(読み)あく(英語表記)evil

翻訳|evil

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説


あく
evil

原義は人間にとって有害な諸事象,あるいはそれらの原因をいう。広範な概念であり,天災や疾病などの自然的悪,人倫に反する道徳的悪,制度的悪,さらにそれらの根源とみられる形而上学的悪など便宜的に区分されるが,これらは視点の相違によるとも考えられる。古代においては悪を起すものを超人間的存在として考え,悪魔,魔神など擬人化の傾向が神話や宗教にみられる。多くの宗教は人間存在に悪が内在するとして,対照的に神の正義を立証しようとする (キリスト教の原罪,プラトンプロチノスの悪としての肉体,ライプニッツの形而上学的悪など) 。これら悪の起源を人間的存在そのものや超越者に求めるのとは反対に,人間経験やその結果としての体制に悪の起源を認める傾向もある。その代表的なものはマルクス主義。古代中国思想における性善説性悪説も悪の起源を超越とするか内在とするかの対立である。ときには美が悪の反対概念とされる。人間を有限的存在としてみるかぎり,悪の問題は常に哲学,心理学,社会学などの中心問題の一つであり続ける。

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デジタル大辞泉の解説

あく【悪】

[名]
わるいこと。人道・法律などに反すること。不道徳・反道徳的なこと。「に染まる」「の道に走る」「の張本(ちょうほん)」⇔
芝居などで、敵役。「実(じつ)」「色
[接頭]人名・官名などに付いて、性質・能力・行動などが、あまりにすぐれているのを恐れていう意を表す。「七兵衛景清」

あく【悪〔惡〕】[漢字項目]

[音]アク(呉)(漢) (ヲ)(漢) [訓]わるい あし にくむ
学習漢字]3年
〈アク〉
正しくない。わるいこと。「悪意悪質改悪害悪旧悪凶悪極悪最悪罪悪邪悪醜悪
不快な。いやな。「悪臭悪感情
よい状態にない。上等でない。「悪衣悪食悪筆粗悪劣悪
〈オ〉
不快に思う。にくむ。「嫌悪好悪憎悪
気分がむかむかする。「悪寒悪阻(おそ)
〈わる〉「悪気(わるぎ)悪口性悪(しょうわる)
[難読]悪戯(いたずら)悪阻(つわり)

お【悪】[漢字項目]

あく

わる【悪】

形容詞「わるし」の語幹から》
悪いこと。また、いたずら。わるさ。「をする」「性(しょう)
悪人。悪党。また、悪いことをする子供。「学校一の
他の語の上に付いて複合語をつくり、悪い、不快である、害になる、度が過ぎるなどの意を表す。「知恵」「酔い」「乗り」「ふざけ」

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世界大百科事典 第2版の解説

あく【悪 evil】

悪はふつう善の反対語とされている。しかし〈よい‐わるい〉という日本語対比は,英の〈good‐bad〉と同様に,道徳的意味だけには限られない。例えば,〈美‐醜〉〈吉‐凶〉〈幸‐不幸〉なども〈よい‐わるい〉の区別に含まれる。したがってこれらの反対概念の組の中で〈善・悪〉という形で対比される場合を,道徳的意味に限定された〈よいこと・わるいこと〉を意味するものとして考えることができよう。ただし漢語の〈悪〉は元来,もっと広い意味を持っていた。

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大辞林 第三版の解説

あく【悪】

[1] ( 名 )
わるいこと。否定すべき物事。道徳・法律などに背く行動や考え。 ⇔ 「近代社会が内包する-」 「 -の道に走る」 「 -の限りを尽くす」
演劇で、敵役。悪役。
〔近世語〕 悪口。悪態。 「よく-をいひなんす。ちつとだまんなんし/洒落本・妓娼精子」
( 接頭 )
名詞に付いて、畏敬の念を抱かせるほど荒々しく強い意を表す。 「 -七兵衛」 「 -源太」

わる【悪】

〔形容詞「悪い」の語幹から〕
悪い者。悪党。 「相当の-だ」
悪いこと。よくないこと。 「あら-の念仏の拍子や候/謡曲・百万」
種々の語の上に付いて、複合語を作る。
悪い、不快である、害になる、などの意を表す。 「 -酔い」 「 -がしこい」
程度が過ぎている意を表す。 「 -乗り」 「 -ふざけ」

