日本で建立された仏塔のうち,下重方形,上重円形の平面をもつ二重形式の塔をいう。この塔形は日本へ仏塔を伝えた中国,朝鮮半島にはなく,日本で創始されたと思われる。平安時代初め,空海は高野山で大日如来の三昧耶形(さまやぎよう)をモデルにして毘盧遮那法界体性塔(びるしやなほつかいたいしようとう)を建立したが,この塔は三昧耶形そのままの宝塔形式(円形平面の一重塔)に裳階(もこし)(庇)を付けた二重の形式で,下重は方5間で内部には円形に並ぶ12本の柱列が2通りあったらしい。これを大塔(だいとう)形式ともいい,はじめは空海に関係の深い真言宗寺院で建てられたが,密教の盛行にともない,小型・簡略化して下重を方3間とし,内部の円形柱列をなくした現在みられる形式の多宝塔が,天台宗をはじめ他宗の寺院でも広く建てられるようになったと推考される。
多宝塔は大日如来そのものを具現した塔で,同じ仏塔でも飛鳥時代に伝来した五重塔,三重塔など(これを層塔という)が仏舎利の奉安を目的としているのとは少し性格が異なる。元来,多宝塔なる名称は《法華経》見宝塔品に由来し,多宝如来をまつる塔を指し,特定の形式を指すものではなかった。中国では雲岡石窟の浮彫に多宝仏をまつった五重塔などがみられ,第1層に仏陀と多宝如来の2仏が並んで刻まれている。日本でも白鳳時代の朱鳥元年(686)銘をもつ銅板千仏多宝仏塔(長谷寺)には六角三重塔が刻まれている。平安時代になって,まず天台宗寺院で多宝塔の名を冠した新形式の塔が建てられ,のちにこの名称が真言宗の毘盧遮那体性塔に移されたらしいが,その間の経緯はいま一つ明らかでない。なお鎌倉時代には,二重形式の多宝塔も一重の宝塔も一様に多宝塔と呼んでおり,多宝塔と宝塔を形の上で区別するようになったのは桃山時代以降のことらしい。多宝塔の初期の遺構としては滋賀県石山寺多宝塔(1194),和歌山県金剛三昧院多宝塔(1223)があり,高野山の大塔形式を伝える遺構としては和歌山県の根来寺多宝塔(1547ころ)がある。
→塔
執筆者:浜島 正士
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仏塔の一種。円筒状の塔身に宝形(ほうぎょう)の屋根をのせた宝塔の周囲に裳層(もこし)をつけた形式の建物。裳層内部に円形の塔身部が認められるものを大塔(だいとう)ともいう。塔身上部の白漆食(しっくい)塗りの部分を亀腹(かめばら)という。平安時代に密教が最澄・空海によって伝えられてから出現した建築である。天台宗では、初め『法華経(ほけきょう)』を法舎利(ほうしゃり)とし、それに胎蔵(たいぞう)界の五仏を祀(まつ)った多宝塔を建立、真言(しんごん)宗では大日如来(だいにちにょらい)を祀る建物として多宝塔(大塔)が建設されている。
多宝塔の名のおこりについては、重層宝塔からとする説と、『法華経』見宝塔品(けんほうとうほん)に説く多宝如来と釈迦(しゃか)如来の二仏並座の塔をいうとする説がある。後者の塔は奈良県長谷寺(はせでら)所蔵の銅板法華説相図にみえる。686年(朱鳥1)に製作されたもので、中央に多宝・釈迦並座の多宝塔が六角三重塔として浮彫りされている。前者のいわゆる多宝塔は大日如来を本尊とするので、後者の多宝塔とは明らかに異なっている。現存する古い多宝塔は滋賀県・石山寺多宝塔(国宝、鎌倉時代)であり、内部には四天柱が立つだけである。大塔形式の古いものには和歌山県・根来寺(ねごろじ)大塔(国宝、室町時代)がある。
[工藤圭章]
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… 仏塔は仏教建築として輸入されたもので,材料は木や石が多く,鉄塔,銅塔,瓦塔,泥塔,あるいは紙に描いた画塔,印塔などもある。木造塔は多層塔(3,5,7,9,13層)と多宝塔が普通である。石塔は日本では小さなものしかなく,形式としては多層塔,多宝塔,宝塔,宝篋印(ほうきよういん)塔,五輪塔,無縫塔,笠塔婆などがある。…
…同じ傾向は五間堂,三間堂にも見られ,この時代の建築を特徴づけている。本堂に組み合わせた塔の遺構も多いが,三重塔は中・後期,多宝塔は後期に遺構が増加している。これらの塔にも和様の伝統を踏襲した常楽寺三重塔(滋賀,中期)のほかに,折衷様の向上寺三重塔(広島,中期),三明寺三重塔(愛知,後期)がある。…
※「多宝塔」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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