記紀神話に出てくる大烏、あるいは頭の大きな大烏。『日本書紀』では、頭八咫烏(やたからす)という。東征の際、高木神(たかぎのかみ)(記)、天照大神(あまてらすおおみかみ)(紀)によって神武(じんむ)天皇のもとに派遣され、熊野(くまの)から大和(やまと)に入る険阻な山中を導く。また紀では、兄磯城(えしき)・弟磯城(おとしき)の帰順勧告に派遣される。鴨県主(かものあがたぬし)の祖である鴨建角身命(かもたけつのみのみこと)が化したものともいい(『新撰姓氏録(しんせんしょうじろく)』『古語拾遺(こごしゅうい)』)、その子孫は葛野主殿県主(かどののとのもりのあがたぬし)ともいわれる(紀)。
烏のもつ意味については、日神の使者、熊野のみさき、トーテム動物のほか戦陣で危急を救う鳥などと説かれているが、いずれにせよ烏が神秘な能力をもつことを示す。この話を神武伝承に結び付けた氏族については、主殿寮(とのもりづかさ)の殿部(とのべ)として葛野県の鴨県主とするのが通説であるが、大伴(おおとも)氏とする異説もある。
[吉井 巖]
『佐伯有清著『ヤタガラス伝説と鴨氏』(『新撰姓氏録の研究 研究編』所収・1963・吉川弘文館)』
記紀の神武天皇東征譚にあらわれる鳥。神武天皇の軍が熊野,吉野を越えて大和へ入ろうとするとき,ヤタガラスが天照大神(《古事記》では高木大神)の命で派遣され,先導をつとめたとされる。また大和の土豪兄猾(えうかし)・弟猾(おとうかし)平定のさいはこの烏が使者に立っている。ヤタガラスは山城の鴨(賀茂)県主(かものあがたぬし)の先祖とされている(《日本書紀》《古語拾遺》)。同氏は主殿の職を世襲したが,その職掌のうちには〈車駕行幸供奉〉(《延喜式》),大嘗祭における〈秉燭照路〉(《北山抄》)ということがあり,神話と祭式の対応関係を示すものと考えられる。
執筆者:阪下 圭八
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…途中,宇佐,筑紫,安芸,吉備を経歴しつつ瀬戸内海を東進して難波に至り,そこで長髄彦(ながすねひこ)と戦って五瀬命を失う。神武の軍は南に迂回して熊野に入ったところを化熊に蠱惑(こわく)されるが,天津神の助力によって危地を脱し,天津神の派遣した八咫烏(やたがらす)の先導で熊野・吉野の山中を踏み越えて大和の宇陀に出る。ここで兄猾(えうかし),弟猾(おとうかし)を従わせ,以後,忍坂(おさか)の土雲八十建(つちぐもやそたける),長髄彦,兄磯城(えしき),弟磯城(おとしき)らの土着勢力を各地に破り,大和平定を成就する。…
※「八咫烏」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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