物の質量を計る器具・機械の総称。語源は和語の「はかるもの」で、漢語では衡または称である。計量法では質量計という。英語では天秤(てんびん)やさお秤(ばかり)の類をbalance、そのほかをscaleという。一般に計ろうとする物に作用する地球重力加速度による力を、分銅またはおもり(錘)のそれとつり合わせるか、または力による弾性体の変形または変位に変える構造になっている。種類はきわめて多く、分類の方法にもいろいろあるが、天秤、さお秤、台秤、ばね秤、その他に大別される。
[小泉袈裟勝 2015年4月17日]
人間が最初につくった秤で、また今日でも精密な秤として用いられている。紀元前5000年ころのエジプトの墓の中から、石の分銅とともに天秤ざおが出土している。紀元前3000年ころのパピルスに描かれた天秤は、今日のものと大差ない構造をもっている。精度も、古代エジプトの薬の調合の最小単位は0.7グラム程度であるから、もっとも精巧なものの感度は0.1グラムに達していたと考えられる。古代中国においては殷(いん)代にすでに用いられていた。彼らは銅とスズの一定割合の合金である青銅をつくるため天秤を利用したのである。しかし支点、重点に紐(ひも)やピンを用いている限り精度には限界があった。17世紀ころになり支点にナイフエッジを用いることが始められて、精度は著しく向上し、これが科学ことに化学の発達を促した。また力学の発達に支えられて天秤ざおの構造やつり合いをとる機構や技術が改良され、今日のキログラム原器比較用の天秤は1億分の1を超える精度をもつに至っている。また電子・光学技術の応用によって一般に自動化が進んでいる。
これまでの天秤とは、左右の腕の長さが等しいものをいったが、第二次世界大戦後、支点を一方に片寄せて設け、短い腕の端に秤皿と多数の分銅をかけ、他方につり合いおもりとさおの傾きを検知する目盛りガラスをつけたものが普及した。秤皿にのせた物によるさおの傾きがほぼ元に戻るまで、ハンドルで分銅を外し、ハンドルについた目盛りで外した分銅の量を読み、なお残ったわずかな傾きは他端の検知装置により光学的に読み取って直接質量を知るのである。これを定感量直示天秤という。普通の天秤は計る量の大きさによってさおやナイフエッジにかかる力が変わり、その変形によって感度が変わるが、この天秤はつねに同一荷重がかかっているため感度が変わらず、しかも質量が直示されるということからこの名称がつけられたものである。
普通の天秤は皿を紐でつり下げているため、あまり大きな物は計れない。この欠点を解決したのが、17世紀のフランスの数学者ロバーバル(ロベルバル)Gilles Personne de Roberval(1602―1675)の機構である。この機構では、左右の腕にかけた分銅の質量が等しい場合、どこにかけてもつり合う。したがってこの縦の棒の上に皿を置けば、品物や分銅を置く位置によらず秤はつり合う。これが上皿天秤である。
[小泉袈裟勝 2015年4月17日]
計量法では棒秤という。天秤はたくさんの分銅を用意しなければならず、しかも携帯に不便である。さお秤ならば、1本の秤さおと1個のおもりで広い範囲の質量が計れる。これが発明されたのはローマ時代で、このためヨーロッパ諸国ではいまもローマ秤とよぶ。中国ではいつごろつくられたかわからない。西洋のさお秤は一般に金属製であるが、東洋では木製が普通である。日本では天秤はもっぱら両替に用いられ、商業では棒秤が用いられた。江戸時代は棒秤の製作、販売、取締りとも、江戸と京都に設けられた秤座(はかりざ)の専管とされた。
ナイフエッジと、送りおもりあるいは増しおもりを設けた金属製のさお秤には、天秤に近い精度をもつものもある。また大小のさおとおもりを上下に2段、3段に配置したものもある。上皿さお秤は、上皿天秤のさおの片側をフォーク形に開いて大きい皿を支え、一方のさおに目盛りをつけ、送りおもりと増しおもりを設けたものである。
[小泉袈裟勝 2015年4月17日]
天秤やてこ式の秤は、すべててこが水平につり合うものであるが、てこの荷重による傾きの変化によって質量を計るものが100年ほど前に出現した。これを振り子秤とよぶ。力学的には傾斜てこである。傾斜てこは等間隔の円周目盛りができないので、荷重側の腕の長さを変化させるようにカムを設けたものが振り子カム秤である。この直線性と拡大率を改良したものが差動振り子カム秤である。
[小泉袈裟勝 2015年4月17日]
