国訴(読み)コクソ

デジタル大辞泉 「国訴」の意味・読み・例文・類語

こく‐そ【国訴】

江戸時代農民の合法的な訴願闘争。主に畿内において、闘争の参加者が郡・国もしくはこれを越え規模にまで拡大したものをいう。化政期(1804~1830)以降、幕末にかけて頻発した。くにそ。

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精選版 日本国語大辞典 「国訴」の意味・読み・例文・類語

こく‐そ【国訴】

  1. 〘 名詞 〙 江戸時代の農民闘争の一種。主に、化政期(一八〇四‐三〇)以降畿内を中心に行なわれたもので、闘争に参加する農民が国、郡にまたがる大規模なもの。多くは在郷商人が指導し、領主、都市株仲間の流通独占に反対し、訴訟という合法的な手段によって対抗したもの。くにそ。

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改訂新版 世界大百科事典 「国訴」の意味・わかりやすい解説

国訴 (こくそ)

〈くにそ〉とも読む。幕藩制下の社会ですでに使用されていた用語で,1823年(文政6)に実綿・繰綿に関して,その売買の“自由”をめぐって摂津河内の両国1007ヵ村が連合して闘った法廷闘争のときに用いられたのが始まりである。その後これに類似する事件に用いられた。その特色は,商品経済の発展を前提として,行政的には入組支配の村々にもかかわらず,支配関係を越え,郡からさらに国の規模を越えて,広範な地域にまで拡大して闘われた反封建的な農民闘争であったことである。しかも,それが訴訟という合法的な法廷闘争の形態で闘われたところに特色がある。

 〈国訴〉は大坂周辺の農村地帯のような商品経済の展開の進んだ地域で,その成果として生じた農民側の剰余部分を幕府が直接掌握することができなくなったために,間接的に掌握する方法として,旧来の大坂の商品流通機構に依存し,これに特権を与え,市場を独占させ,直接生産者たる農民が直接に市場に参加するのを妨げたところから生じた。とくに田沼期以来の幕府の市場統制の存続していた実綿・繰綿,菜種・綿実・油などでは,文政期になって都市資本の市場統制に対抗して,その特権を排除する運動が起こった。綿業に関しては簡単に農民側が勝利し解決をみたが,菜種・綿実・油のほうは解決せず,このために運動は拡大し,ついに摂津,河内のほかに和泉も加わり,3ヵ国1307ヵ村の運動となって展開した。幕府はこの運動を無視できず,大坂油掛り資本の独占を保障していた〈明和の仕法〉を改正して,独占を緩和する方法として32年(天保3)の仕法改正を行い,天保改革では株仲間解散を行った。しかし,嘉永の問屋再興令(1851)以後ふたたび,菜種・綿実・油の流通をめぐって売買の“自由”の要求運動が起こった。55年(安政2)には摂津,河内の両国1086ヵ村の農村,65年(慶応1)には1263ヵ村がこの運動に参加した。安政・慶応期には,都市資本より農村の内部にある在郷商人の特権化の排除を要求することが運動の課題として重要性を持っていたのである。

 もっとも現在研究者が〈国訴〉の語を用いているのをみると,歴史用語として使用されたよりは広い範囲の意味内容を持たせている。すなわち,郡単位ぐらいの数十ヵ村あるいは数百ヵ村の農民が連合して,特権商人の市場独占に対抗して争われた法廷闘争に一様にこの用語を適用している。このような観点から,摂津・河内・和泉3ヵ国の〈国訴〉年表が作られており,1740年(元文5)以来約30件の〈国訴〉が報告されている。このような用例として意味内容を拡大すれば,大坂周辺以外の地域でも発見されてもよいはずである。このような考え方から他の地域での広域闘争と関連させようとする理解がある。
油問屋
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「国訴」の意味・わかりやすい解説

国訴(こくそ)
こくそ

「くにそ」ともよぶ。近世中・後期の合法的広域訴願闘争。小商品生産に従事する農民が、都市特権商人による流通独占を打破して商品の自由な販売を求め、あるいは商品生産農業に不可欠な肥料の安価な購入を実現するために、領主の支配領域を越えて広範な村々が結集し、合法的な訴願を繰り返したもの。商品生産の発展が著しい畿内(きない)では、1740年(元文5)以降、菜種(なたね)、油、綿、金肥の流通をめぐって展開するが、1823年(文政6)には摂津(せっつ)、河内(かわち)、和泉(いずみ)3国1007か村が参加する一大訴訟を展開し、1855年(安政2)と1865年(慶応1)にも1000余の村々の結集する訴願が行われた。一般に畿内の訴願を国訴とよぶが、1789年(寛政1)と1843年(天保14)に、下肥(しもごえ)値下げを求める訴願が江戸周辺のそれぞれ1016か村、283か村を結集して行われ、1813年(文化10)には遠江(とおとうみ)、駿河(するが)の100余の村々が、茶の独占的集荷に反対するなど各地に広域訴願が展開する。幕藩制的流通の心臓部である大坂市場をめぐる畿内農村の訴願を中心に、各地に展開する広域訴願は、当時、諸藩の国益政策とよばれる専売制的収奪に反対する強訴(ごうそ)・打毀(うちこわし)とともに、幕藩制的流通機構を破壊する役割を担った闘争であったといえる。

