出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
福島県二本松市東部,阿武隈川南岸にある地名。安達ヶ原は歌枕として多くの歌に詠まれ,安達太良山南東麓の本宮盆地を指すとも言われる。この土地には古くから鬼が住むという伝説があり,たとえば平安後期成立の《拾遺和歌集》に,平兼盛の詠として〈みちのくの安達の原の黒塚に鬼こもれりときくはまことか〉の歌が入っている。この古伝説を踏まえて,謡曲の《安達原》(現在,観世流以外の流派では《黒塚》という)が生まれた。熊野山伏が行き暮れて一つ家に宿るが,主の老婆の留守に,禁を破って閨(ねや)の中をのぞき,死骸の山を見て逃げ出す。老婆は鬼女の正体を現して追いかけ,食い殺そうとするが,山伏に祈り伏せられる。古伝説は謡曲によっていよいよ広まった。1762年(宝暦12)初演の浄瑠璃《奥州安達原》(近松半二ら作)は四段目にこの〈一ッ家〉を趣向に採り入れた。この作では,老婆を安倍貞任の親岩手とし,環の宮の啞を治すために,わが子と知らず身重の恋絹を殺して胎児を奪うという展開に脚色された。また,1939年に東京劇場で初演された舞踊劇《黒塚》(木村富子作詞)は,能《安達原》を素材としつつも,これを脱し,近代的な解釈を加えた佳作で,2世市川猿之助の代表作となった。
執筆者:服部 幸雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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