フォーク形に開いた二つのてこを組み合わせ、その上に広い台をのせ、一方のてこの先端をさお秤の重点に結合したものである。18世紀の終わりごろイギリスで発明された。以後、載せ台の面積や能力の制約はなくなり、てこを数段に組み合わせた、数十トンもの物も計れるものがつくられるようになった。
[小泉袈裟勝 2015年4月17日]
つる巻きばねの一端に品物をかけると、その質量による下方へ向かう力によってばねは伸びる。ばねの弾性限界内ではこの伸びは力に比例し、したがって質量の目盛りをつけて秤とすることができる。商品としての最初のものは1770年イギリスで発売された。ただ天秤やてこ式秤と異なることは、地球重力加速度が直接かかわっているため、場所や高度によって指示値に差を生ずることである。このため精度の高いばね秤は、使用する場所の重力加速度にあわせて調整する必要がある。またばねはその弾性係数が温度によって変化するので、精度の高いばね秤は温度補償装置を設けるか、温度によっても弾性係数の変わらない定弾性ばねを用いる。一般にばねの変位量を機械的あるいは光学的な方法によって拡大指示するものが多いが、このばね式指示機構を従来のてこ式と組み合わせたものが普及している。自動体重計やヘルスメーターがこれである。ばねには渦巻ばねを用いたものもあり、微量用に使われる。
[小泉袈裟勝 2015年4月17日]
電気抵抗式秤は、円筒形その他弾性ブロックにひずみゲージをつけ、荷重によるひずみを電気抵抗の変化として検出するものも計量法ではばね秤としている。この検出部を電気抵抗式ロードセルといい、秤の要素としてのほか各種の荷重測定器として広く用いられている。ロードセルにはこのほか油圧式や静電容量式などがある。
以上は原理別にみた秤の区分であるが、これらの秤機構を応用した次のような特殊な用途のものがつくられている。
[小泉袈裟勝 2015年4月17日]
コンベヤー秤は、コンベヤーによって運ばれる品物の質量を連続して計り、総積算量を指示または記録する秤。ベルトにかかる荷重をベルトを介して秤機構に受け、瞬間荷重を計ってベルトの速度を利用して積算するものである。この積算する機構にくふうが凝らされ、機械式ではデニソン式、メリック式などが古くから用いられたが、電子技術の発達によってロードセルにより荷重を検出し、電気的に演算するものにかわっている。コンベヤーでつねに一定量を連続供給するものを定量供給秤という。
[小泉袈裟勝 2015年4月17日]
ホッパースケールは、穀物などを陸揚げするとき、フィーダーからホッパーに落とし込み、一定量に達すれば供給を止めて下部から排出する動作を連続自動的に行う秤。溶鉱炉に原鉱を供給したり、商品を一定量ずつ包装する場合などにも用いられる。
[小泉袈裟勝 2015年4月17日]
最近、秤の電気化、電子化の傾向が進んでいるが、その多くは秤機構の変形または変位を電磁気的量に変換したものが大部分である。しかし計量法でいう電磁式秤は、品物の重量をコイルに働く力とつり合わせ、その電流の強さから質量を求めるものである。
[小泉袈裟勝 2015年4月17日]
工業用には、秤機構を応用した各種の装置がある。貨幣、機械部品などの質量が定まった範囲にあるかどうかを選別するものが選別秤である。このなかには鶏卵や果物などを等級別に仕分けるものもある。また秤機構の拡大比を利用して一定質量の機械部品などの数を数える計数秤もある。
[小泉袈裟勝 2015年4月17日]
商業用の秤は古来、各国とも厳重な法規制の下に置かれていた。また最近はこの規制を国際的に統一するための条約機関、国際法定計量機関も設けられている。日本の計量法においては、まず秤(質量計という)を製作する者は経済産業大臣への、修理する者は都道府県知事への登録を要し、秤量(ひょうりょう)が150キログラム以下のものを販売する者も都道府県知事の登録が必要である。商用および証明用に使用する場合は、検定に合格したものでなければならず、また使用中の秤には定期検査が行われる。検定の合格条件は、第一にその秤が政令で定める種類に属すること、第二に経済産業省令で定める構造のものであること、第三には誤差が政令で定める公差を超えないことである。検定公差は一般にその秤の最小一目盛りの値、またはその秤に表記された感量(正確に計れる最小量)であり、使用中のものの公差はこれらの2倍である。
[小泉袈裟勝 2015年4月17日]
『小泉袈裟勝著『ものと人間の文化史48 秤(はかり)』(1982・法政大学出版局)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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