国栖(能)(読み)くず

日本大百科全書(ニッポニカ) 「国栖(能)」の意味・わかりやすい解説

国栖(能)
くず

能の曲目。五番目物、あるいは四番目物にも。五流現行曲。作者不明。金春(こんぱる)系の能とされる。吉野山に迷う亡命天子(子方)とその一行(ワキ)を助け、かくまう老人夫婦(シテツレ)は、蔵王権現(ごんげん)の化身である。鮎(あゆ)を吉野川の激流に放って吉凶を占う鮮烈な「鮎の段」の演技、天子を船に隠して追っ手の兵(アイ)を追い返す痛快な問答の前段天女(後ツレ)が舞い、蔵王権現(後シテ)が豪快に未来を祝福する後段。劇的な緊迫と、能のもつ古雅な演出、神韻縹渺(ひょうびょう)の趣(おもむき)の融和した特色ある作品。大海人(おおあま)皇子(天武(てんむ)天皇)と大友皇子弘文(こうぶん)天皇)の皇位継承の争いである壬申(じんしん)の乱を扱った能である。

増田正造

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例