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説


あく

人間にとって否定的と評価される対象、行為、事態をさし、肯定的な価値としての善の対(つい)をなすもの。このように形式的に定義するならば、善と悪との区別はすべての人間社会にみられるものであるが、ただ実際に何が善とされ、また悪とされるかの内容は、人間の環境、社会構造、精神的能力などによって変化し、一様ではない。それは人類の諸宗教ならびに道徳と深くかかわり、また哲学的反省の重要な課題をなしている。[田丸徳善]

未開社会の悪

ごく概括的にいえば、未開社会にあっては道徳的意識が未分化であるため、自然的な悪(害悪)と人間の意志に基づく勝義での悪とが明らかに区別されない傾向が強い。悪は、しばしば超人間的な力や神霊に由来するものとして対象化される一方、悪(あ)しき行為の規制はさまざまのタブー(禁忌(きんき))の形をとって行われた。たとえば、わが国の固有信仰である神道では、道徳的な善悪も吉凶禍福もともにヨシ―アシということばで表され、それらの間にとくに差異が考えられなかった。マガということばで表現される悪は、世界の秩序を混乱させる作用を意味し、死の穢(けがれ)から生まれた禍津日神(まがつひのかみ)に由来するとされた。一般に悪を超人間的な原理に帰する考え方は、後の時代までも根強く残り、世界宗教のなかにも認められる。キリスト教のサタン、イスラム教のシャイターン、仏教経典にみえるマーラなどがそれにあたる。[田丸徳善]

道徳的意識の覚醒と善悪

このような状態は、ある段階から顕著になる道徳的意識の覚醒(かくせい)に伴って変わってくる。すなわち、悪はもっぱら人間の意志の様態と考えられるようになり、外的な要因から区別される。この変化がいつおこったかは確定しがたいが、いくつかの社会で紀元前数世紀ごろからその兆候が現れてくることは事実である。古代中国における性善説と性悪説との対立はその一例であるが、古代ストア学派の思想はもう一つの例証といってよい。ストア学派では、有徳であること、自然(本性)に従って生きることが善であり、自然に反することが悪であって、それ以外の生命、健康、快楽、病苦、そして死さえもが、どちらでもよいアディアポラ(無記)とされた。ここには、善悪を厳しく人間の意志作用に限定する考え方が示されている。
 このストアの思想は、のちに成立する善悪、あるいは価値の理論への一つの準備形態とみることもできる。いま悪に限っていえば、それは概して三つないし四つの範疇(はんちゅう)に分けられてきた。すなわち、自然的悪(天災、病など)、感覚的悪(苦痛)、道徳的悪(罪責)、形而上(けいじじょう)学的悪(有限性)であり、このなかで最初の二つは、外的な原因によるものとして一括してみてもよい。ライプニッツは、すでにアウグスティヌスなどにも断片的にみられる悪の起源の問題を体系的に取り上げ、いわゆる「弁神論」を展開した。彼はこれらの諸悪を最終的には有限性によるものとし、しかもそれを善の欠如態として説明している。[田丸徳善]

悪の起源とその克服

悪の起源と本質というこの問題は、その様態や基準とともに、哲学的反省の重要な主題をなす。またそれは事物の最終的秩序の問題でもあるから、宗教の次元とも深くかかわってくる。それについては従来ほぼ三つのおもな立場があった。一つは、前述のように悪をいわば実体化してみるものであり、善悪2神の戦いを説くゾロアスター教の二元論がその典型といえる。第二は、諸悪を迷妄ないし無明(むみょう)の所産とみなすベーダーンタ学派(ベーダ聖典の奥義書ウパニシャッドの流れを引くインドの正統思想)や仏教であり、これは究極的には悪を非存在とみなすことで解決しようとする一元論的立場を意味する。そして第三は、上記のキリスト教弁神論にみるように、悪の現実性を認めつつ、しかも最終的にはそれを神の摂理に包摂しようとする折衷的立場である。
 ここで注意すべきことは、宗教においては、道徳と異なって、三つのうちどの立場をとるにせよ、人間世界の悪を認めながらも、最終的にはその克服、宥和(ゆうわ)が目ざされるということである。このように、否定しがたい悪の存在の体験をも意味づけるところに、宗教の重要な働きがある。[田丸徳善]

