国を象徴する花あるいは植物をいうが、その由来は後述するように多様である。国花には、国旗や国歌のように公式に制定されている場合と、慣習的に認められている場合とがある。多民族国家や地域差の著しい自然環境をもつ国などでは、二つ以上の国花が制定されていたり、慣習的に用いられていたりすることもある。
国花の歴史はさだかではないが、国の象徴として特定の植物を指定したり、それを図案化したことから始まったといわれる。このような植物に由来する紋様の使用は古代にさかのぼることができる。エジプトでは初期王朝時代(前3000ころ~前2700ころ)に、王は、上エジプトの象徴であるスウト(スゲの一種か)と下エジプトの象徴であるミツバチの所有者とされ、国を象徴する植物の存在が暗示されている。なお、エジプトでは、一説によれば、およそ4000年前に青いネッタイスイレン(熱帯スイレン)が国花に定められたといわれている。他方、国花の直接の起源を19世紀中葉のイギリスに求める説がある。その時代の花好きの人たちが、紋章、勲章、貨幣などに標章emblemとして用いられた花、あるいは伝説や文学などで広く知られた花から国を代表する花を選び出して国花とよんだという。イングランドでは王室の紋章であるバラ、ドイツではドイツ皇帝の花(カイザーの花)とよばれたヤグルマギク、フランスではルイ王朝の紋章であったマドンナリリーなどがこれにあたる。
国花の起源がいずれであるにしろ、国花には王家の象徴や紋章、伝説、宗教、産業などに由来するものが多い。王室の紋章に由来するものとしては、前に記したイングランドのバラなどのほかに、日本のキクがある。王室の紋章に由来する国花のなかには、国政の変化によって種類が変わった例もある。前述のヤグルマギクやマドンナリリーは、現在のドイツ、フランスでは国花とはみなされていない。伝説に由来すると考えられる国花としては、スコットランドの国難を救ったとされるオオヒレアザミの例が有名である。デンマーク軍がスコットランドを夜襲したときに、オオヒレアザミの刺(とげ)を踏み付けて悲鳴をあげたために夜襲に失敗したという伝説はいまも残されている。インドやスリランカのハス、ならびにイスラム教国イラク、サウジアラビア、モロッコのバラは、宗教に由来する国花の例にあたる。アイルランドでは記章に用いたシロツメクサが国花になっているが、これは、聖パトリックがキリスト教の三位(さんみ)一体の説明に用いたという伝承に由来する。
このほか、占領地や植民地から独立する際に制定されたり、選定された国花がある。インドではイギリス領であった当時はケシが国花とされたが、独立後はハスが国花とみなされているし、マレーシアもイギリスから独立する際に国民投票で候補を選び、大統領がハイビスカスに決定した。
産業と結び付いた国花(国樹)も多い。代表的なものにオランダやベルギーのチューリップ、イエメンとエチオピアのアラビアコーヒー、カンボジアとタイのイネ、サウジアラビアのナツメヤシ、ドミニカ共和国のマホガニー、リベリアのコショウなどである。カナダのサトウカエデ、ドイツのオウシュウナラもこの例に入るであろう。このように、国によっては国花のほかに国樹を置く場合もあり、カナダやドイツのように国樹のみの国もある。
チリのツバキカズラ、エルサルバドルのユッカ・エレファンティペス、南アフリカ共和国のギンヨウジュ、オーストラリアのアカシア・ピクナンサ、ニュージーランドのギンシダなどは、それぞれの国にしか産しない固有の種を国花(国樹)としている。シダ植物であるギンシダを国花とした国はいまのところニュージーランドだけである。裸子植物にはレバノンの国樹レバノンスギがある。
日本には法律で定められた国花はないが、一般には皇室の紋章であるキク、あるいはサクラが国花とみなされる。なお、キクを国花、サクラを国樹とみる提案もある。
[大場秀章]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
国家を表徴する花または植物。起源は明らかではないが,19世紀の半ばすぎに,イギリスで花の好きな人が,各王室の紋章,勲章,貨幣などに標章emblemとして用いられた花や,伝説,文学などで広く用いられた花を選び出し,〈国花〉と呼んだことがその始まりだといわれる。しかし,イギリスには国花は制定されていない。
現在,約50ヵ国に国花が,国歌や国旗のように公式に制定されている。国花はその国の文化,宗教,産業,生物学的特性などから,歴史的に決められていることが多い。また,歴史の古い国や国土の広い国では一つの国花にまとめられない場合もある。たとえばイギリスではイングランドがバラ,スコットランドがアザミ,ウェールズがラッパズイセンなどとされる。またアメリカでは,各州で州花state flowerを決めているが,国花は定められていない。一方,第2次世界大戦後に定められたものでは,公式に〈国を代表する花〉として定められたものが多く,そのようなものの例としては,フィリピンのマツリカ,アルゼンチンのアメリカデイコ,メキシコのダリアなどがある。
日本の場合は法律で定められた国花はない。しかし,一般にはサクラないしキクが日本を表徴する花として用いられていることが多く,キクはパスポートなどに使用される。
執筆者:野村 通年
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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