり、口蓋垂(こうがいすい)と呼ばれます。
 軟口蓋は構音作用に協力するとともに、嚥下に際し後方に動いてのど(咽頭(いんとう))の壁に当たり、食物が鼻のほうにいかないようにブロックします。
 口腔の下面は、下顎骨の歯列と舌、そして舌と歯肉(しにく)との間の粘膜面(ねんまくめん)である口腔底(こうくうてい)からできています。舌の中央下面には、舌小帯(ぜつしょうたい)というひだがあります。
 口腔底の下方には顎下腺(がくかせん)や舌下腺(ぜっかせん)といった唾液腺があり、口腔底にはこれらの唾液腺からの排泄管(はいせつかん)が開いていて、唾液(つば)が出てきます。
 舌の表面には茸状乳頭(じょうじょうにゅうとう)、糸状乳頭(しじょうにゅうとう)という小さなぶつぶつが敷きつめられていて、この中には、味覚を感じる味蕾(みらい)があります。同じ乳頭でも、舌の側面には葉状乳頭(ようじょうにゅうとう)、後方には一見、いぼがならんだような有郭乳頭(ゆうかくにゅうとう)があります。
 口腔の両側面は、頬(頬部粘膜(きょうぶねんまく))で、第2大臼歯(だいきゅうし)に相対する部分には、もう1つの唾液腺である耳下腺(じかせん)からの排泄管が左右1つずつ開口していて、ここからも唾液が出ます。
 なお、舌、頬、くちびる、口蓋などの口腔粘膜には、小唾液腺という腺があって、ここからも唾液が分泌(ぶんぴつ)され、いつも粘膜をぬらしています。
 唾液は、口腔内でのかみ砕きや飲み込みを助け、食物を消化させやすくするほか、口腔内を洗浄して、清潔を保ちます。
 また、体液の量に応じて唾液の分泌量を加減し、体内の水分量を調節するはたらきもあります。

◎口腔(こうくう)に関係する筋肉と神経
 舌の筋肉(舌筋(ぜつきん))には、左右2本の舌下神経(ぜっかしんけい)がきていて、舌が左に動くときは右の舌下神経が、前に動くときは両側の神経がはたらくといったしくみになっています。
 下顎骨は、耳の孔(あな)の前方にある顎関節を中心に動きますが、咬筋(こうきん)、側頭筋(そくとうきん)、内側翼突筋(ないそくよくとつきん)、外側翼突筋といった筋肉(咀嚼筋(そしゃくきん))がついていて、三叉神経(さんさしんけい)が作用しています。また、口腔の粘膜や歯、歯肉の知覚も、一般に三叉神経が関係しています。
 舌の味覚は、奥3分の1は舌咽神経(ぜついんしんけい)の担当ですが、前3分の2は三叉神経の枝と顔面神経の枝が結合してできた舌神経(ぜつしんけい)が担当しています。
 左右の舌神経は、舌のそれぞれ左右に分布していますが、舌の先(舌尖(ぜっせん))は、両側の神経が分布するため、神経の量が多く、舌のほかの部分よりも敏感です。
 味覚のうち、甘味は舌尖部、酸味は舌の中央部、塩味は舌尖と舌側面、苦味は舌後方で強く感じます。
 口蓋にも、一部の味覚の神経が分布していて、おもに苦味を感じます。

