国花(読み)こっか

精選版 日本国語大辞典 「国花」の意味・読み・例文・類語

こっ‐か コククヮ【国花】

〘名〙
① 国民から愛好、尊重され、その国を代表するとされている花。日本のキク・サクラ、イギリスのバラ、フランスのユリの類。
国民性十論(1907)〈芳賀矢一〉五「桜は日本の国花で」
② 桜花の異称。

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デジタル大辞泉 「国花」の意味・読み・例文・類語

こっ‐か〔コククワ〕【国花】

その国を代表するものとして、国民から最も親しまれ重んじられる花。日本の菊・桜、イギリスのバラ、フランスのユリなど。
[類語]草花生花生け花切り花盛り花押し花造花ドライフラワー花束ブーケ花輪レイ徒花あだばな無駄花初花県花名花梅花桜花菊花綿花菜の花落花

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「国花」の意味・わかりやすい解説

国花
こっか

国を象徴する花あるいは植物をいうが、その由来は後述するように多様である。国花には、国旗や国歌のように公式に制定されている場合と、慣習的に認められている場合とがある。多民族国家や地域差の著しい自然環境をもつ国などでは、二つ以上の国花が制定されていたり、慣習的に用いられていたりすることもある。

 国花の歴史はさだかではないが、国の象徴として特定の植物を指定したり、それを図案化したことから始まったといわれる。このような植物に由来する紋様の使用は古代にさかのぼることができる。エジプトでは初期王朝時代(前3000ころ~前2700ころ)に、王は、上エジプトの象徴であるスウト(スゲの一種か)と下エジプトの象徴であるミツバチの所有者とされ、国を象徴する植物の存在が暗示されている。なお、エジプトでは、一説によれば、およそ4000年前に青いネッタイスイレン熱帯スイレン)が国花に定められたといわれている。他方、国花の直接の起源を19世紀中葉のイギリスに求める説がある。その時代の花好きの人たちが、紋章、勲章、貨幣などに標章emblemとして用いられた花、あるいは伝説や文学などで広く知られた花から国を代表する花を選び出して国花とよんだという。イングランドでは王室の紋章であるバラ、ドイツではドイツ皇帝の花(カイザーの花)とよばれたヤグルマギク、フランスではルイ王朝の紋章であったマドンナリリーなどがこれにあたる。

 国花の起源がいずれであるにしろ、国花には王家の象徴や紋章、伝説、宗教、産業などに由来するものが多い。王室の紋章に由来するものとしては、前に記したイングランドのバラなどのほかに、日本のキクがある。王室の紋章に由来する国花のなかには、国政の変化によって種類が変わった例もある。前述のヤグルマギクやマドンナリリーは、現在のドイツ、フランスでは国花とはみなされていない。伝説に由来すると考えられる国花としては、スコットランドの国難を救ったとされるオオヒレアザミの例が有名である。デンマーク軍がスコットランドを夜襲したときに、オオヒレアザミの刺(とげ)を踏み付けて悲鳴をあげたために夜襲に失敗したという伝説はいまも残されている。インドやスリランカのハス、ならびにイスラム教国イラク、サウジアラビアモロッコのバラは、宗教に由来する国花の例にあたる。アイルランドでは記章に用いたシロツメクサが国花になっているが、これは、聖パトリックがキリスト教の三位(さんみ)一体の説明に用いたという伝承に由来する。

 このほか、占領地や植民地から独立する際に制定されたり、選定された国花がある。インドではイギリス領であった当時はケシが国花とされたが、独立後はハスが国花とみなされているし、マレーシアもイギリスから独立する際に国民投票で候補を選び、大統領がハイビスカスに決定した。

 産業と結び付いた国花(国樹)も多い。代表的なものにオランダやベルギーのチューリップ、イエメンとエチオピアのアラビアコーヒー、カンボジアとタイのイネ、サウジアラビアのナツメヤシ、ドミニカ共和国のマホガニー、リベリアのコショウなどである。カナダのサトウカエデ、ドイツのオウシュウナラもこの例に入るであろう。このように、国によっては国花のほかに国樹を置く場合もあり、カナダやドイツのように国樹のみの国もある。

 チリのツバキカズラエルサルバドルのユッカ・エレファンティペス、南アフリカ共和国ギンヨウジュオーストラリアのアカシア・ピクナンサ、ニュージーランドのギンシダなどは、それぞれの国にしか産しない固有の種を国花(国樹)としている。シダ植物であるギンシダを国花とした国はいまのところニュージーランドだけである。裸子植物にはレバノンの国樹レバノンスギがある。

