国語調査委員会(1902年文部省に設置)編纂の文法書。大槻文彦が立案起草し,委員会の審議および上田万年以下の特別委員の整理を経て,1907年に成り16年に公刊された。これは1900年前後の言文一致運動および03年以後の口語法に関する全国的調査(1906年《口語法調査報告書》,1907年《口語法分布図》が刊行された)と相応ずるものであって,全国共通語としての口語の文法を確立する試みの一つであった。もと音,語,文の3部から成るというが,公にされたのは語の部のみである。主として,東京でもっぱら教育ある人々の間に行われる口語を標準とし,その他の地方の口語もある程度参考にされた。後の口語文法の教科書は,多少とも本書を手本としたとみられる。本書には別冊付録として大槻担当の《口語法別記》があり,本書が語法の骨子のみを掲げたのに対して,各条の本文の補説とともに,口語の一々について,現在各地方の差異およびこの800~900年来の語体の変遷を説いている。方言の差については,前記《口語法調査報告書》の成果が利用されたが,口語の変遷の記述は,この別記が初めてというべく,引用書目にあげられたものだけでも《古事記》(712)から《松の葉》(1703)まで166種にわたり,広く文献の間に口語要素の発見につとめたものである。今日からは年代の不当や資料の不足その他問題の点はあるが,話しことばの変遷を追う国語史の参考書として久しく用いられてきた。
→口語
執筆者:林 大
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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