如し(読み)ゴトシ

デジタル大辞泉 「如し」の意味・読み・例文・類語

ごとし【如し】

[助動][○|ごとく|ごとし|ごとき|○|○]活用語の連体形体言助詞「の」「が」に付く。
比喩ひゆ的に、同等・類似の意を表す。…と同じだ。…のとおりだ。…のようだ。
「あをによし奈良の都は咲く花のにほふがごとく今盛りなり」〈・三二八〉
「おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし」〈平家・一〉
例示を表す。たとえば…のようだ。…など。
和歌管絃、往生要集ごとき抄物せうもつを入れたり」〈方丈記
不確実な断定を表す。…のようだ。…らしい。→ごとき
「松の緑こまやかに、枝葉汐風に吹きたわめて、屈曲おのづからためたるがごとし」〈奥の細道
[補説]「ごとし」は、中古では多く漢文訓読文に用いられるが、語幹にあたる「ごと」は上代・中古の和歌などに用いられた。3は、中世以後の用法で、近代文語文にもみられる。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「如し」の意味・読み・例文・類語

ごと‐し【如・若】

  1. 〘 助動詞 〙 ( 活用は「〇・ごとく・ごとし・ごとき・〇・〇」。「同じ」の意を表わす「こと」の濁音化した「ごと」に、形容詞をつくる活用語尾「し」が付いたもの。名詞+「の」、代名詞+「が」、用言および助動詞の連体形、連体形+「が」などに付く。体言に直接付くこともある ) 比況の助動詞。
  2. ある事物・状態が他と同じであることを表わす。…と同じだ。…のとおりだ。…と同じく。
    1. [初出の実例]「天地のそこひのうらに吾(あ)が其等久(ゴトク)君に恋ふらむ人はさねあらじ」(出典:万葉集(8C後)一五・三七五〇)
    2. 「道に長じぬる一言、神のごとしと人思へり」(出典:徒然草(1331頃)一四五)
  3. ある事物・状態が他と似ていることを表わす。…のようだ。…に似ている。
    1. [初出の実例]「巻向(まきむく)の山辺とよみて行く水の水沫(みなわ)の如(ごとし)世の人吾れは」(出典:万葉集(8C後)七・一二六九)
    2. 「風に堪へず、吹き切られたる焔、飛ぶが如くして」(出典:方丈記(1212))
  4. 体言に付いて「…(の)ごとき」の形で用いて、多くのものの中からいくつかをあげて例示する場合などに用いる。たとえば…のようなもの。たとえば…など。
    1. [初出の実例]「楊貴妃ごときはあまり時めきすぎて悲しき事あり」(出典:岩瀬本大鏡(12C前)五)
  5. 体言、特に代名詞あるいは人名に付いて「…ごとき」の形で用いて、さげすみや、謙遜の表現に用いる。
    1. [初出の実例]「面々ごときの人は、祐成ふぜいの貧者、たのむところなし」(出典:曾我物語(南北朝頃)六)
  6. 不確実な断定を表わす。…のようだ。「やむを得ざるもののごとし」
    1. [初出の実例]「吾人の言甚だ過ぎたるものあるが如し」(出典:美的生活を論ず(1901)〈高山樗牛〉七)

如しの語誌

( 1 )直喩的意味を表わす「ごとし」は奈良時代には口語的表現であったが、平安時代になると、漢文訓読の際や訓読文系統の文章に「ごとし」が、和文に「やうなり」が多く用いられるようになった。「ごとし」が和文に用いられるのは、男性の、改まった場合の表現に多い。→よう(様)[ 一 ][ 二 ]
( 2 )語幹「ごと」は連用修飾格や述語格などに用いられた。→ごと(如)
( 3 )平安時代の漢文訓読に、未然形「ごとけ」が用いられた。「西大寺本金光明最勝王経平安初期点‐一〇」の「所獲の功徳も亦復是の如(ごとケ)む」など。
( 4 )仮定条件を表わすのに、「ごとくは」とともに「ごとくんば」「ごときんば」の形も用いられた。→ごときんば(如━)ごとくんば(如━)
( 5 )終止形「ごとし」には連用修飾格にたつ特殊な用法があった。「今昔‐七」の「髪・眉皆本の如し生(おひ)ぬ」など。また、連体形「ごとき」は連用修飾格に用いられることがあった。「今昔‐一一」の「是は何(いどこ)より来れる聖人の如此(かくのごと)き走り給ふぞ」など。
( 6 )平安時代以後に、連用形「ごとく」に「に」のついた形が、連用修飾語に用いられ、また、それに「あり」の接してできた「ごとくなり」が用いられた。→ごとくなり(如也)
( 7 )用例は少数であるが、「ごとしなり」「ごときなり」の形も用いられた。「今昔‐四」の「遠く近く人集まる事雲の如し也」、「今昔‐一〇」の「形端正にして有様の微妙(めでた)き事世に並び无し、光を放つが如き也」など。
( 8 )「ごとくあり」の形が漢文訓読などに用いられることがあった。「西大寺本金光明最勝王経平安初期点‐一」の「妙高山王のゴトクアル菩薩、大海深王のゴトクアル菩薩」など。また、後世には「ごとかり」「ごとかる」の類も用いられた。高山樗牛「美的生活を論ず‐六」の「彼等の其の道に就くや烏の塒(ねぐら)に帰るが如かりしのみ」など。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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