 日本には法律で定められた国花はないが、一般には皇室の紋章であるキク、あるいはサクラが国花とみなされる。なお、キクを国花、サクラを国樹とみる提案もある。

[大場秀章]

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百科事典マイペディア 「国花」の意味・わかりやすい解説

国花【こっか】

国家を表象する花または植物。一地方または一州を代表する花も含まれる。国民に広く愛好されていることや,歴史・伝説に結びついていたり,特産であることなどから,自然に承認されているものであり,公式に制定されているのは50ヵ国以内にすぎない。日本でも制定されていないが,一般にはサクラないしキクが日本を表徴する花として用いられている。以下主要なものを列挙する。アイルランド(シロツメクサ),アルゼンチン(アメリカデイコ),イラン(バラ(属)),インド(ハス),インドネシア(マツリカ),ウルグアイ(アメリカデイコ),エクアドル(アカキナノキ),エルサルバドル(イトラン属の一種),オーストラリア(ピクナンサアカシア),カナダ(サトウカエデ),キューバ(ハナシュクシャ),グアテマラ(リカステ・スキンネリ),コスタリカ(カトレア・スキンネリ),コロンビア(カトレア(属)),シリア(ダマスクローズ),シンガポール(バンダ属の一種),スーダン(ハイビスカス(属)),タイ(ナンバンサイカチ),大韓民国(ムクゲ),チリ(コピウエ(ツバキカズラ)),ドミニカ共和国(マホガニー),トルコ(チューリップ),ニカラグア(アカバナインドソケイ),ネパール(シャクナゲ属の一種),ハイチ(ハイビスカス),パキスタン(ジャスミン(属)),パナマ(ラン),パラグアイ(トケイソウ),ハンガリー(ゼラニウム(属)),バングラデシュ(スイレン(属)),フィジー(カトレア(属)),フィリピン(マツリカ),ブラジル(タベブイア属の一種),ブルガリア(バラ(属)),ベネズエラ(カタセトゥム属の一種),ペルー(カントゥア属の一種),ボリビア(カントゥア属の一種),ホンジュラス(ラン),マダガスカル(ポインセチア),マルタ共和国(ヤグルマギク属の一種),マレーシア(ブッソウゲ),南ア共和国(プロテア属の一種),ミャンマー(シタン(属)),メキシコ(ダリア(属)),ラオス(ジャスミン(属))。 なお,以下の国では,国花は制定されていないが,国の象徴とされ,愛されている花がある。エジプト(ハス),オーストリア(エーデルワイス),スイス(エーデルワイス,アルペンローズ,リンドウ),スペイン(カーネーション),中華人民共和国(ボタン,キク),フランス(ヤグルマソウ,ヒナゲシ,白百合など),ベルギー(アザレア),ポルトガル(赤いバラ)など。

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改訂新版 世界大百科事典 「国花」の意味・わかりやすい解説

国花 (こっか)
national flower

国家を表徴する花または植物。起源は明らかではないが,19世紀の半ばすぎに,イギリスで花の好きな人が,各王室の紋章,勲章,貨幣などに標章emblemとして用いられた花や,伝説,文学などで広く用いられた花を選び出し,〈国花〉と呼んだことがその始まりだといわれる。しかし,イギリスには国花は制定されていない。

 現在,約50ヵ国に国花が,国歌や国旗のように公式に制定されている。国花はその国の文化,宗教,産業,生物学的特性などから,歴史的に決められていることが多い。また,歴史の古い国や国土の広い国では一つの国花にまとめられない場合もある。たとえばイギリスではイングランドがバラ,スコットランドがアザミ,ウェールズがラッパズイセンなどとされる。またアメリカでは,各州で州花state flowerを決めているが,国花は定められていない。一方,第2次世界大戦後に定められたものでは,公式に〈国を代表する花〉として定められたものが多く,そのようなものの例としては,フィリピンのマツリカ,アルゼンチンのアメリカデイコ,メキシコのダリアなどがある。

 日本の場合は法律で定められた国花はない。しかし,一般にはサクラないしキクが日本を表徴する花として用いられていることが多く,キクはパスポートなどに使用される。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「国花」の意味・わかりやすい解説

国花
こっか
national flower

国家を象徴する花や植物。マレーシアのハイビスカスのように正式の手続で決定されたものもあるが,多くの国では法的な公式性はなく,帝王の紋章や伝統,伝説などに基づいてその国の民俗や文化に関係深い代表的な花が国花とみなされている場合が多く,フランスやイタリアなど一つの国花にまとめられない国もある。アメリカでは各州ごとに州花があり,日本でも多くの県で県花を選定している。国樹を定めている国も多い。

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