劇作家、演出家、俳優、小説家。本名大靏義英(おおつるよしひで)。昭和15年2月、東京・下谷万年町生まれ。1958年(昭和33)に明治大学文学部演劇科に入学し、学生劇団「実験劇場」で俳優として活躍する。1962年卒業と同時に劇団青年芸術劇場(略称は青芸)に研究生として入団するも翌年退団、その年の7月にサルトル作『恭しき娼婦(しょうふ)』で状況劇場を旗揚げした。学生時代に唐はサルトルの大きな影響を受けていた。1964年に初戯曲『23時54分「塔の下」行は竹早町の駄菓子屋の前で待っている』を上演、同年の第2作『渦巻は壁の中をゆく』以後は作と演出を兼ね始めた。1967年に東京・新宿の花園(はなぞの)神社境内に紅(あか)テントをたてて『腰巻お仙・義理人情いろはにほへと篇(へん)』を上演し、やがて寺山修司(しゅうじ)の天井桟敷(さじき)とともにアングラとよばれた前衛演劇の代表的な存在になった。1968年に演劇論「特権的肉体論」を収載する戯曲集『腰巻お仙』を初刊行したが、俳優の身体を独特の視点で凝視したこの演劇論は、後続世代に強い影響を及ぼした。1970年に『少女仮面』で岸田戯曲賞を受賞して存在を確たるものにすると同時に、『吸血姫』(1971)、『二都物語』(1972)、『唐版 風の又三郎』(1974)といった唐の戦後論ともいうべき、現在と過去を交錯させる華麗で強靭(きょうじん)なロマン劇を発表して既成の演劇界に揺さぶりをかける。一方、1972年に戒厳令下の韓国・ソウルでゲリラ的に『二都物語』を、1973年に『ベンガルの虎』をバングラデシュで、1974年に『アラブ版 風の又三郎』を中東地域で上演したりというように、日本では圧倒的多数の欧米志向の演劇人とはまるで異なる行動力を発揮した。1982年に『佐川君からの手紙』で芥川(あくたがわ)賞を受賞して活躍の場を広げる。1988年に状況劇場を解散して唐組を結成。唐組は『さすらいのジョニー』で旗揚げして現在に至るまで、例外を除き一貫して紅テント公演を続けている。なお、唐は1997年(平成9)から2005年(平成17)まで横浜国立大学の教授を務めた。2013年朝日賞受賞、2021年(令和3)文化功労者。
[大笹吉雄]
『『腰巻お仙』(1968・現代思潮社)』▽『『唐十郎全作品集』第1~6巻(1979~1980・冬樹社)』▽『『唐十郎第一エッセイ集 風に毒舌』『唐十郎第二エッセイ集 豹の眼』(1979~1980・毎日新聞社)』▽『『さすらいのジョニー』(1988・福武書店)』▽『『少女仮面・唐版 風の又三郎』(1997・白水社)』▽『『特権的肉体論』(1997・白水社)』▽『『秘密の花園』(1998・沖積舎)』▽『『佐川君からの手紙』(河出文庫)』▽『山口猛著『同時代人としての唐十郎』(1980・三一書房)』▽『唐十郎著、扇田昭彦解説『人間図書館 唐十郎――わが青春放浪記』(1994・日本図書センター)』▽『堀切直人著『唐十郎ギャラクシー』(1998・青弓社)』
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…また俳優座,民芸でも数多くの脱退者を出した。その一方,唐(から)十郎(1940‐ )らの〈状況劇場〉が63年に結成され,67年に紅(あか)テント劇場の活動を開始した。1966年には,東京早稲田の喫茶店2階の小空間をけいこ場兼用の小劇場とする鈴木忠志(ただし)(1939‐ )らの〈早稲田小劇場〉が結成され,佐藤信,串田和美らの〈自由劇場〉(正式名称は〈アンダーグラウンド自由劇場〉)も同年活動を始めた。…
…【利光 哲夫】
[日本における新しい演劇]
日本においても1960年代・70年代,とくに67年以降70年代前半にかけては,〈新しい演劇〉の活動がきわめて活発に行われた時期であった。具体的には,当時の新聞紙上を一種の風俗的な〈事件〉としても賑わすことの多かった,唐十郎(からじゆうろう),寺山修司あるいは鈴木忠志(ただし),佐藤信(まこと)などの活動であるが,これらは当時,〈アンダーグラウンド演劇〉あるいはしばしば略して〈アングラ演劇〉などという名前で,マスコミに総称されていた。この〈アングラ演劇〉という名称は,もとをただせば英語からの移入であるが,実際にいくつか現れた地下劇場なども念頭に置いて,その劇的想像力の上で白昼的であるよりは地下的な,体制的であるよりは反体制的な,一群の新しい演劇の全体的傾向をとらえて,ジャーナリズムが命名を行い,しだいに定着していったものと思われる。…
※「唐十郎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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