おもに武道や古典芸能で用いられる語。〈形〉と表記することもある。武道の場合には,攻撃と防御の対応を定型化した規範的な行動様式をいい,古典芸能の舞台においては,せりふや身振りなどの有意的表出,舞や拍子などの無意的表出を定型化したそれをいう。歌舞伎の型は有意的表出の定型に属し,作品の趣旨や登場人物の理解にもとづいて役の行動を表現するための,全体的ないし部分的な行動様式,およびそれに付随する演出上の諸約束をいう。
型は,共同体の秩序を維持するための規範的な行動様式から発生したものと考えられる。共同体の秩序とは,その成員の他者(人間や事物)に対する諸関係の総和であり,それを恒常的に一定の状態に保つことが秩序を維持することにほかならない。そのために,成員は個々の共同体に固有の規範的な行動様式に拘束され,それに則して行動することを要求される。さらに厳密にいえば,成員は共同体を構造化する二つの世界--日常性の世界と非日常性の世界--の秩序が互いに他を侵さぬよう,それぞれの世界において規範とされる行動様式に従わなければならないのである。もっとも,日常性の世界における秩序は単に共同体内部の要因によってのみ決定される性格のものではなく,外部との接触によって相対化されざるをえないから,その行動様式もまた状況の変化に応じて調整される必要がある。それに対し,非日常性の世界は日常性の世界の根拠であり,その深層と通底する聖性を帯びた世界であるから,そこにおける行動様式には調整や改変を許さない絶対的な価値が付与されている。
儀礼や芸能は非日常性の世界に属する営為である。したがって絶対的な価値と拘束力とを備えた規範的な行動様式,すなわち型と,その厳格な遵守とが,そこには求められなければならない。神話における〈ミトノマグハヒ〉のように,型を逸脱した行動は共同体に災禍をもたらすからである。けれども,政治権力が非日常性の世界から隔離され,都市が共同体から排除されるという歴史的条件の変化に伴って,たとえば書院の花が仏前を荘厳する供花(くげ)から分化するように,芸能は非日常性の世界にとどまる部分と,そこから離脱して自立する部分とに分裂し,後者は疑似的な聖性に彩られた虚構の創造という新しい営みを展開するようになる。それとともに,型もまたその創造のための規範的な行動様式へと変質する。
変質した型についてその性格を明示した最初の人は猿楽の世阿弥であった。〈形木(かたぎ)〉という語を用いて,〈ヲヨソ,音曲ニモ,筋ハ定マレル形木,曲ハ上手ノモノ也。舞ニモ,手ハ習ヘル形木,品カカリハ上手ノ物ナリ〉(《風姿花伝》第七・別紙口伝)といっている。形木とはもともと染めに用いる模様を彫った板のことで,転じて基準となるべき型をいう。いわばいまだ形を持たぬ内容に形を与え,認知可能な状態へと変化させるための規範的形態が形木である。舞台芸術の場合,それは演者の無意識の中に閉じ込められている感情の流れや律動などを表出するための仕掛けの役割を果たすとともに,それらを一定の構造へと組織する精神的価値を伴った行動様式の規範的形態となる。型は〈定マレル形木〉すなわち規範であるから,他に対して自己の芸術的立場を主張する根拠となるべきものである。型はまた,〈習へル形木〉であり,伝承という行為を通じて追体験的に習得されるべきものである。型の持つこのような規範性と伝承性とを基軸として,古典芸能における流派・流儀や家のごとき共同体的芸能集団の秩序が成立し,かつ維持されるのである。
執筆者:今尾 哲也
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芸能用語。舞(雅)楽、能、狂言、人形浄瑠璃(じょうるり)、歌舞伎(かぶき)、舞踊など、伝統芸能の演技・演出において、代々継承され洗練されて固定化した表現様式のこと。演者の芸を中心に伝承されてきた日本芸能の特徴である。流派・家系によって、作品の解釈や全体の構成演出にかなりの差がある場合も多く、これを「何流の型」「誰々(だれだれ)の型」などという。能で小書(こがき)と称するのは特殊な型で演ずることを意味し、たとえば『紅葉狩(もみじがり)』の「鬼揃(おにぞろえ)」という小書の場合、後(のち)シテの鬼が普通1人なのを、ツレの鬼が5人も出るというように、扮装(ふんそう)や囃子(はやし)や舞の一部だけでなく、脚本全体に変化の及ぶものがある。
歌舞伎も、江戸時代は俳優の創意工夫が貴ばれ、したがっていろいろな型が生まれたが、明治以降、歌舞伎が古典化するにつれて、演出の固定化が始まり、限られた種類の型が忠実に踏襲されるようになった。たとえば、『忠臣蔵』の五、六段目の勘平(かんぺい)の型には、3世、5世の尾上(おのえ)菊五郎によって完成された「音羽屋(おとわや)型」で代表される江戸風の型と、上方(かみがた)風の型があり、『熊谷陣屋(くまがいじんや)』の熊谷には、9世市川団十郎の型と4世中村芝翫(しかん)の型が伝わり、それぞれ演技の手順や衣装などに明瞭(めいりょう)な差があるが、今日の東京では勘平は音羽屋型、熊谷は団十郎型で演ずるのが常識のようになっている。昭和の初期、6世菊五郎がいくつかの義太夫(ぎだゆう)狂言に原作を尊重した新演出を試み、その型が後継者たちによって伝えられているという例はあるが、近年ではこうした新しい型の創造はきわめて少なくなっているといってよい。
[松井俊諭]
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…歌舞伎は,舞楽,能,狂言,人形浄瑠璃などとともに日本の代表的な古典演劇であり,人形浄瑠璃と同じく江戸時代に庶民の芸能として誕生し,育てられて,現代もなお興行素材としての価値を持っている。明治以後,江戸時代に作られた作品は古典となり,演技・演出が〈型(かた)〉として固定したものも多いが,一方に新しい様式を生み出し,その様式にもとづいた作品群を作りつづけてきた。また,古典化した作品の上演にも新演出を試みるなどの方法によって,全体としては流動しながら現代に伝承され,創造がくり返されている。…
…このような性質をもつ言語を高水準言語と呼ぶ。
[手続き型言語]
高水準言語は,大きく分けて手続き型言語と非手続き的言語から成り,それぞれがさらに,いくつかの系統に分類可能である。 両者のうち,より古くからあるのが手続き型procedural言語ないし命令型imperative言語であり,変数と呼ばれる名前のついた記憶領域に次々と値を格納していく(それ以前に格納されていた値は失われる)ことを基本動作として計算が進行していく実行モデルをもつ。…
※「型」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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