新聞記者、弁護士、開明派官吏などを中心として結成された代表的都市民権結社。1873年(明治6)開設の「法律講義会」を前身とし、「嚶鳴社」と改称されたのは1877年ごろと推定される。1878年社則が定められて政治結社としての体裁が整い、以後社員も増加、高知の立志社と並び称されるようになった。主要メンバーは沼間守一(ぬまもりかず)、肥塚龍(こいづかりゅう)(1848―1920)、島田三郎、野村本之助、青木匡(あおきただす)、波多野伝三郎(はたのでんざぶろう)(1856―1907)、高梨哲四郎、丸山名政(まるやまなまさ)(1857―1922)など。社員の活動は多岐にわたるが、討論・演説会の開催、『東京横浜毎日新聞』『嚶鳴雑誌』の発行、地方遊説などによる啓蒙(けいもう)活動は特筆され、その結果関東を中心に29の支社が創設されたといわれる。また「幻の憲法」と称された同社の憲法草案が1968年(昭和43)都下五日市町(現、あきる野市)で発見され、憲法起草運動の様態も解明され始めた。1882年立憲改進党結成に尽力。その政体構想・資本主義化構想は都市非特権商人、地方豪農層の利害を代弁し、党内では左派的立場に位置した。同年6月の集会条例追加改正(支社設置、各社通信の禁止)により解散。
[安在邦夫 2016年3月18日]
明治初期の政治結社。1874年9月,司法省にあった沼間守一(ぬまもりかず)は河野敏鎌らと,民衆に法律思想を啓蒙するため法律講義会を開き,西南戦争後嚶鳴社と改称,欧米の新思想を研究し,公開講演会などで自由民権を主張した。東京における民権運動の母体として社員1000名を擁したが,79年官吏の職務外政談演説が禁止されたため沼間は元老院を退官,社は1/3の官吏社員を失った。82年3月立憲改進党結成の中心となったが,7月改正集会条例で解散を命じられた。やや急進的な分子を擁した自由党に近い団体であり,《嚶鳴雑誌》《東京横浜毎日新聞》を機関紙とし,国会開設を唱え,二院制,議院内閣制を基礎とする憲法草案を発表した。社員には島田三郎,肥塚竜,田口卯吉らがいた。
執筆者:広瀬 玲子
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明治初期の学術団体・政治結社。岩倉遣欧使節団に加わった司法官吏の学術団体法律講習会を母体に,沼間守一(ぬまもりかず)・島田三郎・田口卯吉(うきち)らが1877年(明治10)秋に東京で結成。沼間が社長。定期的に討論会・演説会や地方遊説を行い,代表的民権結社に成長した。78年から地方支社を29社設立。79年10月に機関誌「嚶鳴雑誌」,11月に機関紙「東京横浜毎日新聞」を刊行。嚶鳴社憲法案も起草した。最盛期の本社員は約100人で,3分の1が中央政府の民権派官吏であった(支社を含めた総計は約1000人)。のち官吏グループと在野グループにわかれて活動し,在野グループは自由党の準備会に参画したが,不参加。社は82年の立憲改進党結成に加わり,7月に集会条例違反で解散したが,独自の演説会・討論会は継続。
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…彼らはいずれもイギリス流の立憲政治を目標にしており,なかでも矢野文雄(竜渓)は,14年政変の原因となった政党内閣論と早期国会開設とを説いた大隈意見書の起草者であり,小野梓は薩長打倒のため在官中から政党組織化を進めていた。そこで改進党の指導部は元官僚,新聞記者,代言人,教師など都市知識人のグループを中心に形成され,沼間守一,島田三郎らの嚶鳴社・東京横浜毎日新聞派,矢野ら慶応関係者の東洋議政会・郵便報知新聞派,小野らの鷗渡会派の3系統に大別される。また綱領には,内治改良と国権伸張,地方自治の基盤確立,選挙権伸闊,対外通商関係の発展など,自由党に比べて具体的政策を列挙した。…
… 最後に,都市結社は厳密には地方結社と異なるが,都市を中心としながら地方への広がりをもったものも多い。慶応義塾関係者が結成した社交団体である交詢社(1880年創立,福沢諭吉・矢野文雄(竜渓)・小幡篤次郎ら,創立時会員1800余)や《東京横浜毎日新聞》を拠点として関東一円から東北地方南部にまで支社の網をはった嚶鳴社(おうめいしや)(1873年法律講習会として創立,沼間守一・肥塚竜・島田三郎ら,社員1000余)は,当時最大の知識人集団であり,地方政治運動の喚起に大きな力をもった。このほか留学帰朝者が組織した共存同衆(1874年創立,小野梓・馬場辰猪ら)や,中江兆民の仏学塾(1874年創立)は民権思想の普及に貢献した。…
※「嚶鳴社」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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