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精選版 日本国語大辞典の解説

あく【悪】

[1] 〘名〙
① (道徳、正義、法などに反することをいう) わるいこと、よこしまなこと。また、そういう行為、ふるまいをさす。⇔
※観智院本三宝絵(984)上「この人内には悪の心を含めりけれど、外にはなお僧の姿なり」
※野分(1907)〈夏目漱石〉一一「社会の悪(アク)を自ら醸造して」
② 邪気。悪気(あっき)
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「あくをふくめる毒蛇に向かひて」
③ 悪口。悪態。
洒落本・妓娼子(1818‐30)下「よくあくをいひなんす。ちっとだまりなんし」
④ 歌舞伎など芝居で、悪人の役を演ずる者。かたきやく。悪役。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)四「今は敵(かたき)も立役も白い面(かほ)や薄肉とやらでするゆゑ、孰(どれ)が実か悪(アク)かわかりませぬ」
[2] 〘接頭〙
① 道徳、正義、法などにそむくことを表わす。
※梵舜本沙石集(1283)七「善天狗、悪天狗と云て二類あり」
② 望ましくない、好ましくない、快くないなどの意を表わす。「悪条件」「悪趣味」「悪感情」など。
※妾の半生涯(1904)〈福田英子〉一三「婦人の卑屈なる依頼心、亦た最も与(あづか)りて悪風習の因となれるなるべし」
③ (人名あるいはそれに準ずる語について) その人が抜群の能力、気力、体力を持っていて恐るべきであることを表わす。「悪源太」「悪左府」など。
※保元(1220頃か)上「善悪を糺(ただ)されければ時の人、悪左大臣とぞ申しける」

し【悪】

〘形シク〙 物事の本性、状態などがよくない。また、それに対して不快な感じをもつ。悪い。いけない。だめである。⇔よし
① (善悪、正邪の判断の立場から) (物事の本性、本質が)悪い。邪悪である。
※書紀(720)神代上(水戸本訓)「毒(アシキ)酒を醸(か)むで、飲ましむ」
※読本・春雨物語(1808)血かたびら「御心の直きに、あしき神のよりつくぞ」
② (人の性質、態度や物の状態などが)悪くて気に入らない。いけない。けしからぬ。また、思いやりがない。つれない。
※万葉(8C後)一四・三三九一「筑波嶺(つくはね)に背向(そがひ)に見ゆるあしほ山安志可流(アシカル)(とが)もさね見えなくに」
※伊勢物語(10C前)二三「もとの女、あしと思へるけしきもなくて」
③ (運命や縁起が)悪い。ひどい。凶だ。
※枕(10C終)二七六「にくき者のあしき目見るも、罪や得(う)らんと思ひながら、またうれし」
※浮世草子・好色五人女(1686)一「『けふの首途(かどで)あしや』と、皆々腹立(ふくりう)して」
④ (人の機嫌や気分が)悪い。
※竹取(9C末‐10C初)「きたなき所の物きこしめしたれば、御心地あしからん物ぞ」
※土左(935頃)承平五年正月一四日「よね、さけしばしばくる。かじとりけしきあしからず」
⑤ (風、雲、海など自然の状況が)荒れ模様だ。険悪である。
※土左(935頃)承平五年二月四日「けふ、かぜくものけしきはなはだあし」
⑥ (容姿や様子などが)悪い。醜悪だ。見苦しい。
※宇津保(970‐999頃)吹上上「よき女といへど、一人あるは、あしき二人に劣りたるものなれば」
⑦ (血筋、身分、経済状態などが)悪い。貧しい。いやしい。
※大和(947‐957頃)一四八「いかにしてあらむ、あしうてやあらむ、よくてやあらむ」
※蜻蛉(974頃)上「冬はついたち、つごもりとて、あしきもよきもさわぐめるものなれば」
⑧ (技能、配慮などが)悪い。へただ。拙劣だ。
※竹取(9C末‐10C初)「中納言『あしくさぐればなき也』と腹立ちて」
※源氏(1001‐14頃)早蕨「手はいとあしうて歌はわざとがましくひきはなちてぞ書きたる」
⑨ (品質が)悪い。粗末だ。
※枕(10C終)一二二「下衆(げす)女のなりあしきが子負ひたる」
⑩ (動詞の連用形に付いて) …するのが苦しくていやだ。…するのが難儀だ。
※万葉(8C後)一五・三七二八「あをによし奈良の大路は行きよけど此の山道は行き安之可里(アシカリ)けり」
[語誌](1)類義語の「わろし」「わるし」は平安時代に現われる。「あし」が「悪しき道」「悪しき物」のように、客観的な基準に照らしての凶・邪・悪をいうのに対して、「わろし」は個人の感覚や好悪に基づく外面的相対的な評価として用いられる。両語の間には程度の上下が存するという説もあったが、確例は認められていない。
(2)中世のある時期から、「あし」は次第におとろえ、「わろし」から転じた「わるし」「わるい」が、従来の「あし」の意味をも合わせもつようになり、「あし」は、「よしあし」という複合語や文語文の中に残存するにすぎなくなった。なお、室町頃から一時期、口語形「あしい」の形も行なわれた。
あし‐げ
〘形動〙
あしげ‐さ
〘名〙
あし‐さ
〘名〙

