書キテがカイテ、高キがタカイ、早クがハヤウ、取リテがトッテ、飛ビテがトンデとなるような音変化(子音・母音の脱落、子音の同化・変化)を音便とよぶ。2語が複合した場合の上の語の末尾に生ずることが多く、次の4種に分けられる。
(1)イ音便(キ・ギ・シなどがイとなる) キサイ←后(キサキ)、コイデ←漕(コ)ギテ、マイテ←マシテ
(2)ウ音便(ク・グ・ヒ・ビ・ミなどがウとなる) ハヤウ←早ク、カウバシ←カグハシ、コウテ←請ヒテ、ヨウデ←呼ビテ、タノウデ←頼ミテ
(3)撥(はつ)音便(ニ・ビ・ミ・リなどがンとなる) シンデ←死ニテ、トンデ←飛ビテ、ヨンデ←読ミテ、サカンニ←盛リニ
(4)促音便(チ・ヒ・リなどがッとなる) タッテ←立チテ、オッテ←追ヒテ、アッテ←有リテ
現代では、古い時代に生じた音便形が固定化して用いられている場合(タイマツ〔松明〕←焚(タ)キ松、カウガイ〔笄〕←髪掻(カミガ)キ)と、動詞・形容詞の連用形のように音便形と元の形の両方が用いられる場合とがある。後者はいわば生きている音便とでもいうべきものだが、この場合、音便形・非音便形のいずれかを自由に選んで使うということはできない(この点が平安時代などと違う)。すなわち、動詞は、現代では四段動詞(サ行を除く)の連用形に助詞「て」「たり」や助動詞「た」がつく場合はかならず音便形を、「書きます」「よく遊びよく学べ」のような場合はかならず非音便形を用いるのである。形容詞の連用形の音便形は、現代の共通語(東京語)では、「お早うございます」「暑うございます」のような言い方以外には用いないが、西日本方言では広く用いる。また、「買ひて」「会ひて」がカウテ(→コーテ)、アウテ(→オーテ)となるか、カッテ、アッテとなるかも、西日本と東日本とで分かれる。
上代には音便の例はまれで、一般化するのは平安時代だが、和歌においてはのちのちまで音便形の使用は避けられた。音便発生の原因については、従来、「発音の便宜から」とされてきたが、これでは、「書き手」「漕ぎ手」がカイテ、コイデとならないことの説明ができない。また、四段動詞と違って上二段動詞は音便をおこさない(たとえば、置(オ)イテとはいうが起(オ)イテとはいわない)のはなぜかといったことも解決がついていない。音便の発生には漢字音の影響があろうとする説も古くからあるが、確定的ではない。
[安田尚道]
たとえば,〈つきたち〉が〈ついたち〉,〈かみかき〉が〈かうがい〉,〈をみな〉が〈をんな〉あるいは〈取りて〉が〈取って〉となるような音変化を総括して音便という。音便は,それ自体は音変化であるが,変化の結果が文法現象として固定した音便形になっており,今日では,顕著に認められる。なお,音便の一つの特徴は,歴史的かなづかいにおいても,表音的にこれを書くことである。音便にはつぎの4種類がある。(1)イ音便,(2)ウ音便,(3)はね音便(撥(はつ)音便),(4)つめ音便(促音便)。動詞のうち,音便形をもつのは,四段活用とナ行変格およびラ行変格である。
以上のごとく,音便形が四つの音便のどれをとるかは,動詞の所属する行によって,それぞれ一定している(もっとも,ある行,たとえばハ行の場合には,ウ音便とつめ音便とのどちらも許されるかのごとくであるが,これも一定の方言においては,一定している)。
つぎに,形容詞については,(1)イ音便は,連体形が体言につらなるときと,付属語〈かな〉につらなるときに現れる(たとえば〈かなしいかな〉)。なお,口語における終止の形(たとえば〈ああ,かなしい〉の〈かなしい〉のごとき)は,文語の終止形(たとえば〈かなし〉)でなく,連体形が音便をとった形から生まれたものである。(2)ウ音便は,連用形に現れる(たとえば〈かなしうおぼゆ〉)。(3)はね音便は,〈よかんめり〉〈うれしかんべいこと〉など〈めり〉〈べし〉または〈なり〉につらなる言い方に現れる。(4)つめ音便も,かつて行われたことがある(たとえば〈うらめしかっしことども〉〈うらめっさ〉-うらめしさ)。
音便は,種類によって,文献上の現れ方に遅速はあるが,おおむね平安時代の中期までに,ひと通り完成されていたと考えられる。音便の発達は,日本語のなかにかつては存しなかったはね音節(ン)やつめ音節(ッ)を加えたり,母音音節の〈イ〉や〈ウ〉が語中に立つことを新たに許したりするに至った点で,日本語の組織を大いに変えたものである。
執筆者:亀井 孝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新