日本古代の市における交易その他を管轄する令制の官司。令制以前では《日本書紀》大化2年(646)3月甲申条や斉明5年(659)是歳条にみえるので,古くから存在した海拓榴市(つばいち)や軽市(かるのいち)その他を管轄する官職または官司として設置されていた可能性は大きい。飛鳥浄御原令(あすかきよみはらりよう)では不明だが,大宝令以降では,左右京職の管下に東市司・西市司が置かれて東市・西市(ひがしのいちにしのいち)を管轄し,それぞれ正・佑・令史各1員のほか価長5人,物部20人その他が配属されていた。市司は市にあって時価に準じて3等の価格を定め,10日ごとに(《延喜式》では毎月)簿(《延喜式》では沽価帳)を作成して季別に京職に提出し,市における不正の取締り,器物の真偽の監視,交易における度量衡の管理を行う規定であったが,そのほか物資の購入にも従事したらしく,物部は罪人の決罰に関与した。また《延喜式》では毎年〈市人籍帳〉を作成して市人を統轄する規定だが,奈良時代でも同様であったであろう。
→市
執筆者:栄原 永遠男
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古代に市での売買・交易活動をつかさどった官司。「日本書紀」大化2年(646)条が初見。都城に市が本格的に設置され,律令制下には東西両市に市司がおかれ,東市司が左京職に,西市司が右京職に所属した。正(かみ)・佑・令史のほか,価格の検査にあたった価長(かちょう)が属した。市での売買を監視し,また市内部の治安維持にもあたったが,正倉院文書などによれば,官司や貴族の命で物資を調達することもあった。
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…同様のことは《日本書紀》持統3年(689)11月丙戌条に見える〈中市〉についても言えるが,その所在地は明らかでない。このような初期の市の中には,都宮との関係が深いものが存在し,都城の成立とともに,藤原京の〈市〉や平城京以後の〈東西市(東市・西市)〉,難波京の〈難波市〉など,市司(いちのつかさ)の管理する市へとうけつがれた。これに対して〈餌香市〉〈阿斗桑市〉は,河内の交通の要地に立地した市であるが,河内以外にも《日本書紀》天武1年(672)7月壬子条にみえる近江の〈粟津市〉のごとく各地に市が存在していたとみてよい。…
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