四天(読み)してん

精選版 日本国語大辞典 「四天」の意味・読み・例文・類語

し‐てん【四天】

[1] 〘名〙
四時の天。春を蒼天(そうてん)、夏を昊天(こうてん)、秋を旻天(びんてん)、冬を上天(じょうてん)といい、これを総称していう語。四季。〔書言字考節用集(1717)〕
※雑俳・柳多留‐四六(1808)「土蜘は化て四天へ巣をかける」
※三教指帰(797頃)下「夫生死之為海也、纒三有際、彌望罔極。帯四天表、渺瀰無測」
④ 蚊屋の上部の四方のへり。
※評判記・色道大鏡(1678)三「蚊帳は、たうか、ろりん、ろけん、ほら、四天(シテン)ちへりは錦織或は金入織物のしつ」
[2] 「してんのう(四天王)(一)」の略。
※九冊本宝物集(1179頃)九「多宝の証明、普賢擁護、四天の守護十羅刹の囲遶のみにもあらず、しばらくもたもてば」

よ‐てん【四天】

〘名〙
歌舞伎で、勇士・山賊海賊・捕手などの激しく体を動かす役の着る、広袖で左右の裾が割れている衣装。きらびやかな織物に馬簾(ばれん)という飾りふさのついたものと、木綿地で馬簾のつかないものとがある。また、黒一色の黒四天、赤系統の染模様で役者が手に花枝や花槍を持って出る花四天などの種類がある。〔随筆・一話一言(1779‐1820頃)〕
② 荷物や荷車などを、四人でかついだり動かしたりすること。
※劇場新話(1804‐09頃)上「せり出し四てんぶん廻し〈略〉四人にて担ぎ上る是は一人せり出の時也」
[補注]四天の名は半纏(はんてん)の名をもじり仏教の四天王になぞらえ、「してん」の「し」を忌んで「よてん」と称したものかと思われる。

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デジタル大辞泉 「四天」の意味・読み・例文・類語

し‐てん【四天】

四時の天。春の蒼天そうてん、夏の昊天こうてん、秋の旻天びんてん、冬の上天のこと。
四天王してんのう」の略。

よ‐てん【四天】

歌舞伎の衣装で、広袖で裾の左右が切れ込んでいる着付け。動きの激しい武勇を表す役などに用いる。また、それを着ている役。
荷物や荷車を四人で担いだり動かしたりすること。
「三河酒―でかつぎ山へゆき」〈柳多留・九七〉

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改訂新版 世界大百科事典 「四天」の意味・わかりやすい解説

四天 (よてん)

歌舞伎の衣装。衽(おくみ)がなく,裾の両脇に切れ目(スリット)が入っているのが特徴。〈してん〉と読むことは忌まれてきた。仏像の四天王の衣装からとった説,黄檗(おうばく)宗の僧衣が裾のあたりで四つに裂けていて,四天と呼ぶのを移したとする説がある。また,舞台で鎧(よろい)の着用が禁じられていた時代に,鎧がわりに利用したともいわれる。用途は意外なほど幅ひろい。主役級が着るものと捕手や軍兵が着るものと2系統あるが,転じて〈四天〉は,捕手や軍兵の役柄を示す語ともなっている。〈四天〉の種類を次に掲げる。(1)伊達(だて)四天 繡(ぬい)四天あるいは唐織四天と呼ばれ,《八犬伝》芳流閣の犬飼現八,《盛綱陣屋》の信楽(しがらき)太郎など,勇ましい役や大盗賊,妖術使いあるいは御注進の役が用いる。金糸,銀糸の繡の衣装の裾まわりに馬簾(ばれん)という金・銀・紅・白などの房がついている。(2)鱗(うろこ)四天 銀の鱗形の模様の衣装で,馬簾はない。《娘道成寺》の後ジテにみられる。(3)梵字四天 《鬼神のお松》や《大仏供養》の景清の着る白羽二重地に黒の梵字の繡四天の一種。(4)安土四天 もとは厚司(あつし)(どてら状のもの)四天がなまったものらしい。繡四天の系統で,天竺徳兵衛のような異国風俗を匂わせる役に用いる蝦夷模様である。(5)八つがわり四天 身八つ口(衣装の腋の下)のあいたところから色がわりになっている派手なもので,織物が多い。《錣引(しころびき)》の景清が着る。(6)花四天 もっともよく見かけるもので,《落人》や《吉野山》の捕手などの衣装。白の木綿地に紫の立涌(たてわく)模様,赤や萌葱(もえぎ)の牡丹や菊をあしらったものが多い。(7)白四天 晒の白の着物に白の手甲,脚絆。白羽二重の四天,紬の四天,木綿の四天の区別がある。(8)黒四天 《寺子屋》や《弁天小僧》の稲瀬川,極楽寺屋根の捕手に使う。(9)赤四天 《半田稲荷》に使う。(10)忍び四天 黒四天の中でも格が上で,馬簾がつく。《先代萩》の嘉藤太など。(11)鼠四天 忍び四天の一種で《八陣》の忍びなど忍者が着る。馬簾つきで,鼠地の宗十郎頭巾をかぶるのが特徴。
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普及版 字通 「四天」の読み・字形・画数・意味

【四天】してん

四時。四方の空。唐・徐凝〔八月灯夕游越施秀才に寄す〕詩 四天の淨色、きこと水の如く 輝、冷やかなること霜に似たり

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