◎口腔(こうくう)の症状と検査
●口腔粘膜の色の変化
 赤血球(せっけっきゅう)や血色素(けっしきそ)が減少する貧血では、顔面の皮膚が蒼白(そうはく)となりますが、眼瞼(がんけん)(まぶた)、結膜(けつまく)や口腔粘膜、とくに歯肉やくちびるの粘膜がより早くから蒼白となり、貧血を発見するよい指標となります。
 反対に赤血球過多症では、粘膜は桜色となります。
 熱い飲食物の摂取、飲酒、喫煙(きつえん)で粘膜の発赤(ほっせき)(赤くなる)が現われることがあります。
 飲酒、喫煙などの刺激により口腔、咽頭の粘膜に炎症がおこると知覚過敏となり、少し触れても強いえずき(絞扼反射(こうやくはんしゃ))や吐(は)き気(け)をきたすことがあります。
●唾液腺の異常
 顎下腺では、排泄管の中に尿管結石(にょうかんけっせき)のような石(唾石症(だせきしょう)(「唾石症」))ができることがあって、唾液の排泄ができず顎下腺炎(がくかせんえん)をおこすことがありますが、口腔底の触診で粘膜下に石が見つかることがあります。
 また、唾液腺造影法といって、顎下腺の排泄管開口部から細い注射器で造影剤を注入し、X線で撮影すると、石の部分だけ造影剤が途切れて写るので、石の存在部位がわかります。最近ではCTでも描出されます。
 舌下腺の排泄管がつまり、排泄管がふくらんで生じる唾液の袋(がま腫(しゅ)(「がま腫」))や、先天性にできる皮膚状の袋(皮様嚢腫(ひようのうしゅ))も、口腔底に生じます。このような場合は、診断と病変の把握のため、超音波検査やCT検査、MRI検査などが行なわれます。
●味覚の異常
 片側の顔面神経まひや舌咽神経(ぜついんしんけい)まひがおこると、片側の舌の味覚が低下します。このときには、舌の各所にいろいろな味の液をあてたり、電気で刺激したりして、味覚検査を行ないます。
●口腔内の腫瘍(しゅよう)(腫(は)れもの)
 義歯(ぎし)やむし歯、歯石(しせき)が粘膜に当たって刺激となっていることがあります。
 舌がん(「口腔がん」の舌がん)は舌の側面にできやすいのですが、過度の喫煙、飲酒のほかに、歯の慢性刺激で生じることがあり、いっこうに治らない舌の隆起や潰瘍(かいよう)は要注意です。このようなときは試験切除を行ない、がんかどうかを調べる必要があります。
 また、がんなどのできもの(腫瘍)の深部への進展範囲やくび(頸部(けいぶ))のリンパ節への転移を検索するため、CT、MRI検査なども行なわれます。
 硬口蓋の中央で骨が隆起してくることがあり、骨腫(こつしゅ)といいます。骨性の腫瘍ですが、良性でゆっくり発育するため、手術せず、経過観察だけですむことが多いものです。
●口腔粘膜の炎症
 歯の刺激やウイルスの感染などで粘膜が炎症をおこし、発赤したり、アフタ(粘膜の浅い欠損)、潰瘍、水疱(すいほう)(水ぶくれ)ができて、痛みをともないやすく、口臭の原因ともなります。偽膜(ぎまく)(病変部をおおう白色から黄白色、茶色のこけ状の膜)をともなうこともあります。
 口腔粘膜の病変は、さらに胃腸など他の臓器の病気や、手足口病(てあしくちびょう)、ベーチェット病、白血病(はっけつびょう)などの全身性の病気と関係することがあり、口腔内の視診、触診とともに、血液検査を含めた全身検査が必要になることもあります。
 口内に炎症などの痛みや腫瘍による物理的な閉塞物(へいそくぶつ)があると、嚥下障害、構音障害が生じます。また、脳梗塞(のうこうそく)による軟口蓋のまひでも、同様の症状が生じ、食物が鼻腔側に逆流してしまうことがあるため、脳のCTやMRI検査が行なわれます。

◎治療と予防
●口腔の病気の治療
 細菌、真菌(しんきん)などの病原体による炎症の場合は、化学療法薬、抗生物質、さらに消炎鎮痛薬が用いられます。
 粘膜のアフタや潰瘍には、副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモンの軟膏(なんこう)も用いられます。
 貧血、糖尿病、白血病、脳梗塞などの病気が誘因となって口腔内に病変がおこっているときには、当然これらの治療が必要です。
 向精神薬や利尿薬(りにょうやく)、降圧薬、抗ヒスタミン薬などの薬剤で口内乾燥感などの異常感が生じることがあります。この場合は、かかりつけの医師に副作用かどうかを尋ねてみるとよいでしょう。
●口腔の病気の予防
 鼻腔(びくう)や副鼻腔(ふくびくう)の病気による鼻づまり(鼻閉(びへい))のために口呼吸(くちこきゅう)をしている場合は、空気中の病原体や塵埃(じんあい)(ほこり)の吸入量が多くなり、炎症の原因となりますので、鼻腔や副鼻腔の病気の治療が必要です。
 口腔粘膜や歯を清潔にしておくことは重要で、炎症やがんの発生率の軽減のためにも、歯みがきやうがい(含嗽(がんそう))の励行が必要です。
 ときには自分で病変がないか観察することも重要と思われます。もし、がんを含めた腫瘍性病変が疑われたら、早期に医師に相談すべきでしょう。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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