〘形シク〙 物事の本性、状態などがよくない。また、それに対して不快な感じをもつ。悪い。いけない。だめである。⇔
よし。
① (善悪、正邪の判断の立場から) (物事の本性、本質が)悪い。邪悪である。
※書紀(720)神代上(水戸本訓)「毒(アシキ)酒を醸(か)むで、飲ましむ」
※読本・春雨物語(1808)血かたびら「御心の直きに、あしき神のよりつくぞ」
② (人の性質、態度や物の状態などが)悪くて気に入らない。いけない。けしからぬ。また、思いやりがない。つれない。
※万葉(8C後)一四・三三九一「筑波嶺(つくはね)に背向(そがひ)に見ゆるあしほ山安志可流(アシカル)咎(とが)もさね見えなくに」
※伊勢物語(10C前)二三「もとの女、あしと思へるけしきもなくて」
③ (運命や縁起が)悪い。ひどい。凶だ。
※枕(10C終)二七六「にくき者のあしき目見るも、罪や得(う)らんと思ひながら、またうれし」
※浮世草子・好色五人女(1686)一「『けふの首途(かどで)あしや』と、皆々腹立(ふくりう)して」
④ (人の機嫌や気分が)悪い。
※竹取(9C末‐10C初)「きたなき所の物きこしめしたれば、御心地あしからん物ぞ」
※土左(935頃)承平五年正月一四日「よね、さけしばしばくる。かじとりけしきあしからず」
⑤ (風、雲、海など自然の状況が)荒れ模様だ。険悪である。
※土左(935頃)承平五年二月四日「けふ、かぜくものけしきはなはだあし」
⑥ (容姿や様子などが)悪い。醜悪だ。見苦しい。
※宇津保(970‐999頃)吹上上「よき女といへど、一人あるは、あしき二人に劣りたるものなれば」
⑦ (血筋、身分、経済状態などが)悪い。貧しい。いやしい。
※大和(947‐957頃)一四八「いかにしてあらむ、あしうてやあらむ、よくてやあらむ」
※蜻蛉(974頃)上「冬はついたち、つごもりとて、あしきもよきもさわぐめるものなれば」
⑧ (技能、配慮などが)悪い。へただ。拙劣だ。
※竹取(9C末‐10C初)「中納言『あしくさぐればなき也』と腹立ちて」
※源氏(1001‐14頃)早蕨「手はいとあしうて歌はわざとがましくひきはなちてぞ書きたる」
⑨ (品質が)悪い。粗末だ。
※枕(10C終)一二二「下衆(げす)女のなりあしきが子負ひたる」
⑩ (動詞の連用形に付いて) …するのが苦しくていやだ。…するのが難儀だ。
※万葉(8C後)一五・三七二八「あをによし奈良の大路は行きよけど此の山道は行き安之可里(アシカリ)けり」
[語誌](1)類義語の「わろし」「わるし」は平安時代に現われる。「あし」が「悪しき道」「悪しき物」のように、客観的な基準に照らしての凶・邪・悪をいうのに対して、「わろし」は個人の感覚や好悪に基づく外面的相対的な評価として用いられる。両語の間には程度の上下が存するという説もあったが、確例は認められていない。
(2)中世のある時期から、「あし」は次第におとろえ、「わろし」から転じた「わるし」「わるい」が、従来の「あし」の意味をも合わせもつようになり、「あし」は、「よしあし」という複合語や文語文の中に残存するにすぎなくなった。なお、室町頃から一時期、口語形「あしい」の形も行なわれた。
あし‐げ
〘形動〙
あしげ‐さ
〘名〙
あし‐さ
〘名〙