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幾何学基礎論 きかがくきそろんfoundation of geometry

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

幾何学基礎論
きかがくきそろん
foundation of geometry

ユークリッドの平行線公理に対する反省から,非ユークリッド幾何学が生れたが,一方では,ユークリッドの『原本』の論理性を再検討する必要が起り,「幾何学を公理から出発して,論理的に矛盾なく構成するには,どのような公理系を採用すればよいか,ある公理系をとることによりどのような構造の幾何学が得られるか,それらの異なった幾何学の相互関係はどうなっているか」などについての検討が進められた。このような研究部門を幾何学基礎論という。 19世紀の終りに,集合論に関する逆理が発見され,数学の理論構成に対する反省が起ったが,このとき D.ヒルベルトは,公理主義あるいは形式主義による数学の建設を考え,この危機を救おうとして『幾何学基礎論』 (1889) を著わした。これは同時に,ユークリッド幾何学の公理系に対する吟味の役割を最も徹底して行なったものとして知られる。

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世界大百科事典 第2版の解説

きかがくきそろん【幾何学基礎論 foundation of the geometry】

純粋な論理体系として幾何学を構成することを幾何学基礎論という。これが完全な形で実現されたのはD.ヒルベルトの有名な著書《幾何学の基礎Grundlagen der Geometrie》(1899)においてである。しかしながら,その源泉はそれより2000年以上も前に著されたユークリッドの《ストイケイア》にある。この著作は,古くから知られていた図形についての多くの知見を集大成して一つの学問体系にまとめあげたものであるが,これはプラトンによる次の思想の上に成立している。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

幾何学基礎論
きかがくきそろん
foundation of geometry

幾何学の基礎をなす公理間の相互の関係を詳しく検討することによって、幾何学の数学的構造を明らかにしようとする試みをいう。ユークリッドの『幾何学原本』(『ストイケイア』)にある第五公準(平行線公理)への疑問は、1830年前後の非ユークリッド幾何学の発見によって終止符を打たれた。その後リーマンは空間概念の拡張である多様体を定義し、今日リーマン幾何学とよばれる幾何学を創始した。この幾何学はユークリッド、非ユークリッド両幾何学を包含した、より一般性をもつ幾何学である。また、クラインはエルランゲン目録において、一つの変換群があるごとに一つの幾何学が対応することを示して、幾何学が多数存在しうる理由を基礎づけた。たとえば、アフィン変換で不変な空間の性質を調べる幾何学としてアフィン幾何学が誕生し、また、射影幾何学に対応する変換群として射影変換群の概念も明確になった。このように新しい幾何学の発見が続く一方で、ユークリッド幾何学そのものへの反省も生まれてきた。[立花俊一]

ヒルベルトの幾何学基礎論

ヒルベルトは『原本』における定義、公準を根底から考え直し、公準間の相互関係を詳しく検討するという幾何学の新しい研究分野を開拓した(1899)。『原本』は23個の定義、5個の公準、5個の公理から出発している。ここでの公理は「全体は部分より大きい」「同じものに等しいものはまた互いに等しい」というような数学一般についての命題であるから、以下の説明からは省く。定義は用語の説明で、たとえば「点とは大きさのない位置である」「直線とは幅のない長さである」のように始められている。ここで第一の問題は、このようなあいまいな定義をもとにして建設された体系はいかに論証が厳密であっても不確かではないか、という点である。次に、公準(現在は公理とよばれている)についての疑問である。『原本』では公準についてなんの説明もなされていない。それまで公準は、証明する必要のない明白な事実と解釈されていた。しかし、であるとすれば幾何学はユークリッド幾何学ただ一つしか存在しえないということになり、他の幾何学が存在しうることと矛盾してしまう。そこで公準をどう解釈するかが第二の問題となる。ヒルベルトはこれらの問題を解決するために「無定義」という概念を創始し、公準とは無定義要素と無定義関係の間の約束とした。点、直線、平面は無定義要素であるから、これらをかりにいろはにほへと名づけてもよい。また「通る」「上にある」「合同」は無定義関係であるから、これらをそれぞれあいうえおかと書いてもよい。すると、たとえば、「2点を通る直線はかならず一つ存在する」という命題は「二つのいろあいするはにはかならず一つ存在する」となる。公理は記号いろはにほへあいうえおかなどについての約束とし、公理系で述べられた約束を守って論証によってこれら記号の間の関係を調べていくのが幾何学であるとした。記号それぞれの意味は定めてないから人によって自由なイメージをもちうるが、公理によって互いに束縛されている点だけを問題とすればよい。いろはに……のかわりに点、直線……ということばを用いるのは、それによってイメージがもちやすくなり実用上便利であるからにすぎないとする。
 また『原本』では5個の公準から出発して論証のみを用いて幾何学を展開したことになっているが、詳しく調べてみると、論証だけでなく図に頼って議論を進めている部分もある。そのような厳密さに欠ける問題点をなくすために、ヒルベルトは、(1)8個の命題からなる結合の公理、(2)4個からなる順序の公理、(3)5個からなる合同の公理、(4)1個の平行線公理、(5)2個の連続の公理を、無定義要素と無定義関係の間の約束として公理系に採用した。そして、この公理系によって初めて、『原本』で扱った幾何学が本当に論証の科学になることを示した。さらにヒルベルトは、公理が互いに矛盾がないこと、互いに独立であること、公理系が完全であること、を要請し、上述の公理系についてそれらを証明した。ここで完全とは、公理系の用語で述べた幾何学の命題はかならず正否が判定できることをいう。ヒルベルトのこのような論法は、以後幾何学のみならず数学の他の部門にも適用されて、数学基礎論の発展にも大きく寄与した。[立花俊一]

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世界大百科事典内の幾何学基礎論の言及

【数学基礎論】より

…与えられた形式的体系について,証明論の究極の目標は〈矛盾に至る証明はその体系内ではありえない〉ことを証明することである。さかのぼって,ヒルベルトは《幾何学基礎論》(1899)でユークリッドの《ストイケイア》の欠陥を補ってユークリッド幾何学の完全な公理系を与え,それらの公理の独立性と公理系の無矛盾性を証明した。しかし,その証明は結局実数論の無矛盾性に帰着させるもので,〈実数論が無矛盾ならば,ユークリッド幾何学もまた無矛盾である〉という相対的無矛盾性relative consistencyである。…

※「幾何学基礎論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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