あし・い【悪】

〘形口〙 (文語の形容詞「あし(悪)」の口語形) わるい。よくない。
※漢書列伝竺桃抄(1458‐60)陳勝項籍第一「いくさをへたにしてかふあるかと人が思わうずが心ちあしい」
※天草本伊曾保(1593)イソポの生涯の事「ダイイチノ axij(アシイ) モノヲ カウテ コイ」

わり・い【悪】

〘形口〙 「わるい(悪)」の変化した語。
※洒落本・大劇場世界の幕なし(1782)「おつるさん、おらが内へきな、うすげゑぶんのわりい女はおんなのひいきだ」

わる【悪】

[1] (形容詞「わるい」の語幹) 悪いこと。よくないこと。下手なこと。多く感動表現に用いる。
※源氏(1001‐14頃)真木柱「あなはるやといふを、いとあやしう、この御方には、かう用意なきこと聞えぬものを」
[2] 〘名〙
① 悪者。悪人。悪徒。悪党。〔俚言集覧(1797頃)〕
大つごもり(1894)〈樋口一葉〉下「貴様といふ悪者(ワル)の出来て」
いたずらもの。いたずらをする子ども。悪童悪餓鬼
[3] 〘語素〙 種々の語の上に付いて、悪い、不快である、害になる、過度であるなどの意を添える。「わるあがき」「わるがしこい」「わるよい」「わるえんりょ」など。

わる・い【悪】

〘形口〙 わる・し 〘形ク〙 本来「いい(よい)」「よろしい」などに対して、適切でない、劣っているなどの消極的意味をもつ。上代には「あし」があるが、「わるし」は「わろし」とともに平安時代に入って例を見るようになり、さらに口語としては「わるい」が一般化した。
① あるべき状態でない。
(イ) 不適切である。不都合である。また、好ましくない。感心しない。いけない。「口がわるい」
※枕(10C終)二四「宮仕する人を、あはあはしうわるきことにいひおもひたる男などこそ、いとにくけれ」
※羽なければ(1975)〈小田実〉二八「だんだん寒うなって来て、老人にはわるい季節ですわ」
(ロ) 道徳上よくない。社会的な通念、道に反する。また、性質がよくない。
※寛永七年刊本大学抄(16C前)「桀紂がわるい事をする程に天下の民も暴虐をする也」
(ハ) めでたくない。運にめぐまれない。不吉である。「日がわるい」「わるい知らせ」
※枕(10C終)九〇「宮の五節いださせ給ふに〈略〉女御・御息所の御方の人いだすをば、わるきことにすると聞くを」
② 価値や品質、機能、成績などの程度が低い。
(イ) 上等でない。十分そなわっていない。「頭がわるい」「質がわるい」「安かろうわるかろう」
※京大本臨済録抄「木塔禅は老婆のこせついたやうな禅でわるいぞ」
(ロ) 地位や身分、生活程度が低い。
※古今(905‐914)雑下・九九四・左注「この女おやもなくなりて、家もわるくなり行くあひだに」
(ハ) 容貌などが美しくない。みにくい。みっともない。
※虎明本狂言・眉目吉(室町末‐近世初)「いのちをうしなふとも、みめわるふなる事は、めいわくでござる」
③ 気持がよくない。快くない。不愉快である。
※蜻蛉(974頃)下「わるく聞えさする、御気色もかかり」
④ 期待される状態でない。のぞましくない。
(イ) 食べ物がいたんでいる状態である。「冷蔵庫に入れ忘れたこのサラダはわるくなってしまった」
(ロ) 病気や故障が望ましくない状態・程度である。
※当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉一一「自分で身体を不健(ワルク)するよ」
(ハ) 活気がない。劣勢である。
※伊豆の踊子(1926)〈川端康成〉三「『これぢゃ仕方がありません。投げですよ』『そんなことがあるもんですか。私の方が悪いでせう〈略〉』」
(ニ) 取引市場で用いる語。相場が下がって活気がない。〔取引所用語字彙(1917)〕
⑤ 間柄がうまくいっていない。むつまじくない。「二国間の関係が悪くなる」「仲が悪い」
⑥ 好ましくない結果をまねく。ためにならない。
(イ) 不都合を起こした原因である。「夕べの飲み過ぎがわるかった」「この状況は政治が悪い」
※人情本・春色梅児誉美(1832‐33)四「母が恩ある家へ対して、済ぬのなんのと得手勝手、みんなわたしがわるかった」
(ロ) 申し訳ない。相済まない。「わるいけど、このコピーをとってください」
※人情本・閑情末摘花(1839‐41)初「大人しい息子を、唆のかしちゃア悪(ワル)いと思って」
⑦ 善意でない。悪意がある。「意地が悪い」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三「おねがひ申して置くンですよ。わるくお聞きなすっちゃアいけないよ」
⑧ やり方や程度が適切でない。
(イ) やり方が下手である。上手でない。
※浄瑠璃・五十年忌歌念仏(1707)上「わるい工面な為され様」
(ロ) 配慮が十分でない。丁寧でない。ぞんざいである。
※洒落本・傾城買二筋道(1798)冬の床「意地にかかってわるくしなんすが、ついぞはらをたちなんした事もなく」
(ハ) 度が過ぎる。
※滑稽本・戯場粋言幕の外(1806)上「おきやアがれ。悪(ワル)くおりるぜへ」
わる‐が・る
〘他ラ五(四)〙
わる‐げ
〘形動〙
わる‐さ
〘名〙