[保坂 智]


国訴(くにそ)
くにそ

国訴

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「国訴」の解説

国訴
こくそ

「くにそ」とも。江戸後期,摂津・河内・和泉国などで,大坂の特権的商人らによる菜種・綿・肥料などの流通独占に反対して,生産にかかわる数百カ村が自由な売買などを要求しておこした合法的な訴願闘争。国訴年表によれば88件ある。なお,国訴を合法的な広域訴願闘争として把握すれば,関東の肥料購入をめぐる訴願闘争も含まれる。1823年(文政6)大坂三所綿問屋の市場独占をめぐる摂津・河内両国1007カ村の訴願闘争が有名。支配領域をこえて村々が結びつくのは在郷商人の指導とする説に対し,「郡中議定」をとり結ぶような村々の動きを基礎にとらえる説もある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「国訴」の意味・わかりやすい解説

国訴
こくそ

江戸時代における農民闘争の一形態。農民層あるいは在郷商人層が特定の領地を越えた広範囲で連絡,結束して大名や都市の株仲間に対抗した運動。一揆と異なり,越訴,強訴暴動などの非合法手段をとらず,合法的手段によった。文政6 (1823) 年,摂津国,河内国の 1007ヵ村の,綿作,菜種をめぐる国訴が最初といわれる。江戸時代末期に頻発した。

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百科事典マイペディア 「国訴」の意味・わかりやすい解説

国訴【こくそ】

江戸後期,商品経済の発達した畿内においてみられた農民闘争。〈くにそ〉とも。1823年綿作・菜種を巡って摂津(せっつ)・河内(かわち)両国1000余ヵ村が連合して戦った法廷闘争が初め。主に在郷商人の指導により支配関係を超えた郡・国規模の農民が参加し,領主・都市株仲間の流通独占に反対,合法的手段で対抗した。幕府はこの闘争を無視できず,天保(てんぽう)改革では株仲間の解散を行った。

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旺文社日本史事典 三訂版 「国訴」の解説

国訴
こくそ

江戸後期,郡・国の広範囲にわたっておこった合法的農民闘争
都市の問屋・株仲間や領主の専売制に反対して,おもに在郷商人の指導下に,暴動などではなく合法的な訴訟で闘った。ことに菜種・棉の生産地帯の畿内や,機業のさかんな北関東に多くおこった。

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世界大百科事典(旧版)内の国訴の言及

【国訴】より

…しかも,それが訴訟という合法的な法廷闘争の形態で闘われたところに特色がある。 〈国訴〉は大坂周辺の農村地帯のような商品経済の展開の進んだ地域で,その成果として生じた農民側の剰余部分を幕府が直接掌握することができなくなったために,間接的に掌握する方法として,旧来の大坂の商品流通機構に依存し,これに特権を与え,市場を独占させ,直接生産者たる農民が直接に市場に参加するのを妨げたところから生じた。とくに田沼期以来の幕府の市場統制の存続していた実綿・繰綿,菜種・綿実・油などでは,文政期になって都市資本の市場統制に対抗して,その特権を排除する運動が起こった。…

【株仲間】より

…これに対し,生産者や在郷商人,江戸市内の中小問屋・小売商の抵抗があり,訴訟が頻発した。大坂においても,菜種,繰綿などの流通をめぐり,畿内農村と都市問屋が対立し,23年(文政6)には摂津・河内1007ヵ村が訴訟するなど,国訴(こくそ)と呼ばれるほどの広汎な動きをみせた。
[解散と再興]
 1841年(天保12)に幕府は天保改革の一環として,株仲間解散令を発した。…

【河内国】より

… 1788年(天明8)河内郡,若江郡,志紀郡惣代らは連印して,大坂の特権的株仲間商人の不正肥料販売などの横暴に対する処置を求めて大坂町奉行所へ訴えを起こした。国訴のはじまりであった。摂津,河内,和泉の村々が連合して,その力を背景に行った合法的な訴訟闘争を国訴と呼ぶが,その要求は肥料高値反対,綿・ナタネ・油などの自由販売などで,幕府に保護された大坂の特権的株仲間の流通支配に対する商品作物生産農民,在郷商人たちのたたかいであった。…

【百姓】より

… 文政期(1818‐30)になると,大坂商人の市場統制に対抗する在郷の動きが活発化する。1823年,摂河2ヵ国1007ヵ村を糾合した国訴(こくそ)が発生し,その翌年さらに摂河泉3ヵ国1307ヵ村による国訴が展開し,綿関係(実綿(みわた)・繰綿(くりわた)),油関係(菜種,綿実(わたみ),油)の商品に対する都市株仲間の流通独占に反対して闘争した。この闘争では,商品作物栽培に従事する村役人(地主手作経営を営む)がその動きの先頭に立ち,広範な村々を糾合し,合法的手段(訴訟)を通して都市商人に対立し,一応の成果を収めることができた。…

※「国訴」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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