太公望(読み)タイコウボウ

デジタル大辞泉 「太公望」の意味・読み・例文・類語

たいこう‐ぼう〔‐バウ〕【太公望】

中国代の政治家。姓はりょ、名は尚、あざな子牙しが渭水いすいで釣りをしていて、周の文王に見いだされ、先君太公の望んでいた賢人だとして太公望とよばれたといわれる。文王武王を助けていんを滅ぼし、その功によってに封ぜられた。兵書六韜りくとう」の著者ともいわれる。
故事から》釣りをする人。釣りの好きな人。

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精選版 日本国語大辞典 「太公望」の意味・読み・例文・類語

たいこう‐ぼう‥バウ【太公望】

  1. [ 1 ] 中国、周の政治家。春秋斉の始祖姓名呂尚渭水(いすい)で釣りをしていて文王に見出されてその師となり、文王、武王をたすけて殷を滅ぼした。周の祖太公(古公亶父)が待ち望んでいた賢者という意味で、太公望と名づけられた。兵法の書「六韜(りくとう)」の著者という。生没年不詳。
  2. [ 2 ] 〘 名詞 〙 ( [ 一 ]の、釣りに関する故事から転じて ) 釣りをする人。釣りの好きな人。
    1. [初出の実例]「他(ひと)知らぬ大公望が釣加減」(出典:俳諧・昼礫(1695))
    2. 「一行の舟は静かに太公望の前を通り越す」(出典:草枕(1906)〈夏目漱石〉一三)

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故事成語を知る辞典 「太公望」の解説

太公望

釣り人のこと。また、高い地位の人から補佐役に迎えられるような、才能に富んだ人物のこと。

[使用例] 久一さんの頭の中には一尾のふなも宿る余地がない。一行の舟は静かに太公望の前を通り越す[夏目漱石草枕|1906]

[使用例] 御当人は悠々自適して時世が動き会社が自分を迎えに来るまで太公望の心境だと意気けんこうなんだがね[有吉佐和子恍惚の人|1972]

[由来] 「史記せいたいこうせい」に見えるエピソードから。紀元前一一世紀ごろの中国でのこと。しゅうという国の西せいはくという君主が、あるとき、狩りに出る前に占いをしたところ、「獲物は動物ではなく、覇王の補佐役でしょう」とのお告げ。そのまま狩りに出かけると、すいという川のほとりで釣りをしていた老人に出会いました。話してみてその才能に惚れ込んだ西伯は、「わたしの父、太公は、『いつか聖人が現れて、わが国に隆盛をもたらすだろう』と待ち望んでいたが、あなたがまさにその人だ」と言い、老人を補佐役に迎えたのでした。この老人、りょしょうの助言により、周は国力を蓄え、やがて、中国全土の盟主と仰がれるようになりました。

[解説] ❶周の西伯とは、後世、文王と呼ばれるようになった人物。文王は狩りにでかけて補佐役を捕まえたわけですが、呂尚からすれば、釣り糸を垂れていたら君主が引っかかった、という次第。どちらも動物を捕まえるつもりで人間とめぐり会ったというのが、おもしろいところです。❷現代の釣り人が自分たちを「太公望」と呼ぶ背景にも、そういう「大物」を釣り上げたいという野心がないとは言えないのかもしれません。

〔異形〕ひんぎょ/渭浜の器。

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改訂新版 世界大百科事典 「太公望」の意味・わかりやすい解説

太公望 (たいこうぼう)
Tài gōng wàng

中国古代,西周建国の際の功臣。名は呂尚。師尚父と尊称される。姓は姜(きよう)氏で,周王室の姫(き)姓と通婚関係にあった姜族に出るのであろう。彼は,貧窮の中に年老いて,渭水で釣をするところを周の文王に見いだされ,周の先公の太公が望んでいた人物だということで太公望と呼ばれたという。軍師として武王の殷王朝討伐に力を尽くし,斉に封ぜられてその始祖となった。その事跡については,秦・漢時代にすでに物語的な要素が多く,後世それがより発展して,《封神演義》などの小説の中では魔術師的能力を備えた軍師として活躍する。中国における軍師の始祖とされ,《太公六韜(りくとう)》などの兵法書が彼に仮託されている。
執筆者:

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百科事典マイペディア 「太公望」の意味・わかりやすい解説

太公望【たいこうぼう】

古代中国,の建国の功臣。名は呂尚(りょしょう)。文王の祖父(太公)が望んでいた人物といわれ,武王が天下を定めた後,封ぜられて国の基礎を築いた。釣をしているところを文王に見いだされた伝説がある。日本で釣人を太公望というのはこれにちなむ。
→関連項目六韜三略

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「太公望」の意味・わかりやすい解説

太公望
たいこうぼう
Tai-gong-wang; T`ai-kung-wang

中国,周王朝の建国伝説の名将。姜姓。師尚父,あるいは呂尚と呼ばれる。周の文王が渭 (い) 水のほとりで出会い,これが先君太公の待ち望んだ賢人であるといったところから太公望といわれた。文王に召されて周に仕え,武王のとき,殷周革命に際しての武功により斉侯に封じられた。その出身,事跡には各種の所伝がある。おそらく姜姓族の族長であったといわれる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「太公望」の意味・わかりやすい解説

太公望
たいこうぼう

呂尚

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世界大百科事典(旧版)内の太公望の言及

【羌】より

…五胡の一つ。殷の甲骨文に人身供犠として見え,また周の成立に貢献した呂尚(太公望)も同種族。多くの部族に分かれ長が統率した。…

【周】より

…洛邑を建設して成周とよんで東方支配の拠点とし,西の都を宗周と称した。各地に一族や功臣の有力者を封建して諸侯とし,土地と民とを支配させ,周王は諸侯を統制することによって東方を支配しようとし,周公旦の子伯禽を魯(山東省曲阜県)に,召公奭(しようこうせき)(武王弟)の子(弟ともいわれる)を燕(北京市西郊)に,康叔(武王弟)を衛(河南省淇県)に,功臣太公望呂尚を斉(山東省臨淄(りんし)県)に封じるなどした。これが周の封建制度である。…

【釣り】より

…このころには,趣味の釣りとしての位置が明確に打ちだされ,マナーなどについても厳しい注文がだされている。 中国では古王朝周代の太公望の名が有名で,釣人の代名詞ともなっている。太公望は渭水で釣りをしていたが,あるとき3日間何も捕れず,腹立ちまぎれに帽子をたたきつけると,異形の人が現れ,その指示どおりするとフナとコイが釣れたといい,すでに釣りが楽しみで行われていたことをうかがわせる。…

※「太公望」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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