もとは家庭内で守られるべき道徳とか家政,生計の意味で用いられた言葉であったが,中世以後の芸能的世界では〈家〉によって伝承される〈道〉の意で使われる。芸能の技と技が到達した特別の世界は〈この道に至らんと思わん者〉〈この道の輩〉など〈道〉ということばで表現され,〈道〉を伝える〈家〉は〈家の習〉〈家々に申し伝えたる筋〉などと用いられる。〈家道〉という語は,いわば芸能諸分野の伝統性を家と道の関係でとらえようとする語彙である。〈道〉概念には諸分野に共通して(1)専門性,(2)普遍性,(3)伝承性,(4)権威性という特性がある。〈家〉はこの〈道〉を維持発展させる主体であり,単に家族制度を指すというよりは,より抽象的に特殊人格的な存在として想定されている。〈家〉にも〈道〉の特性に対応する類似の特性がみられるが,なかでも,(3)血縁もしくは疑似血縁関係によって連綿と継承されるという伝承性と,(4)その分野の指導的存在として社会的に高く評価される権威性はとくに重要である。重代,譜代の者であることが技能,資質と並んで主要な要件とされた。家が道の追求によって〈家〉となり,〈道〉が家によって保持されるという補完的な構造を端的に指摘する言葉として,世阿弥《花伝書》別紙口伝の〈此別紙の口伝,当芸に於て家の大事,一代一人の相伝なり,たとへ一子なりといふとも,不器量の者には伝ふべからず,家家にあらず,次ぐをもて家とす,人人にあらず,知るをもて人とすといへり〉という表現がある。道を保持継承する具体的な方法は〈型〉の習得によってなされる。各分野に固有の型を学ぶために稽古を積むべきことが強調され,一部は〈秘事口伝〉(口伝)として伝授される。家道における家と道の理念は,近世以後は享受層と分野がはるかに拡充したのに伴って〈家元制度〉と〈芸道〉理念へと移行しながら継承され定着するにいたった。
→家元
執筆者:今泉 淑夫
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