江戸時代に流行した男女や同性間の性愛を描いた肉筆画や版画。呼称は中国の「春宮秘画」に由来し、「笑い絵」「枕絵」とも呼ばれた。
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男女の秘戯を描いた絵。古くは〈おそくず(偃息図)の絵〉〈おこえ(痴絵,烏滸絵)〉といい,〈枕絵〉〈枕草紙〉〈勝絵(かちえ)〉〈会本(えほん)〉〈艶本(えんぽん)〉〈秘画〉〈秘戯画〉〈ワじるし(印)〉〈笑い絵〉などともいう。あからさまな秘戯の図ではなく,入浴の場面など女性の裸体を見せる好色的な絵は,別に〈あぶな絵〉と称して区別している。《古今著聞集》にも〈ふるき上手どもの書きて候おそくづの絵〉と記すように,落書のようなものではなしに専門の画家による春画の歴史はかなり古く,中世に入れば《小柴垣草紙(こしばがきぞうし)》(13世紀),《稚児草紙》(14世紀,鎌倉末期)など絵巻物の傑作を生んでいる。合戦に出陣する武士の魔除けとして,嫁入りの女性の性教育用として,あるいは純然たる楽しみのために,各時代,各派の画家の手がけるところであったが,江戸時代に入ると浮世絵師がもっとも熱心にこれの作画に当たった。肉筆画の絵巻などは12段に,版画は12図を一組として構成されることが多く,描写に当たってはしばしばユーモラスな演出がこらされている。18世紀に入って享保改革以後,春画の版行は非合法となり,かえって彫りや摺りの入念な豪華版が作られるようになった。代表作に菱川師宣画《小むらさき》(本,1677刊),鳥居清長画《色道十二番》(版画12枚),喜多川歌麿画《歌まくら》(版画12枚,1788刊),葛飾北斎画《浪千鳥》などがある。
執筆者:小林 忠 中国では春宮図,春宵秘戯図という。古代の黄帝と素女に仮託する男女交媾の房中術の流行によって上層階級に解説図の需要があったらしいが,伝存するものは明代以降で,絹本,紙本の彩色画冊のほか,《金瓶梅》《肉蒲団》などの好色小説に取材した画帖や刻本も伝わっている。手法は庭園,家屋,調度などを背景とした遠近法で,日本の春画のように直接に男女の姿態を描き,局部を誇張する図柄は見られない。
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執筆者:沢田 瑞穂
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性の秘戯をあらわに描写した扇情的な絵画。古くは「おそくず(偃息図)の絵」といい、また枕絵(まくらえ)、枕草子(まくらのそうし)、秘戯画(ひぎが)、秘画(ひが)、艶本(えんぽん)、ワ印(じるし)などの別称をもつ。男女の閨房(けいぼう)図が中心となるが、同性愛や自慰のようすなど性風俗の全般にわたって赤裸々に、多くは滑稽(こっけい)な誇張の演出を加えて表現される。『小柴垣草子(こしばがきぞうし)』『稚児草子(ちごのそうし)』などの中世の絵巻も模本を含めて伝わるが、江戸時代の浮世絵師によってもっとも盛んに制作された。肉筆の絵巻や画帖(がじょう)、版画の組物の双方とも、12図を単位として構成されるのが普通で、また艶文を添えた絵本も盛行した。享保(きょうほう)の改革以降、好色の版画や版本の出版が表向き禁止されるが、出版許可の極(きわ)めや改(あらた)めを必要としない秘密裏の出版であったため、かえって彫りや摺(す)りに贅美(ぜいび)が凝らされ、極彩色の入念な仕立てのものが多くつくられた。絵師の署名がはばかられるようになり、無款か変名を用いるようになるのも享保(1716~36)以後のことである。
著名な浮世絵師のほとんどすべてが手がけているが、歌麿の『歌まくら』、北斎の『浪千鳥(なみちどり)』は、ともに横大判12枚1組の版画作品で、とりわけ傑作の評価が高い。
中国では、春宮図、春宵(しゅんよう)秘戯図といい、明(みん)末から清(しん)朝にかけて、版画や版本による制作がさかんに行われた。『風流絶暢(ぜっちょう)図』のように元禄(げんろく)のころ日本で翻刻された例もある。
[小林 忠]
(2015-10-23)
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