共同相続関係において相続人のうちのある者が,被相続人の財産の維持・増加に寄与しながらその生存中に対価ないし補償を受けていなかった場合に,共同相続人間の公平を図るため寄与者にその寄与に応じた特別の持分を認め,その相続分を増加する現行民法上の制度。1980年の民法改正によって創設された(904条の2)。
民法は,共同相続人のうちのある者が被相続人から婚姻もしくは養子縁組のため,または生計の資本として贈与を受けていた場合にその価額を相続開始時の財産の価額に加えたものを相続財産とする〈特別受益〉持戻しの制度を設け(903条),そのような利益を受けていない他の相続人との間の公平を図ってきた。たとえば,3人の子A,B,CのうちAが100万円,Bが200万円の特別受益を有し,被相続人死亡時の財産額が1500万円であるとすると,特別受益を加算した1800万円の3分の1がCに与えられ,A,Bはそれぞれ500万円,400万円を受け取るにとどまるのである。これに対して〈寄与分〉は,いわばマイナスの特別受益ともいうべき性質を有し,それを考慮することによってはじめて共同相続人間の公平が実現されることになると考えられている。たとえば,被相続人死亡時の財産額は1800万円であるが,3人の子A,B,CのうちAが100万円相当,Bが200万円相当の寄与をしてその財産が形成されたと認められるときは,それらを控除した1500万円の3分の1がCに与えられ,A,Bにはそれぞれ寄与分として100万円,200万円を加算した600万円,700万円が現に存する1800万円の財産のうちから与えられることになる。
寄与のしかたは,被相続人の事業に関する労務の提供でも財産上の給付でもよく,また被相続人の療養看護に努めてその支出を少なくしたというのであってもよい。遺産分割に際して共同相続人間の協議によって寄与分の有無および額が決定されるべきであるが,協議が成り立たない場合には家庭裁判所に寄与分の決定の審判を申し立てることができ(家事審判法9条1項乙類9号の2),遺産分割の審判を求めることができる(同乙類10号)。
寄与分の制度には二つの限界がある。まず,被相続人が有した財産の価額から遺贈の価額を控除した額を超えることができない(民法904条の2-3項)。つまり,被相続人が全財産を遺贈した場合には,寄与分を請求することができない点である。第2に,被相続人の財産の維持・増加に相続人以外の者(たとえば,子の配偶者)が寄与した場合に,その補償を寄与分の名において請求することはできない。現行法上の寄与分は,相続人間の公平を図ることに限られているからである。相続人以外の者の寄与は,相続人に対する一般法上の債権的権利(たとえば不当利得返還請求権)によって償還を求めることが考えられうるにとどまる。
→相続 →特別縁故者
執筆者:稲本 洋之助
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…したがって,それとは逆に,相続人の一部が相続財産に入った財産をみずからの負担によって形成した場合にはその寄与を考慮し,相続財産から当該相続人に相当額の償還を行って公平を図るべきである。これを寄与分という。寄与分は,相続財産側の特別受益であるから,遺産分割にあたっては,それを控除した財産額について上記の具体的相続分を算定すべきである。…
※「寄与分」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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