わる・し【悪】

〘形ク〙 ⇒わるい(悪)

わろ【悪】

(形容詞「わろい」の語幹) 悪いこと。わる。感動表現に用いる。
※源氏(1001‐14頃)手習「猶わろの心や」

わろ・い【悪】

〘形口〙 わろ・し 〘形ク〙 本来、「よろし」の反対で、物事の程度が普通より、あるいは他に比して劣っている意を表わす。「あし」よりは程度が軽く、消極的によくないと判断する場合などに用いる。後世は、「わるい」が多く用いられる。→わるい
① あるべき状態でない。
(イ) 不都合である。好ましくない。いけない。
※宇津保(970‐999頃)蔵開中「いとわろき朝臣なりけり」
※日葡辞書(1603‐04)「Varoi(ワロイ)。ワルイに同じ。〈訳〉悪い。文書ではワロシが用いられる」
(ロ) めでたくない。運にめぐまれない。不吉である。
※能因本枕(10C終)九四「こと所には、御息所の人出だすをば、わろき事にぞすると聞くに」
(ハ) 性質がよくない。たちがよくない。
※大唐西域記長寛元年点(1163)三「人性は怯(つたな)ふ懦(ワロク)して」
(ニ) 間違っている。誤りである。
※徒然草(1331頃)一六〇「行法も、法の字を澄みていふ、わろし。濁りていふ」
② 価値や品質、程度などが劣っている。
(イ) 上等でない。
※竹取(9C末‐10C初)「其中に此とりてもちてまうできたりしは、いとわろかりしかども、の給しにたがはましかばと此花を折てまうで来る也」
(ロ) 地位や身分、生活程度が劣っている。
※前田本枕(10C終)四五「姿なけれど、すろの木、唐めきて、わろき家のものとは見えず」
(ハ) 見劣りがする。みっともない。また、容貌などが美しくない。みにくい。
※枕(10C終)四八「下襲の裾みじかくて随身のなきぞいとわろきや」
③ 期待される状態でない。のぞましくない。
(イ) 食べ物がいたんでいる状態である。
※古今著聞集(1254)一八「瓜をとりいでたりけるが、わろくなりて、水ぐみたりければ」
(ロ) 勢力などが衰えている。貧しい。乏しい。
※大和(947‐957頃)一四八「年頃わたらひなどもわろくなりて、家もこぼれ」
④ やり方などが上手でない。できがよくない。下手である。
※落窪(10C後)二「蔵人少将の君も、御衣どもわろしとて、出づと入と、むつかりて著給はず」
わろ‐が・る
〘他ラ四〙
わろ‐げ
〘形動〙
わろ‐さ
〘名〙

わろ・し【悪】

〘形ク〙 ⇒わろい(悪)

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